6月27日 ――0日その4
「私の、お菓子……」
やっとのことで言葉を絞り出すと、その子はじろりと私の方を見ました。
その表情、そして顔立ちはどこか幼いもので。
綺麗に切り揃えられた前髪と、同じく肩よりやや上で切りそろえられた髪形、そしてよくよく見てみれば腕にしっかりと何か小さな布の塊……お人形みたいなものを抱いていて、まるで小さな子供のように見えました。
そう、この施設で生まれた子供がほんの少し成長したら、こんな感じになるのではないか――そんな様子の外見。
ですが、この方も入院着を身に着けているということは、やはり受胎予定者さん、あるいは受胎者さんなのでしょうか。
それを裏付けるように、その子から特徴的な香りが漂ってきます。
それは凪さんや現さんから感じるものと似た甘さと……そしてもう少し何か違う、嗅いだことのない苦みのようなものがありました。
「あの、えーと……」
なんと、声をかけたらいいのでしょう。
そうこうしているうちに、私のお菓子がどんどん減少していきます。
「それ、私のお菓子、なのですが……」
もっしゃもっしゃもっしゃ。
ああやはり聞いてくれません。
女の子は気にも留めず、お菓子を減らしていきます。
床の上にお菓子のかけらがちらばっていきます。
「あのー」
「……!」
ふいに、女の子が顔を顰めました。
そして口の中から取り出したのは、丸い紫色の木の実。
それを、廊下の床上に起きました。
次いで、お菓子の上に乗っている丸い紫の実も。
2個、3個と並べるとその上に指を乗せ……
ぶちゅ。
「ふあ……!?」
突然、それを押しつぶしました。
ぶちゅ、ぶちゅ、ぶちゅ。
まるで憎しみでも籠めるかのように、木の実を押しつぶすこと、3個。
地面に紫色の血痕……汁の跡が広がります。
「あの……勿体ないですよ?」
ごくごく平凡な感想しか出せない我が身を呪いながら声をかけますと、女の子は再びじろりと私に視線を向けました。
その時です。
「あー! いたー、むーちゃーーん!」
まさに、天の声。
私を探す、現さんの声が聞こえてきました。
「現さん……聖良さんも!」
私の姿が無いことに気付いた二人が、引き返して探しに来てくださったのです。
「すみません、はぐれてしまって。今行きます……あら」
そう声をかけて女の子のいた場所を見ると、そこにはもう誰もいませんでした。
「あら、ら……」
「よかったー、むーちゃん無事?」
「気づくのが遅くなってごめんなさい。でも、ちゃんと着いてこなくちゃ駄目よ」
「ごめんなさい…… ところで、その……」
「どうしたの?」
「いえ……なんでもありません」
ここに、小さな女の子がいましたよね?
そう聞こうとしたのですが、これ以上私のことで探索の手を煩わせるのは申し訳ないと、その言葉を飲み込みました。
しかし、それにちゃんと気づいている人がいました。
くいくいと、私の袖を引っ張る気配がします。
「現さん……どうしました?」
「むーちゃん、今そこに、れーちゃんがいなかった?」
「れーちゃん……? 小さな女の子のことですか? 紫色の服の」
「そうそう! いたんじゃん!」
現さんは周囲の様子を見入る聖良さんに気付かれない程の小さな声で私に囁きます。
つられて、私の声も小さくなります。
「れーちゃん……と、おっしゃるのですか。あの子は」
「そうそう、その子のことで、ちょっと内緒話があるんだけど……」
「え、ええ……?」
現さんが私に身を寄せると、ひそりとある提案を耳打ちをしました。
「えー?」
「聖良さんには内緒にしてね!」
「え、な、内緒?」
「……何が私には内緒なの?」
「わっ」
「わあ」
いつの間にか近くにいた聖良さんが私の台詞をリピートしました。
よりにもよって一番聞かれてはいけなさそうな、最後の一言を聞かれてしまったようです。
「あの、それは……」
「ふっふっふ、聞かれてしまったからにはしょうがない……これを見よ!」
口籠る私の前に、現さんが仁王立ちしました。
その手には、つい先程までれーちゃん、と呼ばれた子が食べていた私の焼き小麦。
「お・か・し~!」
現さんはそれを掲げると宣言しました。
「そろそろ、おやつの時間にしようじゃありませんか!」




