初戦 軽々しく近い死
外はすっかり冬だ。絶え間なく雪が降っていた。Aチームは僕を含めて全部で五人。うち二人が先輩だ。そのうちの女の先輩が言う。
「あたしは成果が欲しいから、鬼見つけたらガンガン攻めるから。」
正直安心した。先輩に任せれば勝手に武勲がつくと思ったから。そうすれば、生き残ることにだけ集中すればいい。でも、そんな考えが甘かったことに、すぐさま気づかされる。もう一人の先輩の頭が、気づくと飛んでいた。僕ら後輩はとっさのことに呆然とする。
「武器を抜け!鬼だ!」
女の先輩が叫ぶ。ほぼ反射的に剣を抜いていた。そこに鬼がとびかかって来る。重い。押しつぶされそうになってよろける。そこを女の先輩がダガーで切りかかる。鬼の首が切れた。ダガーは半分ぐらい首に刺さっていた。はずなのに、鬼は軽やかに動き、反応し損ねた仲間の少女の首を刈った。
「ちっ。浅かった。」
ここまでとは思っていなかった。先輩たちの初日は、全員生存だった。だから今回に限りそうだろうと思っていた。先の戦いで、A地区の鬼は数を減らしているだろうし、残っているのは鈍いやつだけ。そんな幻想を抱いていた。ところがどうだ、仲間はすでに二人も殺され、今僕は死にかけているようなもんだ。腰が引ける。その結果、鬼の次の一手を待つ格好になった。鬼が飛び込んでくる。剣でガードする。鋭い爪が、首の皮をひっかいた。ツーっと血が出る。血の気が引いていくのが嫌でもわかる。殺されたくない!その思いだけで剣を思いっきり振るった。大ぶりな攻撃に、鬼は簡単によけ追撃を入れに来る。重い。体重をかけた一撃。僕の腕が悲鳴を上げるが、幸いまだ折れていない。女の先輩が隙を見て、ダガーを突き立てる。今度は完全に首を切り落とした。首が転がって、もう一人のメンバーの足元で止まる。彼女は驚いたのか、腰を抜かし、情けなく泣く。
「もう、嫌。」
女の先輩が首から角を剥ぎ取る。
「まだ、始まったばかりだから・・・。立て!」
強引に少女を立たせ、索敵を命ずる。少女はあきらめたのか、泣くのをやめて、あたりの様子に気を配る。僕も気配を探る。そうは言っても、鬼の気配なんてわからない。雪が木々に残った葉っぱを引きずり落とす音でビクンと体が跳ねる。女の先輩が足を止める。
「見えるか?あそこにいる。鈍いやつだ。二人で不意打ちに行ってこい。」
そう命ぜられ、少女と顔を合わせる。
「無理です。」
「行け!」
短く命令される。しぶしぶ建物の陰に隠れながら、鬼に気づかれないことを祈りながら、近づく。少女に耳打ちする。
「僕が後ろから行くから、仕留め損なったら、追撃をお願い。」
少女が頷く。自分から動こうと思ったのは、少女の震える手を見て、仕留め損なわれたら命が危うくなるから。それなら自分でやった方がましだと思った。息を止める。少女の乱れた呼吸だけが耳につく。剣を振り下ろす。鬼の頭が割れる、嫌な感触が手に刻まれる。鬼が崩れ落ちる。動かない。
「やったの?」
少女が尋ねる。僕はそれには答えず、腰にぶら下げたナイフを取り出す。角を剥ぎ、少女に渡す。
「戻ろう。」
ナイフをしまいながら言った。元の場所に戻ると誰もいない。困惑しつつも、待ってみようと言って、女の先輩を待つ。しばらくすると、角をもう一つ持った女の先輩が帰ってきた。
「案外早かったのね。もっと時間がかかると思ってた。」
少女が角を渡す。女の先輩が受け取ると、
「もう少し歩きましょう。」
と言った。日は傾きつつある。
「夜が来ます。」
進言してみる。
「ギリギリまで狩れる。」
彼女の目は本気だ。宣言通り、成果を出す気で満々だった。A地区の端の方を歩き回り、夜が来る。意外にもそれ以上鬼には遭遇しなかった。安堵のため息を吐く。
「帰るわよ。」
その一言がどれだけほしかったか。シェルターに戻ると、すでにほとんどの隊が帰ってきているようだった。ギリギリまでいたのは、僕らの隊ぐらいなものだろう。
「六割か。」
隊長がつぶやくのが聞こえた。生き残った人数の事だろう。朝見た時よりも、明らかに減ってはいた。
「皆しっかり休憩するように。」
その声にやっと、肩の力が抜ける。張りつめていたことに気づかされる。食堂。今日一緒に戦った女の子を見かけ、その子の前に座る。セイがすかさず隣に座る。
「やり遂げたね。」
声をかける。
「さっきはありがとうね。私、震えが止まらなくなっちゃって。」
「仲間だからね、助け合って生き延びないと。」
「私っヒナタて言います。名前聞いてもいいですか?」
そう言えば名前すら知らない子とチーム組んでたなと、思い出させられる。
「ユキ。これからよろしく。」
「ユキ君!本当にありがとね。」
「ユキは何匹狩ったんだ?」
セイが聞いて来る。
「動かないのを一体。」
「上々なスタートじゃないか。」
「でも、二人もやられた・・・。」
「些細な問題だよ。君が生き残ったならね。」
複雑な顔をする。セイはお構いなしのようで、
「背中を預ける時は近いかもね。」
そんなことを言っていた。
風呂に入って、首を洗ったときに滲みることに気づいた。あの光景がフラッシュバックする。仲間の首が飛び、自分も殺されかけたことが。動きを止めて固まる。
「大丈夫?怪我したのか?」
セイが尋ねてくるも反応できない。深呼吸をする。
「後で絆創膏貼って。」
そういって、湯船につかる。温かい。生きてる。いつも通り、彼の腕に抱かれて寝る。夢を見た。首が飛ぶ瞬間が何度も再生される。それに釘付けになる。早く覚めてほしかった。




