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第8話 そのときだけ、世界は静かになる


休日。


特に行く場所を決めたわけでもなく、気づけばショッピングモールにいた。


人は多い。

騒がしいのも、別に嫌いじゃない。


ただ、


長くいると、少しだけ疲れる。


視線とか、声とか、

いちいち気にしてしまうから。


――だから。


店の中に入る。


並んだ色と、形と、

余計なもののない空間。


レースの端を、指でなぞる。


柔らかい感触に、意識が少しだけ沈む。


周りの音が、遠くなる。


人の声も、足音も、

全部、少しだけ薄くなる。


目の前の色と形だけが、はっきりしていく。


ただ、見ているだけでいい。


気づけば、手に取っていた。


レースと、淡い色のリボン。


少しだけ迷って、

それでも、そのままレジに持っていく。


袋に入れられていくそれを、ぼんやりと見ていた。


店を出て、

歩きながら、袋の口を少しだけ覗く。


さっき選んだものが、そのままそこにある。


――別に。


ただ、目に入っただけ。


なんとなく、手が伸びただけ。


それだけ。


近くの鏡に、ふと視線が映る。


少しだけ髪が邪魔で、

その場で軽く結ぶ。


左右で、適当に。


それだけで、また歩き出す。


雑貨屋の前で足が止まる。


同じようなものばかりなのに、

見ていると、少しだけ落ち着く。


そのまま、しばらく動かないでいた。


――だから。


気づかなかった。


「……なに」


視線に気づいて、顔を上げる。


見慣れた顔が、そこにあった。


悠真だった。


どうしてここに、とは思わない。

そういうこともある。


ただ、少しだけ視線が合うのが早かった。


向こうは何か言いかけて、やめる。


そのまま視線を逸らして、

でも、また戻してくる。


――落ち着かない。


そう思って、すぐに視線を外した。


手に取っていた雑貨を、元の場所に戻す。


「別に」


それ以上、話すこともない。


そのまま店を出ようとして、


「……なんか」


後ろから声がする。


少しだけ、足を止めた。


「……雰囲気、違うな」


一瞬の間。


意味を考えるより先に、

さっきまで見ていたものが、頭の中で繋がる。


服と、髪と、

袋の中の色。


――ああ。


そういうことか、と思う。


「……は?」


とりあえず、いつも通りに返す。


それ以上は、何も言わない。


ただ、


少しだけ視線を逸らした。


そのまま歩き出す。


さっきより、少しだけ早く。


――別に。


どうでもいい。


そう思っているのに、


足音が、後ろに続いてくる。


振り返るほどでもない。


追い払う理由もない。


そのまま、歩く。


並ばないまま、

少しだけ距離を空けて。


同じ店に入って、

同じものを見て、


でも、別々にいる。


ときどき、短く言葉を交わして、


それだけ。


――それだけのはずなのに。


さっきまでとは、少しだけ違う。


理由は、よく分からない。


出口が見えてきて、足を止める。


「じゃあ」


それだけ言って、歩き出す。


振り返らない。


けど、


少しだけだけど、


後ろの気配が離れるまで、分かっていた。


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