変化 変わりいくもの
シャロは町の一角で探し物をしていた。子供の落とした猫のぬいぐるみ。なかなか見つからず、困っていた。そこに銀姫が表れる。
「街はすっかり落ち着いたの。童達が良く駆け回っておる。」
「復興も順調に行きそうでしてよ。大人たちの話し合いが毎夜長く続いていますわ。」
「人は強いのー。ここまで数を減らしても、立ち上がろうとするんじゃ。」
「これからの都市開放はどうするのかしら?」
「さあな、わしには何も。」
空手道場。訓練室として改造されている。ユキは熱心に剣を人形に打ち込んでいた。そこにセイが弁当を持ってきた。
「一緒にどう?」
・・・
「しばらくは内政で忙しそうだね。鬼はどうするんだろう?」
「攻めてくるわけじゃないし、放置みたいだ。F都市とG都市との境に先遣隊を配備するみたいだ。鬼も一部協力してくれるらしい。献血は義務になりそうだ。協力関係の鬼に配るらしい。」
「鬼を目覚めさせたものは結局何だったんだろう?」
「年数じゃないか?千年たったとか言ってたぞ。」
「なんか、他の原因もある気がして。」
「心配のしすぎじゃないか?三本角も倒したし、平和そのものだな。」
「でも、あの頃の日々は返ってこない。」
「それでもだいぶましだろうよ。」
「かもね。」
ツミは度重なる話し合いで疲れていた。隊長が話しかける。
「少し暇でも貰ったらどうだ?」
「そういうわけにもいかない。それに。」
隊長が首をかしげる。
「それに、まだ終わっていない。」
「鬼の事か?」
「ああ。」
「鬼たちを目覚めさせたものがいるはずなんだ。まだ戦わねばならない。」
「小僧たちももう疲れただろうさ。」
「わかっている。」
「なあなあにしちゃっていいんじゃないか?案外向こうもあきらめてるかもよ。」
「そうだと思えない。憎しみが、三本角の比じゃない。」
「俺ぁ、疲れたよ。」
「暇を出そうか?」
「お前が働くなら休まねぇって決めてんだ。」
「お互い苦労するな。」
何処かの地。何かがふつふつとしていた。
「さあ、目覚めて厄災よ。人はまだ生きている。全部殺して終わらせて。私を救って。」
一人の鬼が目覚めた。その名は、酒呑童子。最強最悪の鬼。
ソウとヨウは、デートしていた。真昼間、他の子どもたちの目もある中、熱烈なキスをしていた。
「見ちゃダメ。」
小さな子供を抱えていく、高校生ぐらいの少女。
「ここはすっかり平和だな。」
「そうね。結婚式でも上げたいわ。」
「ふふ。気が早いねヨウは。」
ソウはアクセサリーショップの前で足を止めた。
「高級そうだ。中に入って指輪を見よう。」
「買ってくれる?」
「報酬が出たらね。」
ヨウはダイヤのついた指輪を食い入るように見る。
「これがいいなソウ。石はもっと大きくてもいいけど、こういうのがいい。」
「どれどれ。」
突然の地震。地面が揺れ、慌ててヨウを支えるソウ。地震はすぐに収まった。
「地震なんていつ以来かしら。最近なかったのに。」
「後で、管理人のところに確認しに行こう。」
「家の中のものが崩れてないといいけど。」
高層ビルの会議室では、突然の地震によるF都市の崩落情報が飛び込んできていた。モニター室で監視カメラを見るツミ。地盤が沈下する様子が映っていた。
「今度は自然災害か。」
「あいにく人がいなくて幸いだったな。」
「先遣隊の様子は?」
「無事です。引き続き任務にあたっています。」
「全く、楽をさせてくれない。」
F都市には、有名なテーマパークがあるが、それ以外には住宅街が広がっている。あまり影響はないだろう。
「これからの会議で話し合わねばな。」
一方、先遣隊の間では、不思議な光を見ていた。
「鬼火・・・。」
それが、F都市の上空に現れ、地震が起きた。先遣隊の隊員たちは、今までの経験から嫌な予感がしていた。突如、近くにいた仲間の鬼の首が飛ぶ。一匹の二本角がこちらをにらんでいた。
先遣隊壊滅の情報は、大人たちの間で一気に広がった。今まであんなに頼りにしていた先遣隊が壊滅したとあって大人たちはパニックに陥り、現実逃避した。何も手を打たない。ここまでは来まいと、高をくくったのである。だから、討伐隊には知らせが入らなかった。ツミは、討伐隊の派遣を訴えたが、受け入れられなかった。代わりに沈黙の誓いを立てさせられた。ツミは密かに術師の血筋のものを探させた。銀姫は理解を示し、子供たちの間を歩き回って、術師を探したが見つけられずにいた。ユキは何かを勘ぐってセイに地震のことを聞かせに行かせた。しかし、大人たちはただの自然災害だとそれ以上のことは言わなかった。
