終焉 止まった時間
ユキは、眼帯を付けているセイの顔を見つめた。ちょっぴりそれっぽくてかっこいい。口には出さなかった。
「ユキ、そんなに俺が好きなの?」
その問いかけに頷いて見せる。彼らの絆は深い。あらゆる戦闘を通して、離し難いほどになっていた。ユキたちは出撃の連絡を待っていた。訓練はしてきた。武器の手入れも怠っていない。後はただひたすら待つだけだった。双子が顔をのぞかせる。
「二本角。かなりの強敵なんだろう?勝てる見込みはあるのかい?」
「やらなきゃやられるだけだよソウ。」
「それもそうか。」
ヨウがソウの腕に腕を強く絡める。
「今度こそ終わらせられる?」
「わからない。」
そこでスマホにメールが届く。
討伐隊集合。第三シェルター管理室。
皆で顔を見合わせ、集合する。管理室にはすでに集まれるだけの面々が揃っていた。ツミが告げる。
「G都市の監視カメラとのリンクに成功した。シェルターの方は全滅。町も壊滅的な被害で廃墟だ。」
「何によって?」
「あの例の二本角だろう。」
ツミが指示を出すとモニターにG都市の様子が映し出される。確かに建物がボロボロだ。そして、モニターの中心。二本角と、白いワンピースを着た少女がいた。
「あの少女は?」
「わからない。鬼の可能性はある。」
「なんだか覚えがありますわ。」
皆がそれぞれ、記憶にあると声にあげる。僕の記憶にも引っかかるものがあった。
「なるほど、この感覚は気のせいでは無い様だ。この少女にはなにかある。」
ツミが結論付ける。
「二本角討伐作戦を決行する。可能であれば、少女は生け捕りにする。」
訓練室で剣を振るう。
「精が出ますわね。」
シャロがやってきた。シャロも剣を取り出し、人形に向かって振るう。
「あの少女。何だと思う?」
「わかりませんわ。ただ、心に引っかかりますわ。」
「シャロも随分慣れたね。」
「ええ、皆さんのおかげでもありますわ。ユキは、この戦いがもし、終わることがあればどうしたいとかありますの?」
「両親の墓を作ってセイと穏やかな余生を過ごしたい。」
「もう、余生ですのね。」
「いろいろありすぎた。親しい仲間は皆死んでいった。僕には最初からセイだけだ。彼が僕のすべてだ。」
「そういうお相手がいるの、うらやましいですわ。」
銀姫が訓練室に入ってきた。
「結局術師は見つからなかったのう。」
「術師って?」
「管理人に言われ、探しておった。」
「陰陽師とかそういうのかしら。」
「そんなとこじゃ。」
「そういう人たちがいたら、戦闘楽になるのかな?」
「どうじゃろうな。」
「残念ですわね。」
「仕方あるまい、多くのものが殺されすぎおった。」
「まあ、この剣でどうにかなるさ。」
剣を人形に向かって振り下ろす。
新居。食事を済ませ、セイと共にお風呂に入る。
「明日だな。」
「うん。」
「何があっても愛してる。」
「僕も愛してるよ。」
布団に入り、手をつなぐ。
「きっと全てがよくなる。」
「うん。」
スマホのアラームで目が覚める。これだけなら、崩落前のようだ。セイと共に朝食を摂り、訓練室に武器を取りに向かう。D地区。飛行場前には全員が集まっていた。管理人もヘリコプターに乗り込む。皆がヘリコプターに乗り込むと離陸する。目標はG都市のはずれ。そこなら鬼に気づかれにくいはずだ。G都市、真上から見てもその崩壊っぷりはほかの都市と違った。ほとんど更地に近い。逃げも隠れもできない。地上に降りる。念のため、周囲を警戒しながら二本角の元に向かう。二本角は身じろぎ一つせず待っていた。
「戦うことに意味はあるのか?」
ユキが投げかけた言葉に鼻を鳴らす。
「俺はただ全部、何もかもめちゃくちゃになって嘆いて喚いて崩れ落ちてそれすらも無意味だったとわからせたいだけ。」
二本角が立ち上がる。少女の姿は見えない。言葉は意味をなさないらしい。二本角が太刀を振るう。
「俺の名は酒呑童子。お前たちを終わらせるもの。」
