贈り物 進んでいく日常
B都市、六番地区。鬼の掃討作戦が始まろうとしていた。
「行きたいです!」
「まだ駄目だ。」
「でも。」
「焦ることはない。チャンスはまだある。」
隊長になだめられ、ユキは食堂の椅子に座る。今朝、B都市での作戦が連絡された。ユキは待機という個別の連絡によって、ユキは隊長にごねていた。セイとやっと並んで戦える。その希望が打ち砕かれて、ユキは落ち込んだ。ケイトが励ます。
「B都市を攻めている間にでも、頑張れば間に合うはずでしょ。他の都市もあるしさ、焦ることはないよ。」
「・・・うん。」
「たまには本でも読んで、落ち着いたら?借りてたやつがあるはずでしょ。」
ユキは朝食をそこそこに、部屋へと戻って、本を取った。ヒナタとの約束のTRPGのルールブック。これの活躍しどころはたぶん無い。集中できなくて、本を置く。義肢を整えて、訓練室に向かう。訓練室には誰もいない。僕は剣を抜いて、一人訓練を始めた。そこに一人の少女がやって来る。
「わあ、こんな風になっているのね。」
僕は振り向いた。見たことがない子。ワンピースを着ていて、その胸元には、高そうなパールがきらめいていた。
「君は?年下の戦力ってわけでもなさそうだけど。」
少女は、ユキより年上に見えた。
「あ、私シャロと申しますわ。上級区画の者ですの。」
シャロがスカートのすそを持ち上げ、挨拶する。
「上級区画って、閉まっているはずじゃ。」
「管理人さんがこちらに戻るときに、こっそり後ろをついてきたんですの。」
シャロが僕の手足を見る。
「まあ、義肢ですのね。こんなお若いのに。」
「二本角にやられたんだ。」
「じゃああなたがあの、怪我をした隊員さん?千羽鶴は届きましたか?」
「そんなものもあったな・・・。」
「祈りが届いたんですのね。お怪我が治ってよかったですわ。」
「どうしてここへ?」
「私、お外に興味がありますの。今どうなってしまっているのか気になりますの。」
「人がいた時と、案外そんなに変わらないよ。人がいなくなったなー程度。水族館とかは悲惨だったけど。」
「水族館ですの!私だーい好き。どうなっていましたの?」
「魚が死んでたよ。ジンベイザメの沈んでいるところが印象的だったかな。ペンギン広場とかは酷い匂いだったし、イルカショーのステージは何もなくて物悲しかったよ。」
「そうなんですのね。なんだかさみしいことになっていますのね。」
「外に出てもいいことなんてないよ。違うのは鬼ぐらい。」
「鬼。鬼ってどんな感じですの?」
「恐ろしいよ。その口で足をかみちぎられたから。」
「まあ。」
シャロがぶるっと震える。
「見ていていい気はしない。」
「でも、戦いに出るんですわよね。」
「そりゃ、セイ・・・恋人が外で戦っているから、力になりたい。」
「愛の物語でしたのね。私、好きでしてよ。」
「男同士だけどね。」
「まあ!」
シャロが顔を隠す。開いた指からこちらを覗く。
「殿方同士の・・・。やはり、やることはやりましたの?」
ズケズケ聞く子だなと思った。
「キスとか、一緒に風呂にはいったりとか。」
「まあ!・・・その、しましたの?」
「何を?」
「それは・・・。」
ごにょごにょいう。僕は顔を赤らめて、
「そんなまさか。結婚前だしね!」
「そ、そうですわよね。婚姻中にすることでもありませんよね。でも、残念ですわ。お外があまり楽しそうじゃなくて。」
何を期待していたんだろうこの子は?
「ここに籠っていた方が百倍はいいよ。特に上級区画なら、人が死んだとか聞かなくて済むだろう。」
「誰か亡くなりましたの?」
ヒナタの顔を思い出す。
「ああ。だから、上級区画に戻りなお嬢さん。」
シャロの顔色が悪くなる。
「そ、そうですわね。勝手に抜け出して怒られてしまいますわね。」
沈黙。
「で、では、ごきげんよう。隊員さん。ご武運を祈っていますわ。」
シャロが部屋を出ていく。僕は引き続き訓練に励んだ。
B都市六番地区。ケイトは音響兵器を確認する。
「よし。」
続いて、耳に入れた防御装置を確認。
「よし。」
ケイトはBチームと共にバスを降りた。六番地区には巨人がいるとの報告を受けていたが、今回は高周波ブレードのコウイチがいる。楽に倒せるはずだ。ヒメコが盾を持って降りてくる。
「ヒメコちゃん、準備はいい?」
ヒメコが頷く。最初にヒメコが誘い出したところを、ケイト達で支援し、コウイチがとどめを刺す。その流れだ。
「工事現場跡地まではここから三分ぐらいだ。」
ソウが言った。ヨウが背中から銃を降ろす。
「では、出発!」
ケイト達が歩いて行く様子を、セイが見送る。セイは、二番シェルターの討伐隊と共に、もう一体の巨人の方に行く。
「巨人は堅いんだな。」
「ああ。」
「この装備で大丈夫かな?」
二番シェルターの討伐隊の男がつぶやく。
「最悪、何度も叩けば、敵は死ぬ。」
二番シェルターの討伐隊の男が笑う。
「はは。そうか。まあ、何かあったときは任せるよ。」
ケイト達は巨人を発見していた。
「ヒメコゴー!」
