表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消し炭にされて死に損ないの最弱プリンセスが、最強の異能を開花させて全てを飲み込みます〜ミセス アナコンダ〜  作者: 大背戸智
第六章「鍛冶郷アンボス編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/84

第70話:「姫」

今日は駆け足です

扉が、開いた。


その先は行きとは違い、明らかに人工的だった。

見た目だけではない。

火山の熱は消え、換気のための風すら

心地いいものだった。


「帝国様様だな」


天井に淡い光が等間隔で落ちている。

両側の壁に、ご丁寧に印章が彫り込まれていた。


(——)


息が、うまく吐けなかった。

十数年過ごしてきた、城の地下とは似ても似つかない。

ただ、不気味なほど圧迫感を感じた。


「気味が悪ぃ」

「そうね」


(誰が、これを、ここまで運んだの)

(運んできた人間が、何人いるの)

(——そして、何人、消えたの)


「行くぞ」


そんな感傷から剥がしてくれら声が今の私にはいる。

時間は、1/3も残っていない。

カリナの足跡は、まだ薄く、奥へ続いている。


***


通路を歩きながら、壁の印章を、目で追った。


帝国軍の紋章の、下に。

小さな文字が、刻まれている。


(——読める)


頭の奥で静かに巡る。

言語理解のスキルが勝手に翻訳してくれる。


“火山系鉱脈・芯”

“規格・第三世代”

“加工後用途——照明、暖房、駆動補助”



文字の下に、簡素な図表。半透明の塊。

内側に、赤い脈のような筋が走っている。


——もしかして


顔を、上げた。


「ガルド」


「あ?」


「上、見て」


ガルドが、首を傾けた。

光の中の赤い脈を、しばらく見つめた。

それから、眉間の皺が深くなった。


「……あれ、芯か?」

「芯よ。壁の規格に、書いてある」

「あいつら、芯を、明かりに、してんのか」

「掘り尽くした側の、余裕ってやつね」


ガルドが、息を吐いた。何かを言いかけて、飲み込んだ。ドルンと、同じ顔だった。


***


わざわざガルドに頼むまでもない。

あんな屈辱はもうごめんだ。


影を、足元に呼んだ。


——出ない。


地面から、黒い塊が立ち上がろうとして、

すぐに崩れた。形にすら、なれなかった。

影の蛇は、地面の上で薄く滲んで、消えた。


(——あら)


頭の中で、何かを待ってみる。

いつもの、甘い声を。


しない。


返事も、お小言も、ない。


(……静かね)

(いつもなら、何か、言ってくるのに)



胃の底が、軽く冷たくなった。



(まあ、気分屋ね、あの子も)

 


唇の端を、軽く上げる。



(——まあ、いつか起きるでしょう)



そう、決めつけてしまった。


「ガルド」


「あ?」


「あれ、取りたいんだけど」


「影で、取れねえのか」


「今は」


それ以上は、説明しなかった。

ガルドも、聞き返さなかった。


ガルドが、ふん、と鼻を鳴らした。


「貸せ」


「は?」


「今度はお姫様を肩車をして差し上げよう」


(——肩車って何よ。さっきよりはマシなはずよ)


