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やりたかないのに陰陽師参  作者: 辻本 真悟
第四章:外務省の裏口とハイノーンの決戦
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第十九話:払暁のアップデート

「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに。人生で一番気まずいログを、今この店に刻んどる自覚があるわ」


 俺は親父の辛辣な言葉に耳を塞ぎたいのを堪え、カウンターの端に座った。博雅の報告が「……ああ、その、上書き作業に時間がかかって……」なんていう、子供の言い訳みたいな曖昧なものだったせいで、店内の空気はより一層、発火寸前のガスが充満したサーバー室みたいになっていた。


「それで、晴明? 『上書き』の方はバッチリだったのかしら。母さん、そのログの精度がとっても気になるわ」


 母ちゃんが頬杖をつき、ニヤニヤと楽しそうに問いかけてきた。その瞬間、横に座っていた道満が「……っ!?」と肩を跳ねさせ、茹で上がったサーバーみたいに顔を真っ赤にして俯いた。


「……そ、それは……その……。……すっごい、熱量やった、わ……」


 トロンとした目を隠すように消え入りそうな声で答える道満。そんな彼女の反応を見た母ちゃんは「あらあら、うふふ。最高のパッチが当たったみたいね」と満足げに笑った。


 一方で、俺の背後には、吸血鬼よりも遥かに冷たい「絶対零度の殺気」が立ち込めていた。


「……ちょっと、安倍くん。あんたねぇ、まだ高校生でしょ! 任務の最中に何ログインしちゃってるわけ!? 教師として、不適切な性愛ログをこの非常事態に見過ごすわけにはいかないわ。……今すぐそのだらけた脳細胞、再起動(往復ビンタ)してあげようかしら」


 りお先生のガチの「生活指導」が、俺の後頭部に突き刺さる。その視線の先では、西園寺総理が、眉間を押さえながら心底呆れ果てたというトーンで口を開いた。


「……一応言っておくけれど。十八歳未満がそんな場所に出入りするのは、条例以前に人として、ましてやこの状況下では論外なのよ。一国の総理として、あなたたちの倫理観をどう立て直すべきか、本当に頭が痛いわ……」


 総理の「至極まっとうな呆れ」に、保憲にいたっては「……有世、彼らの低俗なパケットデータはもういい。廃棄したまえ。……呆れて演算が止まるよ」と、眼鏡を曇らせていた。


 一通り俺たちを突き放すような空気が流れた後、西園寺総理がふと、品定めをするような鋭い視線を俺と道満に向けた。


「……ところで、一つ確認しておきたいのだけれど。あなたたち、付き合ってるの?」


 国家のトップからの、あまりに直球すぎるパーソナルなクエリ。

 店内の全リソースが、一瞬で凍りついた。


「……え、あ、それは……」

 道満が顔を火炎瓶みたいに熱くして、金魚のように口をパクパクさせている。

 俺はといえば、五芒星のジッポを弄りながら、脳内の演算回路がショート寸前だった。


 なぁ、あんたならどう思う?

 特定の彼女を作る気もねーし、まだまだ遊びたいと思ってた矢先に、日本で一番権力のあるババアに「関係性の定義」を迫られるなんて。


「……総理。……そういう野暮なパッチを当てるのは、葛城をデリートした後にしねーか」


 俺が投げやりに話題をリブートすると、有世がタイミング良く(あるいは空気を読んで)タブレットを叩き、冷静なトーンで報告を上げた。


「葛城ですが、夜の神戸の闇に紛れて完全にロストしました。広域スキャンを繰り返していますが、現在、一切の反応がありません」


「潜伏されたか。奴は夜の闇という管理者権限ホームを使い、完全に身を隠したね」


 保憲が冷徹なトーンで続けた。

「だが、奴が次にログインしてくるタイミングは明確だ。明日の正午、太陽が頂点に達する瞬間だよ。奴は、この街の全住民の意識をキャンバスへ強制転送アップロードするつもりだ。……神戸そのものを一つの巨大な『静止画』として固定するためにね」


 保憲の言葉が、店内の空気をようやく「仕事」へと引き戻した。


「……やりたかないねー、ホンマによー。……行くぞ、道満、博雅。……一旦解散だ。ここに居たら、明日の前に俺のHPが全削除されてまうわ」


 俺は逃げるようにカウンターから立ち上がり、道満と博雅を連れて店を出た。秋の夜風が、店内の熱気を冷たく冷やしていく。


「……晴明。この指輪、これからの戦いにも必要なんやろ? ……絶対、外したらあかんで」

 道満が左手の中指に輝く銀輪を、愛おしそうに握りしめて俺を見た。


「……ああ。葛城の消滅ログを肴に、明日は最高の母ちゃんの飯を食うんだわ。遅刻すんじゃねーぞ」


 俺は五芒星のジッポを弄り、北野の深い夜へと歩き出した。

 明日のハイノーン。俺たちの「上書き」が本物かどうか、あの美術商バグに見せつけてやるんだわ。

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