表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〜無能で最弱の元プリンセスが、地獄の果てまで飲み込む復讐界隈の話〜 ミセス アナコンダ  作者: 大背戸智
第五章「魔導皇都アルカナス編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/67

第36話:偽りの名と本当の実力

伸びしろの分だけ伸びるとは限らない




「冒険者とは、国に縛られない自由労働者だ。

 依頼を受け、報酬を得る。所属する国はない。

 冒険者ギルドに登録すれば、ギルドカードをもらえる。

 

 ギルドから発行されるカードは大陸全土で通用する唯一の身分証明であり、

 それさえあれば国籍を問わず宿に泊まれ、

 情報網にアクセスでき、どこの国でも「冒険者」として通る。

 個人ランクはG〜Sの九段階。

 グループで登録すれば、パーティ単位での依頼も受けられる。」


——その説明を聞きながら、ナーガはガルドを見た。


「へー、冒険者ってすごいんだね」

「冒険者、憧れます。」


ジークが冒険者という言葉に興奮を隠せなかった


「ジーク。お前もこれから冒険者だぞ」


私はその言葉びっくりした


「まさか。今から私たち冒険者になるの!?」

「そうだ。嫌か?」

「嫌も何も、なんで急にギルドに登録するの」

「便利だからだ」


嘘だ。

この男が「便利」だけで動いたことは一度もない。

ただ、次の一言は魅力的だった。


「それに、国を超える時の通行税が安くなる」

「どれくらい?」

「10分の1だ」

「何してるの? みんな行くわよ」


帝国を出る時にくすねた金も、そろそろ底が見え始めていた。

まして、ラピスは国から一銭も持ってきていない。

再建資金も大事だが、ちょっとは持ってきてもらいたいもんだ。


「どっかの誰かが勝手についてきたせいで食費が跳ね上がったから、もうお金もつきそうだしね」

「そうだ。だから節約した10分の9で素敵なテントが買える。

 誰かが自分で金を稼げって言ったからな」

「おぉ〜」


私以外の面々がガルドを尊敬の眼差しで見つめている


「当たり前でしょ。あなたの発案じゃない」


(四人分の通行税だけでもバカ高い。これは登録して節約すべきね)


歩きながら、ガルドが説明を続けた。


「ギルドってのは色々ある。

 クロッサードにあったのは海賊ギルド《黒潮》。

 他にも魔法ギルド、回復者ギルド、鍛治ギルド、料理ギルド——」

「料理ギルド……」


(気になる)