「キャッ!」


軽い悲鳴をあげると同時に体重が、ふっと消えた。

と思ったら、天井が、近くなった。


「姫、景色はいかがですか?」


「わ、悪くはないわね」


「ウチの姫はかわいくねえな」


そんなガルドの小言を受け流すほど、

芯に見惚れてしまった。

光源は、思ったよりも薄い、ガラスの殻に包まれていた。赤く脈打つ塊が、ゆっくり息をしている。


これを最初に見つけた人間は、たぶん、息を呑んだはずだ。炉の中でしか会えない素材が、火の中に置かれずに、ただ空気の中で、脈を打っている。


ドルンなら、抱きしめるかもしれない。


帝国の誰かは、抱きしめなかった。

ガラスで囲って、廊下に、ぶら下げた。


——使えるだけ、使えばいい。


そういう、整え方だった。


手を、伸ばす。殻の留め金は、簡単な作りだった。

外すと半透明の、赤く脈打つ塊が、

私の掌に——ことり、と収まった。


熱が、まだ内側で動いていた。

心臓を、手のひらで握ったような感触だった。


「やっと、あなたも報われるわね」


口の端を、上げる。


残りの光は、まだ規則的に、落ちている。

廊下の奥まで、ずっと続いている。


「もらえるだけ貰っていくわよ」


***


カリナの足跡が、廊下の奥へ、まだ薄く続いていた。

岩盤の凹凸の、影の側に。

書類の束を抱えて走った人間の歩幅。

多分、これを辿ると出口に着くはずだ。


「鉱脈の方は、これで片付いたわ。」

「あいつはどうする?」

「また後ろから付いて来るわ。」


ガルドが、頷いた。短かった。

こういう時、ガルドは議論をしない。

私が決めた道に、ただ付き合う。


——背中を、預けている、ということだった。


***


分岐があった。


左は、さらに奥へ。

右は——わずかに、上向きに傾斜していた。


風が、来た。

火山の硫黄でも、機械の冷たさでも、なかった。

土と、木と、わずかに街の煙の匂い。


(——地上)


「こっちだ」


ガルドが、先に踏み込んだ。


通路の天井が、徐々に低くなる。

人工の光もまばらになり、最後の方は、

岩肌の隙間から漏れる、外の薄明かりだけになった。


通路の終わり。外からは——

たぶん、苔と岩肌に紛れて、見えない。


ガルドが、押し開いた。

森の縁の、苔の匂いが、流れ込んできた。

赤い夕日が、傾いていた。


街道は、見えなかった。

だが、煙突の煙の筋が、薄く東に見えていた。


鍛冶郷アンボスの煙。


息を、吐いた。


「——戻ってきたわね」

「ぎりぎりだ」


ガルドが、片膝をついた。

広い背中が、また、夕日の中に置かれた。


「掴まってろ」

「……もう慣れたわ」


両腕を、回した。ガルドが立ち上がる。

地面が、遠くなった。走り出した。


火山地帯から抜けたばかりのガルドの足は、それでも、まだ力強かった。息は、少し上がっている。それでも、止めなかった。


ただ、運ばれていた。


(——便利な男ね)


ただ、楽だから。ではない。

便利という言葉は目的と成果が結びついた状態をいうらしい。


(私はあの子を便利に使いすぎたのかもしれないわね)


***


医務室の扉を、開けた。


部屋の中の空気の重さが、最初に肌に刺さった。

夕日の赤が、まだ半分残っていた。


ラピスが、青い石を両手で握ったまま、振り返った。


「アナ様」


ジークが、ナーガの手を握り続けていた。

ナーガの唇は、まだ白かった。胸が上下している。 ただし、その動きは薄かった。


影の鞘を、解いた。

紅い、揺れる赤の葉が、ガラス越しに空気に触れる。

熱が、ふっと流れた。


「炎息草よ」


ラピスの手が、紅い葉を受け取った。


「煎じて、飲ませて」

「冷えを、追い出す方向で」


ラピスの目が、わずかに揺れた。


「内側の冷え」という言葉を、誰から、いつ、聞いたのか。私は、知らない。

だが、ラピスの目は、もう、知っている目だった。


「分かりました」


医者が、すぐに湯を用意した。

紅い葉が、湯の中でほどけた。

湯気が、立ち上がる。


ナーガの唇に、湯気の、薄い紅が含まされた。


——一拍。


ナーガの胸が、上下した。


一度。


二度。


三度。


四度。


「……戻りました」


ラピスが、息を吐いた。


「呼吸が、戻りました」


ジークが、ナーガの手を握ったまま、目を閉じた。

肩が、ひとつだけ、大きく動いた。


完全な回復では、なかった。

ナーガは、まだ目を開けない。

だが、白い息は——もう、止まらなかった。


ラピスが、青い石を握り直した。

その指先が、わずかに震えていた。

震えを、誰にも見せたくないのだろう。


私は、見ないことにした。


「……ありがとうございます、アナ様」


ラピスが、頭を下げた。


「あんたのためにやったわけじゃないわよ」


「分かっています」


ラピスの口の端が、ほんの少しだけ、上がった。


「分かっていますよ、アナ様」


何も、言わなかった。


ジークの、ナーガを握る手の上に、

夕日の最後の赤が落ちていた。


ちょっと書き出したら15000文字を優に超えてしまい、

切りどころを探しつつ、削りつつで更新が滞ってしまいました!申し訳ありません!


今日から3日連続で更新していきます。

そろそろ鍛冶の里から次の目的地に向かうため、スピードアップしていきます!

さて、無事全ての材料が揃いましたが、

ナーガを助けることでいっぱいで、

何かを頼まれたことを忘れています。


どんな武器が出来上がるのでしょうか。

次回更新は5/20(水)夜です。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