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探索 モニターの向こう側

翌朝。この日は休息日だった。セイは早々、隊長に呼ばれて行ってしまった。何でも、先遣隊を派遣して、A地区の鬼がいなくなったかを確認するらしい。僕は、脱衣所で鏡を眺めた。首の傷にはセイが絆創膏を貼ってくれた。僕は思うところがあって、訓練室に向かった。訓練室には一人の女の子が、人形に向かってダガーを振るっていた。

「先輩?」

女の先輩だった。

「訓練ですか?」

「見てわからない?」

「・・・。」

先輩を見つめる。彼女は休みを返上してまで訓練していた。なぜ?

「どうして頑張るんですか?」

「武勲が欲しいから。よりいうと、特別待遇が欲しいのよ。」

「どうして?」

「妹が病気なの。肺が弱くてね。」

「そうなんですか。」

「武勲があれば、これから先の生活を保障するといった。あたしは、妹が病気に苦しまず生活できる環境が欲しい。」

「妹のためだけに?どうして?」

「どうしてばっかね。大事だからに決まっているでしょ。今となっては唯一の家族よ。」

妹のため。そのために彼女は危険に身を投じている。正直、一人っ子のユキには理解できなかった。周りの友達も、どちらかというと兄弟仲が悪かった。大概兄妹の憎まれ口をたたく。みんなが自分を優先する中で、彼女は立派だなーと人ごとのように思っていた。

「ケイト。」

「え?」

「あたしはケイト。あたしに背中を任されるぐらいになって頂戴。」

「ユキって言います。頑張ります。」

その後しばらく、ケイトと一緒に訓練した。とはいっても、動かない人形に向かって、剣を振り下ろす練習だ。それでも、鬼を殺しなれない僕にとっては、意味がある事のように思えた。

昼飯時、セイが帰って来る。二人きりで一緒に食事をとろうと誘われ、プレートを部屋に運ぶ。

「二人きりがいいなんてどうしたんだ?」

「俺の顔を見ながら食べてほしいなと思って。」

独占欲。見たとこで、なんともなー。とは思ったが、彼の機嫌がよくなるならと我慢することにした。

「先遣隊はどうだったの?」

「A地区での鬼の死滅を確認したよ。とはいえ、外から流れてくることもまだあり得るからね、シェルター生活は手放せないな。」

「そうか。」

安心半分がっかり少しと、未知の未来に不安を感じた。

「次はどこに派遣されるんだろう?」

「多分B地区だろうな。ここからまだ近いし、鬼の数も確認されている限りでは少ない方らしい。」

「どうやって確認したの?」

「先遣隊と監視カメラ。この都市ぐらいなら、把握できる。」

「また近々呼ばれるってことか・・・。」

正面にいたセイが隣に来てよしよしと頭をなでる。されるがまま撫でられる。

「大人の討伐隊って何人ぐらい残ってるの?」

「んー。先遣隊も含めても両手で数えられるぐらい。」

「それだけ?!」

「本当はもっといたんだけど、鬼にやられてね。まあ、無能も多かったかな。その点、先遣隊に選ばれてる人たちは優秀かな。」

数の補充。先の子供の戦地投入はやはりそれなのかもしれない。

「偉い大人も戦ったらいいのに。」

「人には向き不向きがあるからね。どちらにせよ彼らは会議室の椅子でふんぞり返っているのがお似合いだよ。」

「僕らは命を懸けてるのに。」

「まあ、それ以外の保証をくれるからね。」

悔しいが、食料も、衛生も、寝床も与えられたものだった。

「鬼殺しはつらいよ。運が悪けりゃ昨日死んでたし。」

「生き残れたんだから、いいじゃない。俺はこうやって、ユキをよしよしできるの嬉しいよ。」

「はぁー。」

くそでかため息。セイといるのも窮屈な感じがする。食事を終わらせ、気分転換に借りたラノベを読む。


セイの父親であるツミはモニターに映し出された映像を食い入るように見ていた。こことは違う都市のシェルターを映したカメラだ。カメラには惨殺死体が積み上げられていた。ご丁寧に顔までわかるように。富豪に、官僚の知り合い、政治家、総理大臣までもが並べられていた。

