協力 二番シェルターの討伐隊
ケイトはヒナタの部屋を訪れた。同室のマリモちゃんがいた。
「借りてた本、返しに来たよ。」
「あ、ケイトお姉ちゃん。マフラー、結局作りきれなかったよ。」
毛糸の山に、作りかけのマフラー。
「来年もあるから大丈夫。楽しみに待ってるよ。」
「うん。ありがとう。」
ヒナタの部屋の本棚を見る。一冊抜けがある。
「ここ、何が入ってた?」
「TRPGのルルブ。ユキお兄ちゃんに貸し出して、そのまんま。」
「そっか、あんなことがあったからね。後でユキに声かけとくよ。」
マリモちゃんと別れ、病室に向かう。ユキの顔が見たかった。
「ユキ!」
「ああ、ケイト。」
「ルルブ読んだ?」
「あー。いや、まだ。」
「そっか。」
「作戦、上手くいったってね。」
「二本角。軽々拘束しちゃったよ。拍子抜け。」
「怪我人とかでなくてよかった。」
「そうだね。皆が無事であたしもうれしい。」
あたしが笑うと、ユキも笑った。かわいらしい笑顔。弟がいたら、ユキみたいな感じだったかも。
「次の作戦予定は聞いてる?」
「まだ。二本角に夢中なのかも。」
「まあ、それもそうだよね。二番シェルターの様子はどうだった。」
「落ち着いてたって、後方支援部隊の子から聞いたよ。二番シェルターとの共同作業も近いかもね。」
「そのころには復帰したいな。」
「動くようになった?」
「歩けるし、走りも行ける。手もよく動くよ。」
ユキが目の前で、手を動かしている。
「そろそろ退院してもいいって言われた。」
「朗報じゃん!」
「そろそろ武器を振るう練習しなきゃ。感覚、変わってるだろうな。」
「義肢になれるのも早かったし、すぐに武器も振るえるようになるよ。」
「だといいけど。・・・セイの隣に居たい。」
(すっかり仲良くなっちゃって。ちょっと妬けるな。)
館内放送が鳴る。昼食を知らせる放送。
「お昼食べに行くね。」
「うん。行ってらっしゃい。」
病室を出て、廊下を歩く。
(妬けるだなんて・・・。いつからユキのことそんなに好きになったんだろう。)
ツミは書類を眺めていた。二本角の拷問の結果が乗っている。
「何をしても効果なしか。唯一、音響兵器で体の再生が鈍ることが分かったくらいか。それと、目に反応が出る・・・か。」
「まあ、いいじゃないか。それがわかっただけでも。他の二本角の情報も分かったことだし。向こうさん、いつでも準備できてるってよ。共同作戦をしてもいいんじゃないか。」
隊長のその言葉に、首を振る。
「まずは、共同訓練をしてからだな・・・」
「いきなり投入でもいいじゃないか。六番地区と、七番地区はフリーだ。二本角は居ない。」
「銀姫を襲ったやつのことが気になる。六番地区に来るかもしれない。」
「はー。相変わらずの慎重派。この、カフェイン中毒者めが!」
「カフェイン中毒なのは関係ないだろう。ここまで上手くやれているんだ。慎重にも行きたくなる。」
「二本角の情報を頭に入れときさえすればいいだろう。それだけで、十分!」
「あまり余計な情報を入れて、余計な神経を使わせたりしたくない。判断が鈍るかもしれん。」
「むしろ判断できるかもだろう。あいつらは、前よりも鋭く、賢くなってる。いい戦士になってきた。」
意見が合わず、ため息をつく。
「二番シェルターの管理人と話し合ってみるよ。」
「そうかい。俺ぁ、ガキどもの訓練に行ってくるよ。」
隊長が部屋を出ていく。ツミが音響兵器の報告書を見る。小型のものは、再生を弱め、動きを一瞬鈍らせる程度の効果。中型のものは、再生を止め、完全に停止する時間が五秒ほどある。防御装置は、小型のものにだけ今のところ効果がある。中型はまだ、実用には持っていけない。武器化計画の方は順調で、剣に小型音響兵器を内蔵出来たところ。実用まではあと少し。最終テスト中。小型兵器と同等な効果をもたらせる予定。