酒呑童子。聞いたことがある。源氏が討伐した鬼だったはず。小細工なんていらないとばかりに突っ込んでくる。後方の部隊が銃を撃つ。セイが太刀を受け止める。大きく火花が散った。背後から僕が切りかかる。振り向きざまに二本角がセイを弾き飛ばす。僕の片腕が飛んだ。ソウが音響兵器を投げる。酒呑童子はうざそうにそれを叩き切った。僕が突っ込む。腕に剣が食い込む。しかし、抜けきらない。剣を上に持ち上げ、強引に抜く。血が出たが、物ともしないようで、太刀を僕の目の前に差し込み、突く。肩に鈍い痛みが走る。それが抜かれるとドバッと血が出た。幸い飛んだ腕の方の肩で、剣を落とさずに済んだ。
「ちっ、うぜぇ。」
そういうと、酒呑童子が跳び上がり、銃撃をする部隊を太刀でひと払いした。予想外の攻撃に銃撃していた部隊が上半身を地面に落とす。
「うおー!」
セイが斧を振りかぶる。それを酒呑童子が太刀で受け止める。太刀を薙ぐ。セイが腹を切られて倒れる。僕はそれを見て、酒呑童子に再び突っ込んだ。それを太刀で受け止める。シャロが剣を抜き、酒呑童子の背中に切り込む。女の力だと甘く見たのか、酒呑童子は対応しなかった。僕のもう一方の腕を切り飛ばす。背中から切られる酒呑童子。内蔵された音響兵器が起動する。それで若干怯んだ。そこにソウがもう一度音響兵器を投げる。中型音響兵器。酒呑童子は完全に停止した。セイが立ち上がっていた。格好のチャンスを見逃すはずもなく、斧で頭を叩く。何度も。自分の腹から血がどぼどぼ出るのも構わずに。確かな手ごたえがあった。
死
それは確かに、酒呑童子にもたらされた。
少女が拍手する。
「立派ね。やり遂げたんだわあなた達。」
セイが倒れる。ヨウが駆け寄って止血する。
ソウが少女に近づいた。
「君は?」
「私は世界そのもの。私の見るものが世界になって、あなたたちの見る者が私になる。」
「どういう意味?」
「世界の創造主なの。私。でもね、そんな創造主様は致命的なバグを抱えてる。」
少女が言葉を区切る。
「自殺願望。これが私を大量殺人へと駆り立てる。」
管理人が表れる。
「やってくれたな諸君。正常なサイクルを刻む気はないか?」
少女に向き直り言った。
「ない。できない。今の私は異常だから、どうしても死にたい。」
「そのために鬼をけしかけたのか?」
「ええそう。彼らは私の望みをかなえに行ってくれたわ。刹那主義。鬼にとって人間を殺すことは気持ちのいいこと。その先の未来で自分たちが絶滅しようともね。」
「どうすれば我々はかつての平和を手にできる?」
「私を殺して。それか、成り代わるの私自身に。」
ユキが立ち上がり、少女に近づく。
「やるべきことが分かったぞ!」
ユキが少女の首元に噛り付く。肉を噛み千切る。少女が悲鳴を上げる。ツミは唖然としたが、察して止めなかった。
(食らうことで少女と一つになろうというのだな。しかし。)
選択肢はない。セイが起き上がり、少女の元へ向かう。
「いついかなる時も一緒だ。」
少女の腕を叩き切り口元にもっていく。噛み千切り、咀嚼する。長い時間をかけて、二人は少女を食べた。永遠ともいえる時間の中、双子とシャロ、管理人はそれを見守った。少女は最後に
「呪いあれ。」
その言葉を残した。
帰りのヘリコプターは人数が減ってさみしいものだった。ユキに寄りかかるセイ。そんなセイの温かみを感じる。少女の肉を食らったからってすぐさま変化は感じなかった。ただ、どことなく虚しさを感じていた。人々が出迎える。管理人が戦いの終わりを宣言すると歓声が沸いた。今はただ疲れた。病院にセイを連れていくのを双子に任せ、僕は新居へと帰り、昏々と眠った。永遠。永遠の悪夢。世界は終わらなかった。
「お前も悪夢を見続ける。」
それでも、セイと二人なら怖くないよ。
翌朝、目が覚める。体に違和感を感じて鏡を見ると、喉元にびっしりと白い鱗が生えていた。蛇のようだ。これが呪いか。たいしたことないな。セイを迎えに行く。セイは病室のベッドで腕を眺めていた。僕と同じように白い鱗が生えていた。
僕らは待望の海岸デートに来ていた。D都市の海岸は、恋人浜として有名だった。セイと二人、並び歩く。世界は平和になった。少なくともこの時は。夕暮れが恋人浜を染める。足を止め、セイにキスをした。セイも舌を入れる。この時間は永遠だった。文字通り、僕らは永遠の時間を手にした。
波が揺れている。さざ波の音はどこまでも心地よい。




