表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/142

第4話 肺腑の死人①

恵寺原慎瑞様、潮離様

拝啓

まずはこちらの近況報告。計画はそこそこうまくいっている。この間エレツの州三つの間で結ばれている同盟に参加することに成功した。

母さんにはこのことを「友達がたくさんできた」と伝えておいてくれ。本当のことだ。

オスカーとパティの発明で料理や手紙を転送してきたが、つい最近ノラが魔法の腕を上げた。それによってもしかすると近々生命体もエレツから波斗原の間を行き来させられるかもしれない。このことは封雷に伝えてくれ。

ただしくれぐれも慎重に、あのしずれとかいう妃はちょっとオスカーとパティのこととなると抑えが利かないところがあるから。まあ、それは僕よりもお前たちの方が分かっていることだろう。

キレネは、そろそろお前たちも察する頃になるだろうが、これまで通り届く料理全てに「おいしい」という評価を下している。これはお世辞とか気を使ってるとかではなく本心によるものだ。それは食べっぷりと彼女の人となりを知ればわかる。いつか実際に会ってみてほしい。

ただ、しいて言うならこの間のぶりの照り焼き、あれはいつもより「おいしい」の後に続く感嘆符の数が多かった気がする。あれは良かったんではないだろうか。実際僕もあの旨さには驚いた。

最後に、前回の手紙で助言を頼まれていた立ち退き拒否のおとろしについてだが、おとろしは鳥居をくぐった者の頭上からものすごい重量の物体が突如として降ってくるという怪異現象が具現化した存在。つまり、おとろしは鳥居のある場所にしか存在できないし、鳥居がなくなれば存在そのものだって自然消滅してしまう。

だが、お前たちはその上でそのおとろしを助けてやりたいんじゃないだろうか。

では助言だ。まず考えるべきはおとろしが立ち退かなければならないことになっている原因、つまりはその神社を取り壊すということの方だ。

その鳥居に価値を、群衆が価値と認める何かを、与えればいい。例えば新たな観光名所にしてしまうとか、他に理由を付けて新たに祀るとか。あるいは単に鳥居を慎重に別の場所に移すか。慎瑞の鬼の力と陰陽道の技があれば何とかなるだろう。

まあ、現場を見ていない僕の言葉をどこまであてにするかというところだろうが、発想の一つとして心に置いておくといい。僕ならそんなややこしい話に首を突っ込んだりはしないだろう。だがお前たちはその物の怪を助けようとした。正しいのはお前たちだ。

それではくれぐれも健闘を祈る。波斗原の問題を解決できるのは今やお前たちだけなんだからな。

敬具


ここまで書いて僕は筆をおく。


「一応、伝えるべきことは一通り書き切ったよな…」


ここ数日、具体的には獣人帝国のあの一件以来、ノラとうまくいってないということは「伝えるべきこと」というのではないだろう。少なくとも今のところは。

この期間がもっと長くなり、溝がもっと深くなるとさすがに誰かに助けを求めなければならないが。

しかし一体誰に?快活で仲を取り持つのがうまい潮離、常識人でうまく仲裁してくれそうな慎瑞、これまで数えきれないほどの人間関係を見てきたであろう母さん。

頼れる存在はたくさんあるが、しかしそのいずれもが容易に頼りたくないし、できれば弱みを見せたくない相手だ。


「まあ…杞憂だろう」


いずれにせよ今回の手紙で書かないというのはもう決めてしまったことなので、封筒に便箋を入れて封をする。


「よし。オスカーとパティのところへいくか」


もちろんこの手紙をあの転送装置、「ピジョンボックス」で波斗原まで送ってもらうためだ。

ノラの編み出した新しい「術式」とやらを利用すればあの装置がなくても転送魔法は使用できるんだろうが、波斗原への転送は未だに亡国の翼を使っている。

これは単にノラがやりたがらないだけではなく、今まで装置をポストのように利用していたのもあり、ふたを開けるまで劣化しないという利点があるためだと僕は思っている。

パティの研究室にはパティと、いつものことながらオスカーが一緒にいた。


「やあ二人とも。波斗原への手紙を書いたんだけど、ピジョンボックスを使わせてもらっていいか?」

「…えっと、あの、かの箱は厨房にありま…厨房に設置している。なにかエラーが発生したのだろうか」

「え?あ…」


うっかりしていた。ピジョンボックスはパティの発明品だが、使用されるのは厨房。それゆえ厨房に設置されている。そんなこと少し考えれば思い出せたはずだったのに、すっかり忘れていた。