「もう少しだ。B都市が手に入る頃には、武器が揃う。」
ツミは管理室を出て、研究室Bに赴いた。
「調子はどうだね?」
二本角の銀姫に語り掛ける。
「最悪。死にそうじゃったよ。血は補充してもらいはしたがな。あの音にはかなわん。」
「音響兵器の実証性を、検証できるのだ。人間の役に立てたとあらば、君のことは見直されるだろう。」
「だといいがのぅ。」
「鬼と人が友好になる一歩かもしれん。」
「けっ。拷問しといてきれいごとを。」
「必要な犠牲だ。それによって君は生かされている。」
「まあ、よい。許してやろう。わしは心が広いからな。この程度の屈辱、忘れてやれる。」
「後で、血をコップ一杯持ってこよう。君への労いだ。」
「忘れるでないぞ。」
ツミが研究室Bを後にする。銀姫は、男の首筋の血管を男がいなくなるまで見ていた。
「ただの食糧風情がな。しかし、それでは生きて行けまい。・・・死にとうない。」
銀姫はつぶやいた。銀姫は遠い過去を思い出した。人間と少しばかり平和に過ごした日々を。
(あいつはもう居らぬ。)
銀姫はさみしい気持ちになった。冷たい鎖に揺られ、誰かのぬくもりが欲しかった。
ユキの訓練復帰の許可が出た。久々の自室で起き上がり、訓練室に向かう。セイも一緒だ。
「まずは、剣をもらわないとね。」
「あれ、結構慣れてたんだけどな。同じのないかな。」
「なければ聞いてみてあげるよ。」
「ありがとう、セイ。」
訓練室には、年下の子達が訓練していた。先輩である討伐隊が指導している。僕は、箱にしまわれた剣たちの中から、好きなものを取り出した。前とは少し違うデザインだけど、作りはほぼ一緒だ。人形の前に立つ。剣を振るう。若干鈍いか?人形の腕は取れたが、前とはやはり、感覚が違う。
「時間が必要そうだ。」
「ゆっくりやればいいよ。」
「早く君の隣に立ちたい。」
「焦りすぎは厳禁だよ。」
ソウがヨウを腕に絡めながら歩いて来る。
「復帰したのね。ユキ。」
「うん。」
「義肢でそこまで動けるなんて大したもんだよ君は。」
「ただ、セイに追いつきたいだけだから。」
「そうか。・・・手合わせ願おうか。木刀を持ってくるよ。」
「うん。」
ソウが、木でできた斧を持つ。僕は木刀を受け取った。ソウが斧を振り上げるのを受け止める。カチカチと音を鳴らしながら、稽古する。ソウの動きには切れが出来ていた。ここしばらく見ないうちに、皆は上達している。早く追いつきたい。焦る気持ちが僕の手から木刀をすっ飛ばした。
「もう少し時間が要りそうだね。」
僕は頷く。この気持ちをうまくコントロールしなくては。館内放送が鳴る。もう夕食の時間だ。
「ありがとう。ソウ。」
「こちらこそ。君が討伐隊に立つ日を待っているよ。」
夕飯を食べていると、目の前に久しぶりにアオイが座った。
「おひさ!調子はどう?」
「だいぶいいよ。アオイは?」
「すこぶる元気。でも、あの二本角がシェルター内にいると思うと、ちょっぴり不安。」
「何かわかったのかな?」
「私たちには、相変わらず報告ゼロよ。いつもの事だけどね。」
「環境が変わったりはした?」
「Aチームに音響兵器が配られてたぐらいかな。その内、私たちも使わしてもらえるみたいだけど。」
「音響兵器か。」
例の二本角を倒す作戦でケイトが受け取ってたな。使ったって言ってたっけ。
「ユキが元気そうで安心したよ。知り合いがいなくなるのは怖いもんね。」
