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可能性 三本角とその先にあるもの

ユキは空を見た。雲がなく、何処までも晴れ渡っている。快晴。二本角討伐にはうってつけの天気なのかもしれない。九番地区に降り立ち、あたりを見回す。大きな自然公園。この先に二本角は居る。セイのお父様、管理人の話ではこの間捕まえた鬼を実戦に協力者として投入するらしい。反対の声が上がった。それを管理人は無視し、作戦は決行される。水を操る鬼だと聞かされる。二本角を投入することで何が起きるかはわからない。ユキは深呼吸した。自然公園の中に入り、ゆっくりと歩く。


ツミは銀姫の鎖を解き、自動車に乗せた。後ろの席で銀姫は悠々とくつろぎだす。ツミは車を発進させた。目標は九番地区。監視カメラの目はない。ツミは車をわざとゆっくりと走らせた。

「間に合わせる気がないのか?」

銀姫は察しがいい。

「ないわけではないよ。とはいえ、ゆっくり話せるのはここしかないだろう。」

銀姫をミラー越しに見る。彼女はこちらを向き、鼻を鳴らした。

「良かろう。して、なんじゃ?」

「私は、シェルターにいる人間か監視カメラを覗けるものを警戒している。理由は、裏切り者がいるんじゃないかと思っている。鬼に与する人間、それか鬼そのもの。」

「ほう。して、このような場を設けたわけか。」

「あなたの意見を聞きたい。」

「まず、なぜそのように思う?」

「・・・。音響兵器投入までが早すぎた。いつもなら、法案一つ通すのだって渋る国だ。それが虐殺兵器投入に至ってはスムーズに事が運びすぎた。」

「他は?」

「第一シェルター。パスワードは簡単に破られないはずだ。中で鬼を手招きしたものがいるとしか考えられない。シェルターの扉は相当頑丈だからな。異変があれば、連絡をよこす手筈になってもいた。しかし来なかった。内部犯の疑いは十分だ。」

「・・・。鬼の王とも呼ばれるやつがおる。そやつらはより残虐で、人の命なんてある意味では興味がない。人を欺くことを好み、絶望の淵へと突き落とすことに喜びを見出す。そんな鬼が確かにおる。」

ツミは頷いた。

「だから、お前の考えは、あながち馬鹿にできないじゃろう。知略を好む鬼もいる。案外あざといこともする。だが・・・。」

「なんだ?」

「それだけではないような気がするのじゃ。今回の事。鬼共が一気に目覚めていること。あまりにもたやすく人の輪を崩したこと。大きなものが動いているとしか思えんのじゃ。」

ツミはミラー越しに鬼の目を見た。

「鬼は暴れるのが好きじゃ。じゃが、手軽さをそれに求めるところがある。複雑な計略は必要だからする。だが、基本はしない。それは、複雑に事を起こすよりも簡単に刹那的な暴動を起こすことの方が楽しいからじゃ。今回はそれを無視して計略をよく練っておる。楽しいの先を優先しておる。何かを見据えている。それに鬼がどのような結果に巻き込まれようとも。」

「何かほかにいると?」

「そう思う。」

沈黙が訪れる。二人はそれぞれ考える。

「人の手か?」

「もっとデカい。」

「神?」

「それに等しい。」

「なぜ、人類を滅ぼしたがる?」

「病気なのかもしれんの。」

「病気?」

「うつ病にも似ている。」

「神が精神的に病んでいる?」

「可能性の話じゃ。空想の域は出まい。」

ツミはため息をついた。コーヒーが欲しい。我々は、相当にヤバいものと対峙している。


ユキは二本角を見つけていた。それは森の中、静かにたたずんでいた。噴水が近くにある。立地は最悪。それでも、発見の合図を出した。討伐隊が集合する。二本角はまだ気づいていない。二番シェルター隊が仕掛けることになった。僕ら討伐隊は支援。周りに鬼は見えないが、潜んでいる可能性は高い。一番槍が剣を抜き放ち突っ込んでいく。二本角が気づく。噴水の水が蠢く。一番槍が突っ込み切る前にその人の頭を、水泡が覆った。彼が苦しそうにもがく。仲間が音響兵器を投げようとすると、水でできた竜がそれをさらった。周りにはいつのまにか鬼が湧いていた。僕ら討伐隊は、その処理に追われる。二番シェルター隊の陰に隠れて、セイはゆっくり近づいた。皆水泡で頭を覆われている。一番槍が倒れる。水泡がはじけ飛び、顔色の白い男だけが取り残された。誰も地上で窒息したとは思うまい。時間との勝負。セイは隊員を盾にじりじり近づいた。そして、一瞬の二本角のゆるみを見逃さず、音響兵器を投げ、その間に突っ込んだ。音響兵器が鳴ると共に水泡が飛び散る。どさりと人が倒れる。斧はすでに、二本角の首を捕らえていた。叩き切る。首が飛ぶ。そこにツミと銀姫が到着する。鬼たちはもう動かない。

