雷の力 落雷を防ぐもの
館内放送で名指しされた。珍しいこともあるものだ。訓練室に行くと、隊長が待っていた。
「復帰テストを行う。」
そうとだけ告げられ、隊長が木刀を構える。僕も木刀を持ってきて、隊長とにらみ合う。さすがは隊長!軽々剣をいなされる。セイほどではないが、洗練されたプロの動き。隊長が手を止め、礼をする。僕もつられて頭を下げる。
「いいだろう。七番地区の掃討戦に復帰せよ!君の活躍を期待している。」
隊長が訓練室を去って行く。僕は喜びにこぶしを突き上げた。これでセイと並んで戦える!僕は部屋に戻り、セイに伝えた。
「復帰していいって!隊長からお墨付きもらった。」
「良かったじゃないか。ユキのことは守るからね。」
「へへ。ありがとう。」
僕は、ケイトの部屋にも向かった。
「ケイト!」
「ああ、ユキ。どうしたの?嬉しそう。」
「次の掃討作戦に行く許可が出たんだ!」
「それは良かったね!」
ケイトは本を読んでいた。
「何を読んでるの?」
「恋愛小説。主人公がけなげで可愛んだよ。」
「へー。恋愛小説は読んだことないや。」
「今読んでるのはだめだけど、他の奴貸してあげようか?」
「本当に?ありがとう。」
ケイトから一冊本を借りた。
「早速部屋で読むよ。」
「後で感想聞かせてね。」
部屋に戻り、小難しそうな本を読んでいるセイの腕の中に入り、恋愛小説を読む。白馬の王子様とみすぼらしい少女。典型的な童話の世界。僕は夢中になって読んだ。館内放送が鳴る。
「夕食の時間です。食堂にお集まりください。」
セイが本を置く。僕も本にしおりを挟む。
「そろそろ行こうか。」
「うん。」
夕飯を食べ、風呂に入り、ちょっぴっと本の続きを読んで、寝の体制に入る。
「今日は穏やかな一日だった。」
「そうだな。」
「こんな日が続いてくれたらいいのに。」
「俺は、鬼を倒す日も悪くないよ。」
「セイらしいや。」
そんな他愛もない会話をしながら眠りにつく。
翌朝。館内放送で目が覚める。今日は七番地区掃討の日。セイと共に食事を取り、バスに乗り込む。七番地区まで久々に窓の外を眺めた。雪が端っこの日陰の方に残っている。春は近い。七番地区に到着すると、ケイトから音響兵器と耳に入れる防御装置をもらった。装着して、バスを降りる。あたりはシンと静まり返っている。剣の状態を確認し、Bチームと、鬼を探して歩きだす。
「ユキ、調子は?」
ソウに聞かれる。
「調子いいよ。鬼をやれる。」
「そりゃいいや。期待してる。」
短い言葉を交わして、鬼の索敵に戻る。ヒメコが動かないタイプを発見する。最初の一発。僕は手榴弾を用意して、鬼に投げた。二十メートルぐらい。ジャスト!伏せる。爆発音。確認。鬼の頭はぐちゃぐちゃだ。ケイトが角を剥ぐ。
「久しぶりにしちゃあ完璧だ。」
ソウに褒められる。僕は頷き、次の獲物を探す。大型スーパーの中に入った。暗がりから、何かが光る。剣を抜き、攻撃をいなす。ケイトが銃撃する。怯んだ隙に首を刈る。一体。ヒメコが鬼を抑えている間にコウイチが切る。二体。ヨウが音響兵器を投げ、その隙にソウが斧で頭をつぶす。三体。一気に三体も狩れた。僕らは外に出て、索敵を続ける。結局成果は四体。角をソウがまとめて預かる。バスに戻る。みんな無事だ。成果を持ち帰る。隊長が、管理室に来るように呼び掛ける。
管理室。
モニターの中心には、一体の鬼が映し出されていた。二本角。周りには大量の鬼がちらほら見える。管理人が説明する。
「こいつは雷の力を使うらしい。特別なゴム製の盾を用意する。これで、落雷は対処できるはずだ。後は遮蔽物を利用して、鬼を狩れ。」
モニターを見ると、どこかの屋上らしい。遮蔽物はほぼなく、見通しがいい。
「遮蔽物がほぼないようですが。」
誰かが言った。
「ああ。だから絶縁効果のある傘を設置するものがいる。GIK隊に任せよう。」
「なるほど。」
「今回は対処法がわかっている。油断することがなければ、犠牲は最小限に抑えられるはずだ。」
モニターの二本角を見る。地べたに座り、天を仰ぎ見ている。
「決行は三日後。それまで盾の下でも動ける訓練をしておくように。」
管理室から出て、食堂に向かう。ユキは食べながら、二本角のことを考えていた。
「どうしたユキ?顔が険しいぞ。」
「ん。鬼のこと考えてた。」
「雷の二本角?」
「うん。本当に楽に倒せるのかなって。」
「手の内はわかってる。後は対処が上手くいけばだな。」
「三日で訓練足りるかな?」
「やってみるしかないだろう。だめなら相談すればいい。」
部屋に戻り、風呂に入り、床に就く。
翌朝。訓練が始まった。ケイトが持つ盾に、しゃがみながら素早く入ったり、設置された傘に素早く潜りこむ訓練。大体二人一組で盾を持つもの、下に潜り込むものと別れた。ケイトが盾を降ろす。
「結構重い。」
「僕が変わる?」
「いや、このまま続行で。あたしの方が身長あるしね。」
繰り返し訓練をした。三日間みっちり練習した。
