回復 次の一手
ユキの病室に、再びセイのお父様が訪れる。
「ユキ君調子はどうだ?状態が安定してるなら、義肢の着用をしてみないか?」
「お父様。」
セイがたしなめる。でも、僕は覚悟ができていた。
「やってみたいです。」
「本当か!それはいい。医者を呼んでくる。」
しばらくすると、医者を引き連れたお父様が帰ってきた。あらかじめ用意していたのだろう。僕の手足に義肢をはめていく。
「まずは手から。動かしてみてくれ。」
手を動かしてみる。意識を集中する。わずかに手が動いた。
「では、立ってみましょう。」
セイに支えられて、立ち上がる。痛みもなく、立ち上がることに関してはスムーズにできた。
「歩いてみましょう。」
足がなかなか前に出なかった。やっとの思いで前に出すと、転んでしまった。
「リハビリは毎日必要でしょう。しかし、いつかは動かせるようになりますよ。」
それはいつ?と聞こうとして、飲み込む。ただ頷いて、セイの方を見る。
「僕、頑張るからさ、セイも頑張って。」
「そばに居たい。」
「でも、鬼退治はしなきゃ。少しの辛抱だから。」
そう言いつつ、自分自身も離れがたい思いにとらわれた。首を振って、セイの背を押す。
「必ず僕も戻るから。」
その日からリハビリが始まった。長くつらい時間が続く。大半の時間は、セイがついていてくれた。それでも、作戦の準備が始まると、リハビリは一人の時間になる。それがつらくて涙が出た。それでも、またセイと並び立ちたくて、努力ができた。
E地区掃討戦。やっとこの時間が来たと、みんなは重い腰を上げた。一月ほどの休息期間でも、みんなは怠らず、訓練をしていた。ケイトが訓練室から出た時、館内放送が鳴った。
「討伐隊は、会議室に来るように。」
会議室には、討伐隊の面々と、バスの運転手、セイがいた。
「E地区の掃討作戦を開始する。特筆すべき鬼は居ない。油断しなければ楽にこなせるはずの仕事だ。この長い休み明けという中で、気を緩めないように。」
ケイトは会議を聞きながら、セイの様子を窺った。セイは、いつも通りに会議を聞いていた。
(ユキは大丈夫になったのかしら。)
そんなことを考えていると、館内放送が鳴る。昼食の時間だ。隊長が話し終わる。
「以上だ。何か心配事はあるか?・・・無いな。では、解散。」
ケイトはお昼をもって、医務室へと行った。ユキがいない。
「あれ?」
そばを通りがかった看護師さんから、ユキがリハビリ室で頑張っていることを聞く。
リハビリ室。
ユキがぎこちなく歩いているのが見えた。
「ユキ!」
手を振る。ユキがぎこちなく振り返す。一緒に昼食を食べることになった。
「セイ。会議室に来てたよ。」
「僕が行くように言ったんだ。」
「リハビリ大変そうね。」
「まあね。」
「E地区の掃討戦は、楽に済みそうよ。C地区の後だからね。鬼の一匹や二匹、もう怖くもなんともない。」
「怖いって思ってた時期があるんだ。」
「そりゃそうよ。怖くない方がおかしいわよ。だって、鬼よ。おとぎ話でしか聞いたことない。大概は、悪者。桃太郎とかね。」
「泣いた赤鬼とかは?」
「あんなのあり得ないわよね。あったとしても、一緒になぎ倒すしかないわよ。できる限り、早めにとどめは刺してあげるけどね。」
「はは。ケイトらしいね。」
「妹ね。上級区画で過ごしてんの。」
「どうして?」
「設備の問題よ。あそこにしかいい設備がないらしいの。酸素を送り込まないとだから。」
「肺が弱いんだっけ。」
「そう、十分に酸素を取り込めないのよ。顔、見たいな。」
「本当に妹のことが好きなんだね。」
「唯一の家族だから。」
「僕の周りにいた友達たちからは、兄弟の憎まれ口ばっか聞かされていたから、なんだか意外な気がするんだ。」
「そうは言っても、大事に思っていた人の方が多いと思うよ。だって、血を分けた家族なんだから。」
「・・・この一か月で、セイの事愛せるようになったんだ。」
「良かったじゃない。セイを思えるのが一番いいでしょう。」
「うん。でもね、ヒナタのことも忘れてないよ。」
「そっか。二人はどうやって出会ったの?」
「セイに監禁されて。当時付き合っていた彼女のことで、ひと悶着あって。気づいたら告白されて、指輪まで着けられて。」
ユキが首にかけたチェーンに触れる。
「今となってはセイと出会えてよかったのかもしれない。」
「そっか。よかったね。」
ケイトはユキと別れて、訓練室に向かう。
「そう、妹のためにもっと強くならなきゃ。」
E地区。ここまではバスで来た。セイがバスから降りる。
「頑張れよ。」
元討伐隊の生き残りの男
(名前何だっけ?)
