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7月18日 1ヶ月 その3

「――と言うわけで、ボクは、ボクが生んだ子供を探してるの。どこにいるのか知らないかな?」

「お菓子を差し上げるから、教えていただけないでしょうか?」

「……無駄よ。その子は動かないから」

 必死でお願いしている私たちに、やっと事態が飲み込めた様子の聖良さんが声をかけます。

「……せーらさんは、れーちゃんさんをご存知なのですか?」

 現ちゃんから頼まれ、この事は聖良さんには秘密にしていたのです。

 言ったらきっと反対されるから……と。

 何故反対されるのか、何故現ちゃんがそう認識していたのかは分かりません。

 深く考えないままその言葉に従っていましたが、どうやら聖良さんも何か事情をご存知のようです。

「彼女は……その、いいの」

「いいの?」

 どこか奥歯に物が挟まったような口調で、聖良さんは説明してくれました。

「その、彼女はある事故で言葉を失っているの。でも、以前この『産屋』のために協力してくれたことがあって、だから今も自由に動いていいって、所長から許可が出ているの」

「え、言葉を……そ、それは申し訳ありません! 無理にお願いなんかしてしまって」

 私はれーちゃん、いえれーさんに深々とお辞儀をします。

 てっきりお菓子が口の中にいっぱいでしゃべれないのだと思っていました。

 それにしても、こんな小さな女の子が、一体どのような目にあったというのでしょう。

「今までも、極力他の人との付き合いを避けていたみたいだし…… それでも確かに勝手に色々動きまわっているせいか、この産屋内には精通しているみたいね」

「そ、そうなんですか……」

 聞けば聞くほど数奇な立場に茫然とれーさんを眺める私ですが、現ちゃんはそうはいかなかったようです。

「勝手に動いているって……協力してくれたことがあるんなら、もうちょっと積極的にお世話してあげてもいいんじゃない?」

「それは、彼女は今、リハビリ中だから……」

「ふーん……」

 聖良さんが説明しようとしますが、現さんはじとりと湿気を含んだ視線で彼女をを一瞥します。

 そして、ふっと力を抜きました。

「ま、それはそれとして! ボクの子供がいる場所だけでも教えてくれないかなー!」

「それはそれとしてしまうんですか……?」

「今はそれより目の前の目的のが大事!」

 そのまま、れーさんに詰め寄ります。

 両手をれーさんの肩に置きぶんぶんと頭を揺らします。

「あわわ、そんなに頭を振ってはいけないと習ったような気がしますよ現さん……」

 ぱしっ。

「あっ」

「わっ」

 止めに入ろうとした私の手と共に、れーさんは現ちゃんの手を払い落としました。

 そして無表情のまま、私の方を向きます。

 可愛らしい顔に不似合いの感情の見えない表情がどこか凄みを増したような気がします。

「え、あの……?」

 びしり。

 人差し指が、私に向けられました。

 私の、下腹部。

「や」

 ぶちゅ。

 以前、れーさんが指で木の実を押しつぶした映像が脳裏をかすめます。

 紫色の血液が、その指に染みついているような錯覚を覚えました。

 その指が、私のお腹に……

 ぐり。

「あ痛……」

 ぐりぐりぐり。

 指がお腹に押し当てられます。

 おへその少し下、ちょうど先日、受精卵を注射された場所と同じ部分。

「じ、地味に痛いですよう……」

 それでも痛みは大したことありません。

 それよりも、その指がいつかぶちゅりと何かを潰してしまうのではないかというのが怖くて――

「や……あっ」

 私は両手で思いきりれーさんを振り払ってしまいました。

「……」

 れーさんは思ったよりもあっさり私から離れてくれて。

 そして、そのまま。

「あ……っ」

 後ろも振り向かず、一目散に走り去って行ってしまいました。

「あ……」

「あー、行っちゃったー」

 お腹を押さえる私の背後から、現ちゃんの残念そうな声が響きました。


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