「その中でも、冒険者ギルドは一番数が多い。支部はどの国にもある」

「本部は?」

「大体のギルドの本部は——帝都にある」


私の顔が歪んだ。自分でも分かった。


「だが支部は別だ。ここは諸国連合のひとつ。

 クロッサードとアルカナスとグラディウスに囲まれた小国で、帝国の目は届きにくい」

「なんで私たち、今まで持ってなかったの?」


ナーガが素朴に聞いた。


全員が黙った。

私とラピスは皇族だ。庶民のギルドなど、視界にも入らなかった。

ジークは私のお世話に全振りの人生。世間知らずは私と同罪。

ナーガはスラム育ち。登録する金すらなかった。


「だから俺がいるんだろ」

ガルドが、前を向いたまま言った。


「旅をするなら、必需品だ。」



***



宿場町の外れで、ガルドが足を止めた。


「ついたぞ」

「ここ?」

「ここだ」

「……もう少しマシな場所を想像してたわ」

「マシなギルドがお望みなら帝都に行くか?」

「行きたくないわ」

「だからここだ」


ガルドが扉を押し開けた。

木造二階建て。看板が傾いている。

掲げられた紋章には、交差した剣と盾。

冒険者ギルド。


カウンターに受付の女性。奥に——人の気配。

ガルドが何かを取り出し、カウンターに手をついた。


「登録したい。五人だ」


受付が端末を叩き——手が止まった。


「ガ、ガルド様? 元Aランク——」

「失効してる。こいつらと一緒に再登録しろ」

「ですが、Aランクの方でしたら個別に——」

「いらねえ。同じ扱いでいい」


奥から、ドタバタとした足音。


***


「その声——まさか」


男が現れた。三十代。短い黒髪。鍛え上げられた体格。鋭い目。

ギルド長だった。

そのギルド長が——ガルドを見た瞬間、背筋を正した。


「ガルドさん! お久しぶりです!」


深く、頭を下げた。


「おう。ハンス元気そうだな」

「おかげさまで。この支部を任されまして」

「出世したな」

「ガルドさんに鍛えていただいたおかげです」


四人の目が、一斉にガルドに集まった。


「……ガルドさん、何者なの」


ナーガの声が震えている。驚きで。


「傭兵時代の後輩だ。それだけだ」


それだけ、で片付けるには、ギルド長の腰が低すぎた。


(この男を選んで来たってことね)


「査定は俺が直接やります」


ギルド長の目が、一瞬だけ光った。


「固有スキル《魔視》で戦闘適性を見させてください。実技も行います」


***


最初——ジーク。

ギルド長が木剣を構えた。ジークも構える。

三合。


全ていなされた。

ジークの剣は、一度もギルド長に触れない。

さすがはガルドの元部下だ


「筋はいい」


ギルド長が木剣を下ろした。


「型は整っている。だが——まだ鞘に入ったままだ。剣に迷いがある」


ジークが唇を噛んだ。


「それが解けた時、化ける。Eランク」


***


次——ラピス。

索敵陣。拘束陣。攻撃魔法。三つを立て続けに見せた。

ギルド長が《魔視》で見つめる。


「威力は正直、並以下だ」


ラピスが少し落ち込みかける。


「だが——術の数と精度がおかしい。この年で五系統以上を同時展開できるのか。独学?」

「本を読んだだけだよ」


ギルド長が三秒ほど黙った。


「Eランク。ただし伸び方次第では半年でCまで上がる」


***


ナーガ。

体術——からきし。

木剣を握った瞬間、ギルド長が手を上げた。


「……そっちの才能はない。やめよう」

「え、もう終わり?」

「だが」


ギルド長がナーガの両手を見た。《魔視》の目で。


「回復術師の素質がある。

 今は不安定だが、これが安定すれば——どこのギルドでも引く手数多だ。Fランク」


ナーガが苦笑いした。

底から二番目。でも——可能性は見えた。


***


そして——私の番。


「スキルの申告を」

「食べること」


受付が筆を止めた。ギルド長が眉を上げた。


「……もう一度」

「食べることよ。敵の魔力を食べて、自分のものにする」


受付がスキル欄に「食べること」と書いた。


ガルドが爆発した。


「あははははは!! スキル欄に『食べること』!!」

「黙りなさい」

「世界一物騒な食いしん坊だろ!!」

「次に笑ったら毒を盛るわ」


ギルド長が咳払いをした。


「では、実技を」


私は立とうとすると、ガルドがチラリとこちらを見た


(影の蛇を——)


「姫様」


ジークの声。低く、鋭い。

「影の使用はお控えください。あのスキルは100か0です。

 万が一ギルド長を殺してしまえば、お尋ね者の罪状がもう一つ増えます」


(……正論ね)


衝撃波で行くしかない。

ギルド長が構えた。

私は右手を上げた。指先に振動を溜める。


——放った。


ギルド長が横に動いた。外れた。

もう一発。また動かれた。


(動きながらだと——当たらない)