そして八番地区、二本角討伐の日。僕はセイと並びバスに乗る。
「二番シェルターの人たちとの連携は?」
「まあまあ。ま、問題ないだろ。そっちは?」
「みっちり練習したし、行けると思う。」
八番地区。デパート前でバスが止まる。ここの屋上に二本角は居る。ケイトが盾を持ったのを確認して、階段で上へと登る。先頭にGIK隊。最後尾に二番シェルター隊。先頭が屋上への扉をあけ放つ。手早く屋上に散開。大量の鬼がいた。鬼を避けながら傘を設置。とはいえ、二本角も察したのか、すぐに落雷が降って来る。二人が雷に被弾する。肉の焼ける匂い。覚えがあった。二人は黒焦げになって動かなくなった。鬼にとびかかられて、負傷者が数人。それでも傘の設置に成功する。落雷が降り注ぐ。傘の中に入った残りのGIKチームは傘のおかげで、落雷を逃れる。周りの鬼を、傘の中で対処する。僕とケイトが一番槍に突っ込んだ。ケイトの盾の下をしゃがみ走る。落雷が降り注ぐ。盾に反動が来て、一瞬足が止まる。慌てて僕も止まった。周りの鬼が距離を詰めてくる。それを銃で牽制し、二本角まで迫った。
「小癪だな。人間。」
二本角のその言葉に誰も返さない。僕は二本角の顔面に向け、発砲した。鬼が嫌そうにする。その間に、二番シェルター隊が散開して二本角を取り囲む。セイが隙を窺うように盾の下から二本角をにらみつける。僕は発砲を続けた。二番シェルター隊の一人が動き出す。薙刀を持って、二本角の首を盾越しに狙う。二本角はひらりと躱した。セイが斧を振るう。二本角の腕が切り落とされた。二本角が叫ぶ。すると連続で激しい雷が、我々を襲う。盾を構えた隊員たちは苦しそうに盾を受け止める。ケイトの腕がプルプル振るえる。僕は一緒になって盾を支えた。隙が出来てしまうが、Bチームが援護してそばにいた鬼の気をそらしてくれた。盾が恐ろしいほど重い。雷の威力は高い。一発でも被弾すればアウトなのは、さっきやられた隊員を見ても分かった。僕らは傘の下に移動した。ゆっくり、呼吸を合わせて。傘の下に着くと、落雷の重圧から解放された。それでも傘がかすかに揺れるたびに肝を冷やした。やがて力を使い切ったのか、雷が止む。これを好機と見た二番シェルター隊が、果敢に攻める。うっかり外に出た隊員が落雷にやられる。黒焦げ。嫌な臭い。ケイトが盾を構えなおす。僕らは再び、二本角に最接近して、僕は音響兵器を二本角に向かって投げた。その隙をセイが最大のチャンスに変えた。二本角のもう一本の腕が飛び、首に隙が生まれたところを、二番シェルター隊の人間が、槍で首を突き、引き裂く。首が半分切れる。あともう少し。思い切ってセイが飛び込む。落雷が落ちるよりも先に首が切り飛ばされる。盾が間に合う。二本角を倒した。そばの隊員が二本角を分解する。僕らは残った鬼を掃討する。首がじゃんじゃん飛んでいく。こうして、八番地区の二本角討伐は終わった。三名の落雷による死者。雑兵の鬼にやられた二名の死者。五人の死亡で二本角を狩った。二番シェルター隊の一人が、死んだ仲間の武器を拾いあげる。黒く焦げた剣。持ち帰るようだ。
「セイ!無茶したな。」
「大丈夫だったろ。」
「かなり心配したけどね!」
「はは。ごめんごめん。」
「笑い事じゃないって。」
「二人とも、バスに戻るわよ。」
バスに乗り、シェルターに戻る。シェルター前では管理人が待っていた。
「成果は上々だ。犠牲はやむを得ない。今日はゆっくり休むといい。」
僕らは、食堂で夕食を摂るとそれぞれ部屋に戻っていった。途中、誰かが隊員の死を告げると、幼い女の子が泣いていた。部屋の中で僕はため息をついた。
「誰かの家族が死んだみたいだ。」
「仕方ない。ここじゃもはや、よくあることだ。」
「次は九番地区か。」
「八番地区の掃討が終わればな。」
「きっと軽く済むよ。B都市開放も目の前だ。」
「ゆっくり休めよ。ユキ。」
「セイもね。」
風呂に入って、二人で眠りについた。
翌朝。八番地区の掃討は、予想通り軽々済んだ。その翌日、先遣隊が派遣され、八番地区の掃討作戦の成功が告げられた。そして、午後。管理室に集められた僕らは、モニターに映る二本角を眺めた。
「水の力を持つ鬼だ。対処はそう難しくないはず。窒息攻撃に気を付けろ。音響兵器を惜しみなく使え。」
それを聞かされた僕らは、それぞれ戦いを脳でシミュレーションしながら、訓練室に向かった。
ツミは研究室Bで、銀姫を眺めていた。
「お前の力が必要になりそうだ。」
「ほぉ。わしの番か。逃げたらどうする?」
「お前は逃げないよ。ここにいないと生きていけないものになったのだから。」
銀姫がツミをじっと見つめる。チャンスがやっと到来した。二本角と二人きりで話せるチャンス。聞きたいことがそれなりにある。
「作戦は一週間後。車に乗せて、私直々に、戦場に送り届ける。覚悟をしておいてくれ。」
銀姫はため息をつく。しかし、作戦が嫌だというわけではなさそうだ。
「もう少し、敬う心を持ってもらわねばの。」
「君の活躍次第では。」