「よくやった、お前たち。」

セイが、二本角を解体する間、ユキとケイトは二番シェルター隊の息を確認する。時すでに遅し。全員事切れていた。

「二番シェルター隊、全滅です。」

「そうか・・・。」

管理人に報告すると、少しの間うつむいた。セイが二本角を掲げると、拍手が鳴り響いた。どこからと思っていると、木の上から、二人の人影が、飛び降りてきた。一方は男、もう一方は、

「ソウコ!」

驚きで声が裏返る。男の方も見たことがあった。しかし思い出せない。

「防衛大臣。」

管理人が静かに言った。そうだ!テレビで何度も見たことがある。僕は剣を抜いて、管理人の前に立った。この二人の正体には察しがついていた。防衛大臣が頬を引っ張る。皮がどこまでも伸びる。皮がべりべりと裂けていく。目の前には三本の角を生やし、第三の目を持った鬼が現れた。その鬼が口を開く。

「ここまでとんとん拍子でいっていたのだがな。人間というのも面倒なものだ。素直に食われていればいいものを、あがいて仕事を増やす。」

セイが斧を強く握ったのがわかった。

「新世界まではまだ遠いということか。貴様らを根絶やしにし、日の元の頂点に君臨するというのは。」

三本角は管理人の方をにらんだ。

「おいでユキ。こっちにおいで。私が愛してあげるから。」

ソウコが猫なで声を出して僕を誘う。僕はセイに抱き着いて、拒否の意を示した。ソウコがキッとセイをにらむ。セイは勝ち誇ったような顔をした。管理人は疑り深く三本角を見た。さっきの銀姫との会話が頭の中をぐるぐると回る。こいつはデコイ。そんな気がした。裏がまだあるはず。銀姫が、三本角の方に歩み出る。

「もうやめようではないか。人間を滅ぼしても、我らには特がない。」

三本角が手を銀姫の前に差し出した。次の瞬間、銀姫が吹っ飛ぶ。衝撃波?何かが飛ぶのが見えた。そんな銀姫を、一人の少女が助け起こしていた。シャロだ。上級区画のお嬢様。付いてきていたのか?いつの間に?

「シャロ嬢!どうしてここに?」

管理人が驚愕の声を上げる。シャロは少しばかり頭を下げて、

「こっそり、管理人さんの後を付いてきたのですわ。それで、皆が乗り込む前にバスの後部座席に身を潜め、こっそり外を見ようと思っただけなのですわ。」

いきなり銀姫が身を起こし、シャロを抱えて走る。突然のことに僕らも、シャロも口を馬鹿みたいに開ける。その間に、ソウコが三本角に抱き着いた。

「ユキが欲しいの。」

猫なで声で、ユキを指さす。三本角は頷いた。突然、周りの人間に衝撃波を飛ばして回る。皆吹っ飛ばされる。セイも吹っ飛ばされた。三本角はユキをつかむと、素早く気絶させた。ソウコに引き渡す。そして、討伐隊の方に向け、

「遊びはほどほどにしろ。」

そう言い残し、管理人の方を向き、刀を抜いて、彼を切った。管理人が血を吐き、倒れる。

「お父様!」

セイが叫ぶ。三本角は木の上にひとっ跳び。ソウコと共にユキを連れて、どこかへと消え去った。


シェルター病室。

セイは病室で手当てを受けたお父様を見つめていた。静かに眠っている。疲れもたまっていたのだろう。セイは病室を静かに出て、管理室へと向かった。A都市、一番シェルター。そこの中に、ソウコとユキは居た。他の雑兵も見える。ソウコは見せつけるように監視カメラに映った。隊長の口から、ユキの奪還作戦と、一番シェルターの奪還作戦が告げられる。

一方、ユキは、ソウコに気になることを聞いていた。

「どうして僕のことを連れ去った?」

「ユキが好きだから。」

「さっきの三本角は?」

「我々の王よ。」

「どうしてソウコの皮をかぶっている?」

「気に入っているから。あなたへの独占欲も、愛も。」

「ソウコの記憶があるのか?」

「皮を着た時点で、その人間の記憶が流れ込んでくるの。経験した感情もね。」

「ここは?」

「第一シェルター。A都市にある。監視カメラであの人たちが見ているわよ。見せつけてやりましょうね。」

ソウコが怪しく笑う。ユキは背中に冷たいものを感じた。

先遣隊に九番地区の最後の掃討は任せ、隊長は討伐隊に、奪還作戦を開始することを告げた。

「明日の朝、ヘリコプターで、国会議事堂にあるシェルターに向かう。」

「罠の可能性は?」

「ある。しかし、絶好のチャンスでもある。相手は油断している。隙がある。そこを突くしか我々に勝機はない。」

皆がヘリコプターに乗り込む。セイはストラップをなでた。ユキからの贈り物。

(絶対にソウコなんかには渡さない。)

その決意を胸に、ヘリコプターに乗る。

「あの女なんかにユキをくれてやるもんですか!」

ケイトが強い口調で言った。セイは頷く。ヘリコプターは飛んだ。A都市、国会議事堂へ。ユキを取り戻しに。


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