ギルド長が間合いを詰めてくる。速い。

後ろに飛んだ。溜める。撃つ。

遅い。溜めている間に距離を詰められる。

三発目を放つ前に——ギルド長の掌が、私の額の前で止まった。


「以上だ。」


手も足も出なかった。

一発も当たらなかった。

胃の底が、冷たく締まる。飢餓感ですらない。

空腹の自覚すらできないほどの、圧倒的な差。


「君はGランクからスタートだ。」


最低。


「……そう」

「ただ、その能力を使いきれてない。

 ガルドさんなら君の能力を伸ばしてくれるだろう。ですよね?」

「当たり前だろ!ま、ハンスにしては上出来だ」


戻ってきた私をみんな慰めてくれた。が。

「ま、今の嬢ちゃんはそんなもんだろ!伸び代しかないっていいことじゃねーか」


(褒めてるのか、貶してるのかどっちなのよ)


でも、それぐらいがちょうどよかった


***


ガルドの査定は形式的だった。


ギルド長が「本来はAですが、失効を考慮して」と言い、

Cランクのカードを差し出す。

五枚のカードが揃った。

私は自分のカードを見た。


G。


最低。


(……分かってたわよ。分かってた——けど)


悔しい。

食べた力を使えない。使える力は当たらない。


私は——弱い。


「ねえ、アナ」


ナーガが、私のカードを覗き込んだ。


「名前が違うよ」


「……え?」


見た。

カードに刻まれた名前は——アナスタシアではなかった。

全員のカードを確認した。全部、偽名。

ガルドを見た。

ガルドは何食わぬ顔で、自分のカードをポケットにしまっていた。


「……最初から、これが目的だったのね」

「何がだ」

「ギルドカードで身分を偽る。帝国のお尋ね者が、別の名前で動けるように」


ガルドは答えなかった。

ハンスが口を開いた。


「ガルドさんだから特別ですからね。通常、偽名での登録。それに4人分など——」

「おい」


ガルドがハンスの肩を叩いた。


「昔、酒場で三日分の飲み代を奢ったの、忘れたか?」

「……忘れてません」

「なら黙ってろ」

「それじゃあ、釣り合いが…」


と言いかけたが、ハンスは苦笑いしながら深くため息をついた。

私はカードを握った。

偽物の名前。でも——本物の盾。

帝国の手が届かない場所で動ける、もう一つの顔。

この男は、いつもそうだ。

言葉にしない。説明しない。ただ先回りして、道を作っておく。


テントの時もそうだった。

ギルドカードもそうだった。

全部——言わない。


(……父親みたいな男ね。本当に)


腹の底が、じわりと温かくなった。

食べ物の熱じゃない。もっと深い。もっとゆっくりと染み込む、何か。

今度は——飲み込まなかった。

そのまま、温かいまま、胃の底に置いておいた。


***


帰り際。ギルドの掲示板に赤い紙が貼ってあった。


『警告:南東街道モンスター凶暴化』

「凶暴化してんのか」

「最近増えてるんですよ」


ハンスが頭をかきながら、ガルドに説明している。


「アルカナス方面から避難民も来ています。ここ数日で十人ほど」

「何があった」

「皆、同じことを言うんです」


ハンスが、声を落とした。

「『街が、おかしくなっている』と」


冒険者ギルド、登録完了。

通行税が1/10になるメリットは素敵ですが、

よくこの街にまでお金が続きましたね。さすが皇族。


ジークE、ラピスE、ナーガF、ガルドC。そしてアナ——G。

最低ランク。スキル欄には「食べること」。

どこかで、料理ギルドにも登録させたいですね。

実技では手も足も出ませんでした。

影の蛇を封じられると、衝撃波は動く相手に当たらない。

バロッサの衝撃波を食べた女が、ギルド最低ランク。

これが今のアナの現在地です。


でも——カードに刻まれた名前は、アナスタシアではありませんでした。

ガルドが最初から仕込んでいた、もう一つの武器。ランクより大事なもの。


アルカナスから避難民が来ています。

「街がおかしくなっている」。

次回、アルカナスへ。


感想・評価・ブックマーク、全部次の話の燃料になりますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