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やりたかないのに陰陽師参  作者: 辻本 真悟
第二章:純銀のデバイスと総理の再来
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第十三話:居留地・オーバーナイト・クリーンアップ

白銀の炎が収まった後の旧居留地には、ただ静寂だけがリロードされていた。

 さっきまで牙を剥いていた眷属たちは、浄化のパッチを当てられたことで強制ログアウトし、今はただの「疲れ切ったサラリーマンや通行人」に戻って、その場に折り重なるように倒れている。


「……ちょっと晴明! 今の反則やろ! うちがコツコツ一匹ずつデリートしてたんに、まとめて一気になんて卑怯すぎるわ!」


 道満が、火花を散らす左手を振り回しながら猛抗議してきた。せっかくの「浄化の白雷」のスコアを横取りされたのが、相当腹に据えかねているらしい。


「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに。効率化だよ、効率化。お前こそ、いつまでパルス出しとんねん。無駄遣いすんな」


「何やと!? 副会長になった途端、偉そうに……!」


「……やれやれ。お前ら、場所を考えろ」

 博雅が黄金色の氣を霧散させ、呆れたように溜息をついた。その視線の先では、りお先生がシーマのボンネットに腰掛け、スマホを耳に当てていた。その顔は、吸血鬼よりも遥かに恐ろしい「管理者」のそれだ。


「……ええ、そうよ。片付いたわ。……はぁ? 何言ってるのよ、このクソババア! こっちは睡眠返上でバグ取りしてんのよ! 文句があるならあんたの支持率を先にデリートしてあげましょうか!?」


 先生が永田町のトップ、日本初の女性総理・西園寺 麗子を相手に、あろうことか「クソババア」呼ばわりでブチ切れている。車内にまで響く怒声に、俺たちは思わず身をすくめた。


「勝手にしなさい! 切るわよ!」


 ツン、と激しい音を立てて通話を終了させたりお先生は、俺たちを振り返って吐き捨てた。


「……信じられない。あのクソババア、事態がデカすぎて不安になったのか、自分もヘリでこっち(神戸)に来るって言い出したわよ。明朝には着くんですって」


「……はぁ!? 西園寺総理が来るのかよ。土蜘蛛の時もそうだったけど、あの人、現場主義が過ぎるんだわ」


 俺が投げやりに言うと、先生はさらに顔を歪めた。

「わお。あんたたち、異世界転生者もビックリの無双っぷりだったけど、次は『政界の女帝』っていう名のモンスターの相手もしなきゃいけないみたいね。……とりあえず、シーマに乗りなさい。ここは警察に任せて、一旦撤収よ」


 博雅が本部長である親父へ「後の処理は頼む」と手短に報告を終えると、俺たちは泥のように重い身体を引きずって後部座席に潜り込んだ。


 深夜二時。

 秋の夜風が、興奮した脳を冷たく冷やしていく。


「……りお先生。母ちゃんが言ってた。……『霧の王』とは、夜に戦うな、ってな」


「……そうね。私も管理者として同意見よ。……夜の奴らは無敵の管理者権限チートを持ってる。決戦は、太陽が昇ってから。……それまで、あんたたちは強制スリープよ。総理が来る前に、しっかり休んでおきなさい」


 シーマは深夜の三宮を抜け、俺たちの住む北野へと走り出した。

 俺の左手の中指で、銀の指輪が月の光を反射して、かすかに鈍い光を放っている。


 なぁ、あんたならどう思う?

 一晩の平和を守り抜いたと思ったら、明日の朝には吸血鬼の始祖と、さらにはあの西園寺総理までが同じセクターにログインしてくるなんて。


「……やりたかないねー、ホンマによー。……明日、学校だけじゃなくて国ごと休みにならねーかな……」


 俺は腕章をポケットに突っ込み、意識の電源プラグを静かに引き抜いた。

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