「ちっ。」

舌打ちをする。日本人の社会復帰はまた遠のいた。映像を巻き戻すように指示する。映像が巻き戻る。二本の角を生やした、和装の美女が、総理大臣の体を、カメラに見えるように置いた。カメラに向かって怪しく艶めかしく手を振る。鬼の中でも、位があるとされるのはわかっていた。上位の鬼だ。ツミはそう思った。二本角。それから、さらに巻き戻すように指示する。巻き戻って、たくさんの小鬼が死体を運ぶ様子。どれも一本角。鬼を使役している。二本角の美女が再び映る。この鬼が指示役で、鬼に人々を襲わせているのは明白だった。ツミは目を閉じて記憶を呼び覚ます。駅の一角、惨殺された死体の傍らには常に二本角の鬼がいた。超常的なスピードで人を殺し、カメラに向かって挑発するように手を振る。二本角は特別な力を持ち、強い。だが、弱体化しているのも事実だろう。目を開け、さらに巻き戻すように指示を出す。二本角。それが現実的なスピードで、とはいえ速いが、人々を殺していく。椅子に座って、息を吐く。隊長がその見た目に似合わず、コーヒーを入れて持ってくる。

「その様子だと、一番シェルターは全滅か。」

「ああ。例の二本角だ。手際のいいもんで。」

ツミが顔をしかめながらコーヒーをすする。

「その前は四番シェルターもやられた。また違う二本角。」

「厄介なもんだな。うちの戦士はろくに育ってないっていうのに。」

「二本角にかないそうなのは?」

「セイぐらいだろうな。お宅の息子さん。それも、肉盾があってだ。」

「初期の討伐隊はほぼ全滅で、二本角を一匹か。」

「倒せるってことがわかっただけでも収穫ではあったな。」

「若いので期待ができそうなのは?」

「嬢ちゃんが一人。ケイトっていう。やる気も実力も悪くない。初日含めて五匹は狩ってる。」

「他は?」

「ユキって男の子。あんたの息子のフィアンセは、将来性はある。」

「将来性だけでは困る。二本角がいつここにまた来るか・・・。」

「移動の可能性は低いと思うけどな。テリトリーがある感じだし。まあ、小鬼に関しちゃ別だが。」

「兵器の開発が急がれるな。」

「あの先生一人じゃ限界があるだろうがな。音響兵器をもう一度使うという手は?」

「これ以上の効果は見込みが薄いだろう。殺せるほどじゃない。人が無駄に死ぬだけだ。捨て駒は用意できない。」

「あいつらも天国で悲しんでるだろうな。自分たちが犠牲になって、発動した音響兵器が、鬼を弱体化させる程度だと知って。」

「戦士の新規投入は?」

「育成までだな。とりあえず六割の兵がいれば、B地区は行ける。あそこは二本角がいない。B地区には自衛隊の跡地がある。先生の手助けになるだろう。」

「諸外国からの救援はどうだ。」

「応答なしだ。音響兵器を使った日からそもそも反応がどこからもない。」

「だんまりを決め込む気か?」

「さあ、だあれも上がってこないからなー。何かあったのかもしれん。」

「ちっ。」

もう一度舌打ちをして、コーヒーを飲み干す。

「こんなのでは疲れが取れないな。」

「コーヒー様の神話も終わりか。全部飲み干しやがって!カフェイン中毒者め!」

「食料の方はどうだ?」

「貯蔵はあと十年は持つだろうよ。あんまり我がまま共が無茶言わなきゃだが。田畑もあるし平気だろう。」

「協賛者の方々のことは仕方あるまい。多少の無茶は通せ。それと後方支援部隊に資源の回収をさせろ。」

「あいよ。A地区の安全はほぼほぼ保障できるしな。あそこには幸い大型ショッピングモールもある。資源については心配ないだろう。」

隊長が後方支援部隊に指示を出しに去って行く。ツミは相変わらずモニターの二本角を眺めていた。

「お前たちはどこから来たんだ・・・。」


館内放送で、後方支援部隊の招集を聞いて、ユキはうっすら嫌な予感がしていた。間を開けて、Aチームが呼ばれる。後ろからついてくるセイにわずかながら安心感を覚え、広場に向かう。

「後方支援部隊並びに、AチームにはA地区で、物資収集をしてもらう。Aチームは念のための護衛だ。危険は少ないはず。とはいえ、油断せずにかかれ。」

「なぜ物資収集を?」

後方支援部隊の子が聞く。

「念のための資源確保だ。」

それを聞いて不安になる。資源が足りていないんじゃないかと。

「どういったものを集めればいいですか?」

「主に食料。次いで医療品。必要だと思う物があれば各自で適切に判断しろ。」

こうして休みを返上した三人だけのAチームは、後方支援部隊の後に続いた。外はまだ明るい。大型ショッピングモールまでの道のりはそんなに遠くない。資源を多く持ち帰られるように後方支援部隊が台車を押していく。ヒナタが言った。

