表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりたかないのに陰陽師参  作者: 辻本 真悟
第二章:純銀のデバイスと総理の再来
14/25

第十四話:ハイノーン・ステート・ログ

 翌日、学校の昼休み。俺たちは有無を言わさず、保憲の「権限」によって呼び出された。


「学校側には事前にパッチを当ててある。早退のログは全て処理済みだ。安倍くん、道満、博雅くん。今すぐ帰宅したまえ。一旦フォックス・テイルで合流後、北野にある葛城のアトリエに向かってもらう」


 保憲の冷徹なコマンドに従い、俺は一旦家へ戻った。母ちゃんと親父が昨晩の「パッチの当てすぎ」でまだ少しふわふわした空気を漂わせている店内で、道満と博雅を待っていると、店の前にパールホワイトのシーマが滑り込んだ。


「……もう、朝から晩までバグ取りばっかり。私の有給データが完全に消失したわ」


 りお先生が店に入るなり、カウンターに突っ伏して嘆く。それを見た親父が、懲りもせずに「りおちゃん、そんな怖い顔しないで。俺が癒やしてあげようか?」なんて、死ぬほど軽い口調で口説きに行こうとした。


「泰臣さん、あらあら、うふふ。……何かしら? 私、まだ少し『熱』が残っているのだけれど」


 母ちゃんが微笑んだ瞬間、店内の空気が一変した。

 視覚的には穏やかだが、母ちゃんの背後から漏れ出す六本目の尻尾の残響が、物理的な重圧となって親父を押し潰す。


「……ッ、葉子さん、死ぬ! さすがに六本解放中にその笑顔は死ぬって!! 冗談やって、今のはただの挨拶ログです!!」


 親父が白目を剥きそうになりながら後ずさる。そんなわが家のドタバタ劇を冷ややかに見つめていた先生が、声を低めた。「……晴明。もうすぐ到着予定みたいよ。永田町のトップがね」


 カウベルが凛とした音を鳴らした。

 踏み込んできたのは、数人のSPを従えた西園寺 麗子総理だ。土蜘蛛の一件以来だが、その圧倒的な存在感システム・プレッシャーは、店内の空気を一瞬で「国家最高機密」のレベルまで書き換えてしまう。


「安倍晴明くん、それに泰臣さんに葉子さんも。……またこの街に、不穏なノイズが紛れ込んだようね」


 そこへ、息を切らせた道満と博雅が合流した。全員が揃ったのを確認した麗子総理だったが、本題に入る前にふと、俺と道満の左手に目を留めた。


「あら……。そのお揃いの銀の指輪……。ふふ、そういうことなのね。非常事態とはいえ、若いエネルギーが同期シンクロしているのを見るのは、政治家としては心強いログだわ」


「「……ち、違います!!」」


 俺と道満の声が見事にハモるが、総理は余裕の微笑みで聞き流し、手元のタブレットを開いた。


「加茂家のお坊っちゃん……保憲くんには既に伝えてあるけれど。今回、日本政府として、あなたたち『生徒会』に、神戸を侵食する吸血鬼の完全駆除デリートを正式に依頼します」


 総理は真っ直ぐに俺たちを見据えた。

「これは依頼ではなく、もはやこの国のOSを守るための義務だと思ってもちょうだい。今回のバグは、国境を越えた重大なシステムエラーなの」


 総理直々の「国家依頼」。話がデカくなればなるほど、俺のやるモチベーションは急速にシャットダウンしていく。


 なぁ、あんたならどう思う?

 昼休みに強制早退させられた挙句、日本初の女性総理に「世界の掃除屋デバッガー」を任命されるなんて。


「……やりたかないねー、ホンマによー。……麗子総理。依頼料は、支持率じゃなくて、たっぷり睡眠時間で払ってくれよな」


 俺はため息をつきながら、左手の銀の指輪を弄んだ。

 太陽は一番高い位置にある。吸血鬼の実行速度が落ちるこの時間、俺たちは最悪の「昼仕事」へ向けて、北野の坂道を上り始めることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