アオイが僕の指に手を伸ばす。触られた。アオイの指の感触がわかる。
「意外と柔らかみあるかも。義手ってそんなのなんだ。着けてて痛くないの?」
「クッションついてるから平気。今となっては、着けてないと違和感があるぐらい。」
「へー。シェルターの技術力には驚かされるよ。」
「そうだね。」
夕飯を先に食べ終わったアオイが、じゃっと言って去って行く。僕はセイを見た。前の時と違って、セイは落ち着いている。
「嫉妬とかしないの?」
「ユキはもう、僕のものだろう。」
それもそうかと、セイに抱き着いてみた。セイが嬉しそうに笑った。
翌朝。館内放送で目が覚める。
「二番シェルターから、討伐隊及び先遣隊がやってきます。三番シェルターの討伐隊は、朝食が終わり次第、訓練室に集まってください。」
館内放送が終わると、僕はセイをゆすり起こした。
「目覚めのキスが欲しい。」
「これでいい?」
セイのおでこにキスをした。セイの目がカッと見開く。
「今日はなんだって?」
「二番シェルターの討伐隊がくるみたい。共同訓練とか?」
「訓練メンド。」
「終わったら、いい子いい子でもしてあげようか。」
「頑張るー!」
「はは。マジか。」
セイと一緒に食堂へ向かう。朝食を済まし、訓練室に向かう。いつの間にやらか、大勢の大人が訓練室に集まっていた。他の討伐隊の面々も続々集まる。隊長が入って来る。
「先遣隊は先遣隊同士、外で演習を行う。討伐隊は残って、訓練室で訓練だ。手合わせしてもらえ。」
先遣隊の大人が出ていく。セイもそっちに合流するらしい。僕らは、木刀を取って、大人の二番シェルターの討伐隊と、手合わせを始めた。
「君、義肢なんだね。」
二番シェルターの討伐隊の一人に言われた。
「問題なくやれますから。」
「そう?手加減しないよ。」
その宣言通り、さすがは本格的な訓練を行っていた大人。僕は簡単にいなされ、地に伏している。
「まだまだ若いね。筋はいいよ。才能あるよ君。もう少し剣術の腕がついたら、二本角にもかなうんじゃないかな。」
「手合わせありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ。腕が鈍ってないのがわかったよ。」
隣でケイトが大人の首に小型の木刀を当てる。
「負けちまった。すごいな、女の子なのに。」
「性別とか関係ないんで。」
さすがケイト。この中でも、群を抜いていた。続いて、銃の練習に入った。大人たちは、さすがはプロで、リロードの速度も、照準を合わせて、正確に当てる技術も並のものではなかった。リロードの速度も、照準を合わせる速度もかなわない。見よう見まねでまねをして、マガジンを落としてしまった。ケイトに至っては、的に当てられてすらいない。緊張もあるのだろうが。逆にセイは完璧にまねして見せた。リロードから、照準を合わせるまで、鮮やかな手並みだ。さすが、銃の扱いに関しては一番上手い。一通りの訓練をやり、今日が終わる。食堂に向かう途中、セイと合流した。
「そっちはどうだった?」
「ぜんぜん。プロにはかなわないや。」
「こっちは退屈だったよ。死角の確認とか、有利を取れる位置の把握とかそんなんばっか。」
「お疲れ様。」
「いい子いい子。」
セイがしゃがんだのをみて、顔を赤らめる。頭をなでてやる。ちょっぴり恥ずかしい。
「B都市の掃討戦も近いかな?」
「訓練させたぐらいだしな。やるだろうさ。」
夕食を摂って、部屋に戻る。風呂に入り、彼の腕で眠る。少し前までには厳しかったことができている。ユキはそんな満足感の中、眠った。
ツミは二番シェルターの管理人と話をしていた。
