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訓練 死なないためにも

A地区での作戦は、結果的には成功だったと言えよう。鬼の大半を討伐することに成功したわけだから。結果だけ言うと、大半の子供だけで編成された討伐隊は死亡した。生き残ったのは三割。隊長は上々だったと後に語る。その中にはアオイもいた。彼女が言うに、

「最初は良かった。鬼を案外あっさり倒せたから。建物の中にボーっと立ってるだけで、不意を突けば一瞬だった。力もそんなにいらない。角を剝ぐ方が大変だったかな。風向きが変わったのは、複数チームで、大型ショッピングモールに入ったとき。鬼が不意打ちしてきたんだ。それで何人かやられてさ、隊がパニックに陥って、ばらばらになったところをさらに追撃されて。相手は複数の鬼だった。最初に倒した隙だらけの鬼と違って素早くて、バラバラに動いているとはいえ連撃にたじろいじゃって。最初のこともあって、油断してた子が大半だったから皆死んじゃった。」

アオイは妙に落ち着き払っていた。

「私が生き残れたのは、かなり慎重に索敵してたからだと思う。不意打ちにすぐ気づいて、声をあげたの。それでも、他の子は間に合わなくって。体の大きい子が率先して倒しに行ってくれたから助かったよ。」

アオイが手に持った角をなでる。僕はそれをじっと見つめた。

「あげないよ。」

はにかむ。僕は首を振って、彼女から離れる。アオイはハイになっているのかもしれない。そんなことがあって、現実から遠ざかりたいのかもしれない。事実を客観視して。あくまで冷静を装っている。僕はアオイがかわいそうに見えていた。先のことも考えず。その番はまもなく来る。セイはいつもと変わらなかった。僕からのハグやキスを求めて、

「頑張ったでしょ。」

そういうスタンス。だからそれに答えてやる。食堂に隊長がやって来る。

「しばらくは休みたまえ。次の作戦は十分に休んだ後に実行する。それから、十六から十五のものは訓練を始めるため、心の準備をしておくように。」

心拍数が一気に跳ね上がる。この状況で、大半のものが帰ってこなかった日に、この告知は残酷だった。つまりあれだ。僕らの訓練が終わって、戦場に投入されれば、七割は死ぬのが確定しているようなものだった。そこらで泣き声が聞こえる。死者を悼む泣き声と、これから訪れる死への恐怖による泣き声。それでも僕らに拒否権はない。その日はセイの腕に抱かれながらも、一睡もできなかった。


訓練部屋に集められた戦士候補たちは、いかにして徴兵を免れるかを考えた。訓練人形を前にして、隊長が武器の振るい方を教える。力なくたたくもの、わざと外す者、そもそも泣いて動けない者、様々居たが隊長にとって、それは当に見越したもので、まじめに訓練をできない者は食事を抜いて、訓練の時間まで部屋待機とした。さすがにそれは嫌がるものが多く、皆真面目に訓練に参加しだす。それでも、動けない子は一定数いた。隊長はそんな子たちを放って使えそうな子を重点的にしごいた。才のなさそうなものは軽く教えただけで放置。それの物語るところは、そもそも数を集めたのは、肉壁とするためなのかもしれないと僕は勘繰りだした。そもそも少数でも生き残って、良い戦士となってくれればいいのだ。大人たちにとって、最初から子供は何かあったときの駒の一つにすぎぬのだと悟った。僕は励んだ。健康である以上失格組にはなれないし、ほとんど戦えなくても役割は与えられる。ならば、手ほどきを受けられるような子になって、少しでも生存率をあげようとしていた。死にたくない。それが根底に強固にあった。セイがそばに来る。

「励むね、ユキ。僕が守ってあげるのに。」

「まだ死にたくないからね。追い出されるのも嫌だし。」

「ユキ、太刀筋そんな悪くないよ。その分なら、しばらくはやってける。」

俺はセイを見た。お世辞ではなさそうだ。真剣な顔。その言葉に安心感を覚えて緩む自分がいる。首を振る。油断してたら七割の二の舞だ。引き続きまじめに励む。訓練が終わって、食事の時間になる。一部の者は宣言通り、部屋待機になった。僕はアオイのそばの席を取った。隣にセイが来る。それを無視して、アオイに話しかける。

「アオイ。外での作業って、サボったりできるの?」

「はは、何何?もうサボる気満々?チームで監視しあう空気あるし、成果を立てられないと何言われるかわかんないし、厳しいと思うよ。」

「そっか。」

僕は少し落ち込んだ。鬼とは対面せにゃならん。

「訓練の調子はどう?」

「セイには大丈夫って言われた。」

セイの方を見る。アオイと話しているのが不満なのか若干機嫌の悪いセイが頷く。

「まあ、頑張ってね。後輩君。」

「うん。」

訓練は一月ほど続いた。先の討伐隊はその間完全に休みだった。僕は頑張った。一か月で身に付けられるものは身に着いた。隊長に褒められる。

「先の訓練期間中のケイト君張りに頑張ったな。」

ケイトという人も励んでいたらしい。僕はお礼を言って訓練部屋を後にした。その夜、発表があった。数名の失格者の名前をあげて、後方支援部隊と名付けた。そして、運命の討伐隊チーム発表。僕はAチームに配属された。先輩も混ぜた混合チームになるらしい。それを聞いてちょっぴり安心した。先輩に任せれば、少しは安全かもしれないと思ったから。セイは釘を刺されていた。仕事を優先するようにと。それに関しては残念だった。セイに守ってもらえないかもしれない。その夜、僕はセイの腕の中で確認する。

「鬼は人に成り代わったりもするんだよね。」

「皮を奪ったやつのな。死んだ人間に不用意に近づかなきゃ大丈夫だ。」

「セイ。」

「ん?」

「僕のこと見捨てない?」

「ああ。守るよ。」

唇にキスをされる。それは誓いのキスだった。


翌朝。シェルター入り口前の広場に集められる。

「今日はA地区の残党狩りだ。先輩に倣って、足を引っ張らないように。では、解散!」

とうとう鬼退治が始まった。ユキは震える手をごまかすように剣を握り、一歩外へと踏み出した。

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