に背中を押され、手を上げる。ユキがいなくてやる気半減だけど、ユキに頑張るように言われてやる気百倍だった。ルンルン気分でE地区を見渡す。早速鬼を発見する。動かないタイプ。背後から気配を消して忍び寄り、斧を振るう。首が飛んでいく。
「っと、いっけね。」
首を追いかけ、角を剥ぐ。角は鬼の力の源だ。持って帰って研究に利用する。忘れると、鬼が復活する可能性があるから忘れるわけにはいかない。ファミレスに入る。鬼が潜んでいるのはバレバレだ。二匹。飛び込んできたところを叩き切る。さらにもう一匹。斧を手早く持ち直して、頭をつぶす。
「よし、二匹。」
角を剥ぐ。三本目。続いてバー。暗がりが多いところに鬼は居る。暗闇に向かって斧を放る。クリーンヒット。頭がつぶれる音。斧を抜いて。角を剥ぐ。四本目。最後にボウリング場。入口に入ってすぐさま飛び込んできたやつに一撃。まっすぐ突っ込んでくる奴に、二撃目。奥にボーっと突っ立ている奴の背後を取って、三撃目。全部で六本の角。カバンにしまって、バスへと戻る、夕暮れ時。
(ユキにいい報告が出来そうだ。)
バスに戻る途中、Bチームを見かける。ケイトもいる。背後に何かが光るのが見えた。斧を投げる。バキッ。鬼の腕が飛んで、斧が民家の壁に刺さる。気づいたケイトがすかさず、ダガーで鬼の首を取った。
「やるぅー!」
「ありがとう。セイさん。おかげで助かったわ。」
斧を民家の壁から抜きながら、
「いいってことよ。」
そう返した。皆でバスに戻る。
「皆揃ったな。帰るぞ。」
バスが発進する。俺の後ろにソウが来る。
「鬼の気配ってわかるもんなんですか?」
「まあね。」
「やっぱり、特別なんですね・・・。」
「訓練を積めばわかるようになるよ。」
「そうかもしれませんね。」
他愛ない話を終え、シェルターに着く。俺は一番に降りて、ユキの元へと向かった。途中、角を提出する。
「ユキユキユキ。ユキー!」
ユキを見つけるな否や、抱き着いた。ユキも抱き返してくれる。それが何より嬉しかった。
「明日、確認が終わったら、病室デートしよう!」
「病室デートってなんだよ。・・・別にいいけど。」
「やったー!」
俺ははしゃぐ。ユキがデレてくれるようになってから、ついついテンションが上がってしまう。
「何体倒したの?」
「六匹。」
ユキが感嘆の声を上げる。
「セイはやっぱりすごいや。」
見つける感のよさも倒す効率の良さも高いとは、自負していた。タオルを取ってきて、ユキの体を拭いてやる。
「僕も、トイレぐらい一人で入れるようになりたいな。」
「そのぐらい俺がきれいにしてあげるのに。」
「それは助かるけども。」
うにょうにょと何か言う。聞き取れなくって、顔を近づける。キスの音。頬にされた。ユキはごまかすようにキスをするなーと思いつつ、服を着させてやる。もっと大胆なキスをされてみたいと、セイは思う。試しに唇にキスをする。ユキは拒まず受け入れる。舌を入れたら?そう思ったが、明日のデートまで取っておくことにした。
「そろそろおやすみだねユキ。」
「うん。ゆっくりお風呂に浸かって休んでよ。」
「はーい。んじゃ、また後でね。」
俺は部屋を出て、ユキに手を振った。ユキがぎこちなく振り返す。
(かーわいい!)