「だからあなたたちは滅びるのです。あなたたちは居るだけで私を苦しめる。共にいることはできない。ならば分かちましょう。ここに人はいない。」
ユキたちは戦没者を追悼するためにA地区にある大きな公園に墓を掘った。生前知り合いの死者たちが大事にしていたものを埋め、小さなお墓を立てた。それでも死者はまだいる。公園の中心に石碑を立てた。大人に道具で、
「鬼と戦った勇敢な戦士たちここに眠る。」
と彫ってもらった。手を合わせる。雨が降ってきた。久々の雨だ。セイと共に新居に帰る道すがら、爆発音が聞こえた。高層ビルが崩れるのが見えた。大人たちが会議室として使っているビルだった。ただ事ではない。セイと共にビルに向かった。粉塵が舞う中、そこには一体の鬼がいた。二本角。ユキは、鬼が襲いに来たのだと直感した。高層ビルの上層階が抉れていた。
(どんな力を使ったらあんなことに・・・。)
ユキは冷や汗をかいた。武器は装備していない。大人たちからの指示で、訓練室に保管してある。安全になったからという理由で。訓練室以外には持ち出し厳禁であった。訓練室によるべきだった。致命的なミスだ。
僕らは二本角を見つめた。目が合った。ケモノよりも鋭い目。寒気が走った。突如二本角が間合いを詰めた。速い。セイが僕と二本角の間に割って入り、ブーツに隠していた折り畳みナイフを取り出す。二本角は避ける気がないらしい。ナイフが二本角の頬を切り裂いた。二本角は掌底をセイの片目に向かって叩き込む。セイの顔半分から血が出る。思わず叫んでいた。
「セイ!」
「大丈夫だユキ。」
セイが後ずさるのを見て、二本角は興味を失ったのか、住宅地の方へと歩いて行った。あそこにはたくさんの子供がいる。
「武器を取ってこよう。」
セイの提案に頷き、僕が武器を取りに走る。セイは顔の半分を抑えた。
「半端ねぇ。」
武器を持ち、セイの元へと走った。その途中、住宅街の方から物音がした。焦りを感じながら、セイの元にたどり着く。
「セイ、武器。」
セイが斧を受け取り、急いで二人で住宅街へと急ぐ。あの二本角は逃げる子供たちを、一人一人、丁寧にかつ確実に殺して回っていた。あたりに死体が散乱する。真っ先に僕が二本角に切り込んでいった。二本角は体で刃を受け止める。胴体に剣が刺さった。堅い。巨人並みの堅さだ。全然刃が通らない。二本角が掌底の構えをして、剣から手を離す。距離を取ると、二本角はつまらなくなったのか、かすかに笑っていた表情が、完全に無になる。セイが頭めがけて振りかぶる。二本角はやはり避けない。斧が頭に当たる。しかし、刃がうまく入らなかった。
「つまらん。」
そう一言、確かにつぶやいた。鬼は、跳び上がり、近くの家の屋根に乗った。脚力もあるのか。そのまま跳んでどこかに行ってしまった。
「なんだったんだあいつ?」
「わからない。セイのお父様たちは?」
「見に行こう。」
高層ビルに戻ると、セイのお父様と、隊長が立ち尽くしていた。
「こんなことになるとはな。」
僕らに気づいたお父様がつぶやいた。
「鬼がいました。二本角。すごい力でした。」
「そうか。また作戦を立てねばならんな。」
「あんときの地震はやつのせいだろうな。先遣隊もやられた。」
「先遣隊が?そんなの聞いてない!」
「皆、話したがらなかったからな。沈黙の誓いまで立てさせられた。」
「沈黙の誓いって?」
「古い風習だよ。約束を破れば呪いが降りかかる。」
「呪い、信じているんですか?」
「鬼もいたからな。」
それもそうかとユキは思った。
「子供たちも一部襲われました。」
「みんなを集めよう。」
「おう。」
A地区の大きな公民館に人々が集まった。セイのお父様が、壇上に立って今回の出来事を報告する。セイは医者に手当てされながら、話を聞いていた。公民館がざわつく。
「シェルターにいた方が安全なのでは?」
という声が上がる。ツミは考えていた。シェルターは果たして安全なのか。高層ビルを崩す程の力を持っている。シェルターが安全とは限らない。ツミは首を振った。今の生活を手放す程ではないだろうと。日の光の下に出た時、皆感動したものだ。電灯の下で暮らしていたから明かりがなかったわけでもない。それでも、日の元は違った。誰も言いはしないが、今の生活を手放したがる者はいなかった。ツミは死者が誰であるか確認をした。普通の子供から、上級区画にいた上級国民の大人たちが含まれていた。我々に再び立ち上がる時が来たのだ。ツミは言う。
「生き残るためには敵対する鬼は倒さねばならない。」
と。