「この調子でいけば、B都市も取り戻せるでしょう。」
「それは良かった。討伐隊の方は十分使えるということですね。」
「はい。まずはそちらの先遣隊に、六番地区の偵察に行ってもらいます。それが終わったら、六番地区に兵力を投入します。」
「六番地区では、巨人が二匹確認されています。」
「ABチームと、そちらの討伐隊で処理しましょう。」
「ところで、そちらが捕獲した二本角の様子はどうですか。」
「・・・。現在調査中です。報告できることはありません。」
「・・・そうですか。音響兵器の方はどうです?」
「次回の作戦時に、全チームに配布予定です。」
「そうでしたか。こちらの討伐隊にも頂いても?」
「構いません。後で後方支援部隊にもっていかせましょう。」
「では、また後程。」
「はい。」
ツミには秘め事があった。日本全土に音響兵器を使うように先導したもの、鬼の何たるかを知っているもの、そのどちらにも日本という国をつぶそうとした意志が感じられた。今、外国に連絡がつかなくなった件も含めて、暗躍している者がいると。確信していた。しかしこの件、誰にも話せない。隊長、その他上級国民、研究者の先生にも。ツミは銀姫と二人きりで、監視カメラのないところで話したいと思っていた。監視カメラは、やろうと思えば、他のシェルターとリンクできる。ここにいるものが白だったとしても、その機能を駆使すれば、情報は筒抜けになる。たとえ音がなくても。ツミはどこかで、銀姫を開放したいと思っていた。
(次の二本角の時がチャンスか。)
銀姫からは本当に敵意を感じなかった。銀姫ならば、助言をくれるかもしれない。昔、ツミはお爺様に鬼の話を聞いたことがあった。鬼の監視者。ツミの一族はそんな仕事についていた時があった。重要役職で、任期を終えれば、出世のポジションが約束されていた。そんな存在がいれば、鬼がここまで自由に暴れられることはなかっただろう。あの時、音響兵器を使う少し前から、何かが少しずれたのだ。
(術師の生き残りは居るのだろうか?)
この災厄を止められる手立てを、ツミは考える。
(本当に人類も、もしかしたら鬼も滅びてしまう。)
ツミは上級区画に向かった。上級国民が優雅に茶をしばいていた。後ろではテニスをやっている。
(のんきで愚かなものだ。しかし、復興には必要不可欠。)
「やあ、管理人君。報告を。」
「はい。報告させていただきます。二番シェルターと連携を取り付け、B都市の掃討作戦が出来る目処が立ちました。」
「それはいい!んで、二本角は倒せそうかい?」
「はい。音響兵器の準備も整いましたので。二番シェルターの討伐隊も含めれば可能かと。」
「その調子でやってくれたまえ。我々も、いつかは元の暮らしに戻りたいからね。」
捕獲した二本角のことは伝えていなかった。変な混乱を招きたくない。テニスの方が盛り上がる。手前側の人間が、華麗なサーブを決めた。
「おお!すごいね。さすがだ。君はもういいよ。」
「では、失礼いたします。」
上級区画を去る。そこにシャロ嬢がやって来る。
「管理人さん!怪我人さんは良くなりましたか?」
「ええ、訓練にも復帰していますよ。」
「よかった。千羽鶴を折ったかいがありました。」
シャロ嬢は相変わらず、外への関心が強いようだった。
「勉強の方は進んでいますか?」
「も、もちろんよ。ちゃんとやっているわ。」
「私はそろそろ失礼します。まだ仕事がありますので。」
「あ、そうですよね。・・・また後でお外のこと教えてください。」
シャロ嬢が去って行く。それを見送って、
「もうひと仕事だ。コーヒーが欲しいところだな。」
ツミは、管理室に戻っていくのであった。




