第二十三話:ホワイトアウト、あるいは清算のログ
「……バカな、私の領域が……! 私の最高傑作が、ただの白紙に書き換えられていくというのか……ッ!」
二つの指輪が共鳴し放たれた白銀の波動によって、葛城の「霧」は霧散した。時計塔の上で実体化した葛城が、折れんばかりに血の筆を振り上げ、最後の悪足掻きを仕掛けようとする。
「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに。……葛城、お前のその『キャンバス』ごと、俺のシステムで塗りつぶしてやる」
俺は左手の指輪を強く握り込み、十二天将の実行コードを全展開した。
「――天空、空間転移。太陰、認識阻害で外への影響を出すな」
一瞬で、周囲の空間がデジタルノイズのように激しく歪む。強力な認識阻害により、坂を歩く観光客たちにはいつも通りの穏やかな風景を見せかけながら、俺たちは隔離されたバトルドメインへと強制転送された。
「――六合。旧領事館、丸ごと封鎖。……鼠一匹、外には出すな」
俺が指先を振り下ろすと、旧領事館の敷地全体を囲むように、不可視の巨大な檻(結界)が構築された。逃げ場を完全に断たれた葛城が、血の絵具を固めて巨大な化け物を描き出そうとするが、俺の演算速度の方が速い。
「――青龍。銀の熱量を雨に変えて、結界内のすべてを洗い流せ」
俺が指先を天に掲げた瞬間、結界内の空に、漆黒の雨雲が急速にレンダリングされた。局地的な豪雨――。だが、それはただの水ではない。指輪の銀の波動を宿し、邪悪なバグを溶かすために最適化された「白銀の雷雨」だ。
叩きつけるような豪雨が、閉ざされた結界の中で葛城を飲み込む。
「ぎ、ぎあぁぁぁぁっ!? 熱い、溶ける……私の、私の色がぁぁ!!」
吸血鬼の力を過信した葛城の肌は、指輪の力を宿した雷雨に触れた端から、描き損じの絵具のようにドロドロと地面へ溶け落ちていった。始祖の権限さえ、この圧倒的な浄化の雨の前では、ただの乾いていない絵具に過ぎない。
葛城は断末魔の叫びと共に、排水溝へと吸い込まれるように完全に消滅していった。
「……な、なんやこれ。……圧倒的すぎるやろ……」
道満が、自身の白雷を撃つのも忘れて呆然と立ち尽くしていた。
「……晴明。お前、いつからこんな……デタラメな権限を……」
博雅も黄金の氣を収め、その凄まじい「白銀の断罪」の光景に、ただ息を呑むことしかできなかった。
俺は濡れた前髪をかき上げ、五芒星のジッポを弄った。
結界を解除すると、北野には再び、穏やかな秋の陽光が降り注ぎ始めた。
なぁ、あんたならどう思う?
昨夜、ラブホでバカやってた幼馴染が、次の日の正午には神の如き権限でバグを洗い流しているなんて。
「……やりたかないねー、ホンマによー。……でも、これで『清掃作業』は完了だわ」