「おもちゃとか持ち帰りません?」

後方支援部隊の子が賛同する。

「いいですね。娯楽は必要ですもんね。」

ケイトが注意する。

「こら、周りの気配に集中しなさい。襲われたらひとたまりもないんだから、まじめにやって。」

「ごめんなさい。」

ヒナタがシュッと小さくなる。僕は周りの様子を窺った。そんな僕に無理を言ってついてきたセイが話しかけてくる。

「気配とかわかるようになったの?」

「いや、全然。でも、集中してた方が何かあったときに反応しやすいし。」

「これがデートだったらな・・・。後で二人だけで抜け出さない?」

「抜け出さないよ!まじめにやって。」

「厳しいなーユキは。はいはい。」

大型ショッピングモールに着く。効率を重視して、分かれて収集に向かうことになった。僕は三階にある、おもちゃショップや本の回収をする子の護衛に着くことになった。本屋には読みたかった本が置かれている。僕はそれを取って、台車に入れた。

「ああ、このシリーズ面白いよね。」

「読んだことあるの?」

「こうなるその日の前に読んでた。お母さんからの餞別でさ、シリーズ丸々大人買い。まさかこんなことになるなんてね。お母さんに素っ気無くするんじゃなかった・・・。」

こういう後悔は誰でもするもんなんだなと思った。彼が台車に次々荷物を載せていくのを眺めながら、僕はセイに聞いてみた。

「セイのお母さんてどんな人?」

ただの興味本位で一般的な会話。

「その話はよせ。」

短く返される。セイの表情を見ると、僕が他の子と話しているとき以上の不快な顔。

(ただ聞いただけじゃん。)

その答えが不快で、僕は黙る。

「終わったよ。」

微妙な空気が流れる中、それを断ち切るように彼が終わりの合図を出した。いまだ生きていたエレベーターから、一階に降りるともうみんな集まっていた。

「終わったわね。帰りましょう。」

ケイトがそういうとみんなが帰路を歩きだす。僕は完全に気が緩んで、影から覗く何かの気配に気づけなかった。覆いかぶさられる。

「ユキ!」

セイが走って来るのが見える。僕はとっさに鬼の顔面を殴った。鬼からケタケタという音が鳴る。セイの斧が、鬼を壁に吹っ飛ばす。僕は立ち上がる。くらっとした。胸から血がドバドバと出ていた。パニックになる。なんで?よろめいて座り込む。セイが鬼の頭を切り飛ばすと駆け寄って来る。

「すぐ手当てしてやる。」

服を脱がされ、何処からか持ってきた包帯を圧迫しながら巻く。そのまま抱き上げられて、

「先に戻るわ。」

セイがそういって走る。シェルターまでの道のりは近かった。医務室に運び込まれる。医者の先生曰く、傷は浅いらしい。俺はほっとしてため息をつく。セイは俺よりも焦ったのか、よかったと言いながら俺を強く抱きしめる。

「ごめんな。ピリピリしちゃって、注意がそれてた。」

僕のした質問のせいだろう。

「僕が変なこと聞いたせいだ。ごめん。」

「いや、いいんだ。恋人として、そりゃ両親のことは知っておきたいよな。」

何処かずれたセイに首を傾げそうになりながらもこらえて、じっと見つめる。セイは、決心したのか頷くと、

「母親は浮気して出ていったんだ。」

つぶやくようにそう言った。

「俺がまだ小さい時だった。俺はそれから浮気を許せなくなった。だから、ソウコの時も・・・。」

なるほどと思った。浮気に対して特別な嫌悪感があるようだった。

「ユキが浮気なんてしたら俺、生きていけなくなる。もしそうなったら、殺して後を追うからね。」

にっこり笑いながら言う。相変わらず愛が重い。そうならないことを願うばかりだ。

後方支援部隊とAチームの二人が帰って来る。迎えに出ると心配された。大丈夫だと胸を張って見せると、みんな安心したようだった。お目当てだった本を手に取る。頑張ったんだしちょっとぐらいいいよな。後方支援部隊おもちゃ担当の彼が、にっこりしながら

「後で感想聞かせてね。」

といった。俺は頷き部屋に戻る。


ツミは回収された資源を確認しながら、隊長に問うた。

「これは必要だったのか?」

おもちゃや本を指さす。

「ガキらには必要だったんでしょう。」

「はあ、子供というのも困ったものだ。」

ツミはその中にあったコーヒーの粉末の袋を拾いあげる。

「これは回収させてもらおう。」

「職権乱用め。」

「有意義な活用と言ってもらおうか。」

ツミはモニターを付け、B地区の様子をうかがう。

「デカいのがいる。」

「Aチームとセイに処理してもらいましょっか。」

ツミは頷くとモニターを消す。

(Aチーム。期待しているぞ。)

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