ヨウが合図する。ケイトも銃を持って、鬼を取り囲むように広がった。ヒメコが巨人の間合いに入る。巨人は興奮して、ヒメコにとびかかる。それを盾で防ぐ。銃撃を三方から浴びせる。鬼が怯む。そこにコウイチが切り込む。楽々首が取れた。
「よし!作戦完了。残りは雑兵だけだな。」
皆の気が緩むのがわかった。それを引き締めるように、
「警戒を怠らないようにね!」
声掛けした。その後、索敵をし、鬼を三体ほど狩った。音響兵器の出る幕はなかった。ずいぶんと戦いに慣れた。ケイトは腕を伸ばし、伸びをした。
「バスに戻ろうか。」
ソウの提案に頷く。バスにはすでに他の討伐隊が集まっていた。
「お前たちで最後だ。」
バスの運転手にそう言われ、バスに乗り込む。セイの隣に座る。
「二番シェルターの討伐隊は?」
「一足先に、二番シェルターに戻ったよ。実力は上々。」
「巨人も楽々?」
「音響装置を使ってだがな。」
「ユキが待ってるね。」
「そうだな。はー。早く会いたい。」
セイが左手薬指の指輪をなでる。バスがシェルターに着くと、セイが真っ先に降りていく。ユキが入口で待っていた。それをセイが抱きしめる。
「二人とも本当に仲いいね。」
言っていて少しだけもやもやした。
「ケイト。お疲れ様。ゆっくり休んで。」
「うん。」
部屋に戻って横になる。
「妹に会いたいなー。」
ひとり呟く。同室の子は、鬼退治の二日目に死んでしまった。妹とは腹を割って何でも話せた。恋愛相談なんかもした。妹は、うんうん聞いて、応援してくれた。
(ユキへのこの気持ちって何だろう?)
それは、母性のようにも感じられた。ユキはどこか頼りなさがある。そういうところに反応しているのかもしれない。ケイトはそのまま目を閉じた。しばらくするとまどろみがやってきた。ケイトは眠りについた。ユキへの気持ちを心にしまって。
先遣隊にセイがついていくのを見送った。ユキはマリモちゃんの部屋を訪れた。・・・ヒナタの部屋でもある。
「ああ、お兄ちゃん。」
「これ、読む気になれなくてさ。返すよ。」
「うん。しまっておくね。」
マリモちゃんが本を本棚に戻す。
「何してたの?」
「チャームを作ってたの。」
「へぇ、可愛いね。」
「これにビーズを通してストラップ作るんだよ。」
「ストラップ・・・。」
「お兄ちゃんも作ってみる?」
「セイにあげたら喜ぶかな?」
「お母さんが言ってたの。手作りはなんでも嬉しいって。作り方教えてあげる。」
雪の結晶のチャームをマリモちゃんからもらい、テグスに細かなビーズを通していく。白や水色の可愛いビーズたち。
「二、三個入れて、途中で糸をクロスさせると可愛いよ。」
マリモちゃんのアドバイス通りに作っていく。
「出来た。」
「ストラップつけよ。」
可愛らしいものが出来上がってしまった。僕の手で。
「お兄ちゃん器用だね。」
「ありがとうマリモちゃん。後でセイに渡すよ。」
「お役に立ててよかったです。」
ぺこりと頭を下げるマリモちゃん。つられて僕も頭を下げる。マリモちゃんの部屋を出る。館内放送。昼食の時間だ。僕はポケットに、ストラップを突っ込んで食堂に向かう。セイが帰ってきているかもしれない。食堂にセイがいた。僕らは食事を受け取って、席に座った。
(どうせだったら、二人きりになったときに渡したいな。)
「六番地区はどうだった?」
「鬼の掃討は済んだよ。次は七番地区だな。」
「次こそ参加したい。」
「状態がいいならいけるだろうさ。」
セイと他愛のない会話をして、食堂を後にする。セイの提案で訓練室に向かった。セイと手合わせする。セイの動きは軽やかだ。簡単にいなされてしまう。
「さすがだね。セイにはかなわない。」
「ユキもだいぶ腕を上げたよ。俺の攻撃を予測できるようになってる。」
しばらく訓練をして、床に大の字に倒れ込む。汗をいっぱいかいた。手足の付け根がちょっぴり痛い。ポケットに手を突っ込む。ハンカチを取ろうとして、ストラップに気づく。起き上がる。
「セイ!」
「何?」
「これ、あげる。」
ストラップをセイの手の中に入れる。セイが手を開くと、雪の結晶が目に入った。
「どうしたのこれ?」
「マリモちゃんの部屋で作ってきたんだ。」
「ユキの手作りってこと?」
頷く。セイは酷くうれしそうな顔をして、抱き着いて来る。抱き返してしばらくすると、体を離し、腰に付けているカバンのチャックにストラップを付けた。
「気に入った。ありがとう。」
「喜んでくれてうれしいよ。もらってばっかりだったからね。」
「そんなことない。ユキからはいろいろもらってる。」
僕は首を傾げた。セイが笑う。
「俺に癒しを与えてくれているからな。十分すぎる。」
僕も笑う。
「それは良かった。」
二人で訓練室を後にする。そろそろ夕飯の時間だ。夕飯を食べて、部屋に戻り、風呂に入る。セイに体を洗ってもらっている間、僕は七番地区へと行けますようにと強く祈った。セイの隣に居たい。愛する人の背中を守りたい。その一心だ。布団に入り、セイの頬にキスをした。
「おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
復帰の日は近づいていた。