ツミは、二番シェルターからの映像を細めで見た。シェルター入口の監視カメラ。二本角が、扉をノックする。しばらくそうしていると、飽きたのか、二本角は去って行った。
「ここんとこ毎日だ。パンデミックの時はなかったのに。」
「中に入ろうとする気配は?」
「今のところはないよ。ただ、迂闊に外に出れない。やって来る時間がバラバラだからね。そもそも、見えないところで待機しているかも。」
わからない。二本角の行動原理が、目的が。
「派遣してくれないか。そちらの討伐隊を。おちおち、寝られもしない。」
「もう少し時間をくれるなら、必ず派遣しよう。」
「我々が死なない程度ならね。」
通信を切る。もう一度映像を見る。二本角がやって来る。足を引きずっているように見える。ノックをする。ノックしない方の片手はだらんと下がっている。
(弱っているのか?シェルターに助けを求めてきた?そんな馬鹿な。)
心なしか、角が不健康そうな色を発しているように見える。
(もしも本当に弱っているなら・・・チャンスかもしれない。)
弱っているところに襲撃をかければ、軽々勝てるかもしれない。戦力はじわじわと削られている。できればこれ以上子供を投入したくない。心が痛むのもあるが、ほとんどは肉盾以上の効果を発揮しないからだ。ケイトみたいにガンガン攻められる子はまれだ。ガンガン攻められる子は、生存率がわずかに高い。逆に、消極的で、戦いを避けたがる子はほとんど不意打ちでやられてしまう。大人の討伐隊が欲しい。先遣隊でもなく。討伐隊。討伐隊は、大型の武器を振り回し、鬼を狩れる。先遣隊の装備は、戦いにおいては必要最小限だ。それでも、鬼とやりあえば生きて帰って来るほどに優秀だが。討伐隊がいれば、二本角を楽に狩れるかもしれない。元自衛隊や傭兵。腐っても戦闘のプロだ。最初の二本角にやられた討伐隊も、かなりうまく時間を稼いでくれたことは、セイが報告している。相手が悪く、異能への対策がなかったことが、ほぼ全滅した原因だ。異能の対策。これがこれからは重要になって来る。しかし、異能の確認手段はない。捨て駒を用意するわけにはいかない。ならば、意思疎通の取れる二本角から情報を仕入れるのはありか?生け捕り。ツミの頭の中で、明かりが灯る。
(出来るのか?生け捕りなんて。前代未聞だ。)
ツミは捕獲に使う道具を考える。音響兵器、壊されない拘束具、いつでも殺せるような武器。そこに隊長がコーヒーをもってやって来る。
「しかめっ面。カフェイン不足か?やるよ。」
「助かるよ。E地区の方はどうだ?」
「明日の確認作業さえ終われば、晴れてC都市は解放されたといえるな。」
「大体、三か月程度か。」
「思っていたよりも早かったな。」
「先生はどうしてる?」
「研究室に閉じこもりさ。E地区掃討で使った、兵器の調整さ。」
「先生に拘束具を作ってほしいのだが。」
「拘束具?またなんでそんなもん?」
「弱っている二本角がいる。拘束して拷問してみようと思う。」
「チャレンジャーだね。まったく、人間様は恐ろしいよ。」
「とにかく頼んでおいてくれ。」
「あいよ。二番シェルターとはどうだ?」
「近々協力関係を結べるさ。」
「そりゃいいな。ここ最近で一番のグッドニュースかもしれん。」
「あまり期待はするなよ。今の討伐隊の方が強いかもしれん。」
「かもな。二本角、倒したもんな。」
温かいうちにコーヒーをすする。すでに冷め始めていた。
「ユキも使えるようになるかもしれん。」
「リハビリ始めたんだっけか?まあ、セイの士気は上がったも同然だな。」
セイの寂しそうな横顔を思い出す。彼女が去った後も、いつもあんな顔をしていた気がする。
「セイの調子は?」
「上々だ。六体狩った。Bチームに不意打ちを仕掛けようとしていた個体も、腕を叩き切って、無力化したそうだ。」
「そうか。セイに頑張ってもらう時は近いな。何か褒美を考えてやらないと。」
「どうせ、ユキと外にデートに出たがるぜ。」
「それ以外にも考えてやるべきだろう。」
「それを言うなら、討伐隊全体に何か褒美をくれてやってくれ。」
「それもそうだな。考えておく。」
コーヒーを飲み切り、カップを置く。隊長は去って行った。ツミは、もう一度モニターを眺めて考える。
(有効な拷問・・・。)
ツミの中には黒々としたものが渦巻いていた。




