第十話:コンプライアンス・アサシン
「……はぁ。やりたかないねー、本当に。生徒会? そんな真面目腐ったシステム、俺の人生にはインストールされてねーんだわ」
俺と道満、博雅の三人は、カウンターに投げられた『生徒会』の刺繍入りの腕章を、まるでウイルス付きのファイルでも見るような目で睨んでいた。だが、その拒絶が届かないことは、保憲の眼鏡の奥で光る冷徹なログを見れば明らかだった。
その時。静まり返った店内に、二つの着信音が同時にリロードされた。
「……お母さんからや。え、今!? ……もしもし、お母さん? ……は? 予備校代を生徒会の手当で賄え!? 政府からの依頼なんて、そんな怪しいモン……! いや、お母さん! 待ってって!!」
「……俺も親父からだ。……え、内申書? 生徒会に入れば大学進学に有利……? いや、親父、俺はそういうの、……え、ちょ、親父!?」
二人の必死なパッチ修正(言い訳)は、親という名の「上位管理者」によって一瞬で強制終了された。
保憲は弁当の焼き鮭を咀嚼しながら、事も無げに吐き捨てた。
「博雅くんのご実家には、生徒会の活動実績が内申点に与えるプラスの効果をプレゼンしておいたよ。そして道満さんのところには、君たちが今食べているのと同等の特注弁当を届けた時に、『生徒会はたまに政府からの依頼が入るので、大学進学のための予備校代くらいにはなりますよ』と添えておいた。……二人とも、親を納得させるだけの『代替案』、今この場で出せるかな?」
「…………くっ、もろたで、って顔すんなや、オムライス会長!」
道満が顔を真っ赤にして腕章をひったくり、博雅も「……外堀どころか、本丸までハックされてるとはな」と項垂れながらそれをポケットにねじ込んだ。
「……やれやれ。これで会計と総務は『確保』だ。……さて、残るは副会長、君だけだね。安倍くん」
「断る。……俺は親が九尾だろうが探偵だろうが、自分のログは自分で管理するんだわ」
俺が最後のリブート(抵抗)を試みた瞬間、保憲はニヤリと口角を吊り上げ、有世に合図を送った。
空中にホログラムが投影される。そこに映し出されたのは、裏路地で気怠げにタバコを吹かし、コンビニで買った酒を煽る、高解像度の俺の姿だった。
「……あ」
「有世が趣味で撮り溜めた、三代目・安倍晴明の素行ログだよ。……これ、学校側にアップロード(送信)されたらどうなるかな? 退学? それとも、一生消えない汚名として保存されるか……選ぶ権利は君にある」
「……お前、マジで人の心ねーだろ、保憲ッ!!」
俺の絶叫は、保憲の冷たい薄笑いに飲み込まれた。
なぁ、あんたならどう思う?
仲間の弱みを握り、親を抱き込み、最後は脅迫。これが新しい「生徒会」という名の、最悪のシステムの立ち上げ(ローンチ)なんだ。
「……やりたかないねー、ホンマによー。……分かったよ、副会長になってやるよ……!」
俺が半泣きで腕章を掴み取った、その時。
二階の事務所から、銀の十字架が「異世界の力」を帯びて変貌していく、凄まじい共振ノイズが響き渡った。