これまで僕が、どれほど波斗原に手紙を送るのを他人任せにしていたのか思い知らされる。


「言われてみればそうだったな。悪い。お邪魔しました」

「いや。待たれよ!」


そそくさとその場を去ろうとする僕を制止し、パティは言った。


「見てほしい新兵器があるのだ」

「新兵器?」

「ククッ。そう。兄者の魔力の利用法。その最適解」


パティの言うオスカーの魔力、というのは糸状の魔力のことだ。オスカーは特異体質で魔力が霧状ではなく糸状になって放出される。


「まずはこれ…」


言ってパティはテーブルの上に並んだ発明品の中から一つを取り出す。それは少し大きめの銃のようで、色は黒だった。

パティは右手でグリップを握り、左手で銃身を支えるようにして持ち僕に見せる。


「これはナイトライナー:タイプクロスボウ。このカプセルに…」


言ってパティは片足立ちになり、左手の代わりに膝でナイトライナーを支える。

ゆらゆらするパティをオスカーが両肩に手を添えて支え、その間にパティは白衣のポケットから緑色に薄く輝くカプセルを取り出した。


「兄者の魔力が充填されている。これをここにセットして…」


パティが側面にある突起を押し込むと、五つ穴の開いた背の低い筒が側面から飛び出した。

パティは持っていたカプセルと、さらにポケットから次々と四つカプセルを取り出してそれぞれ穴にはめていく。その様子を見る限りではクロスボウというよりはリボルバーといった感じだ。


「引き金を引けば糸、否、糸を縒り合わせた縄が射出される」


そこまで説明しておきながらパティは引き金を自分では引かず、オスカーにナイトライナーを手渡す。


「そしてこれまで同様、この引き金は適合者にしか引くことができない」

「今のところ完全に適合したのは俺だけだ」


適合、というのは資格とか資質とかではなく、技術の問題。パティの発明するものは大体がその使い方に技術を要するもので、みんなが使えるものというのはかなり少なかったりするのだ。


「そうか。じゃあオスカー、試しに使ってみてくれるか?」

「御意」


オスカーはナイトライナーを構え、ドアに狙いをつけると同時に引き金に先んじてグリップの底のスイッチを押す。するとナイトライナーの側面に小さなレバーが三本飛び出してきた。

オスカーが右手で引き金を引くと銃口からはドアめがけて緑色に発光する魔力の糸がまっすぐ伸びる。

その裏で彼は左手の人差し指から薬指を使って三本のレバーを目まぐるしく操作していた。


「そのレバーは何を制御してるんだ?」

「ククッ。それは私が説明しよう」


パティがオスカーの操作しているレバーを手前から順に指さしながら話し始めた。


「手前から一本目はカプセルからの魔力の放出量、二本目は回転、すなわち糸を縒り合わせる速度、三本目は内部の空気圧を調整しています」

「なるほど…」


やっぱり常人、少なくとも僕には扱えそうにない。引き金を引くだけで自動で糸が出るようになったら使わせてもらうとしよう。


「フッ。どうだ?糸は強固、狙いは正確。申し分ないとは思わないか?」


オスカーはドアと糸でつながったナイトライナーをわきに抱え、こちらを振り返る。


「ああそうだな。簡単には引きちぎれない強度になってるようだし、色々使えそうだな」

「フッ。ああ。だがしかし、これで終わりではないぞ」


言ってオスカーは右手を顔の前にかざすいつものポーズを取るが、即座にいつもと違うことに気が付く。


「その手に付けてるのは何だ?それも発明なのか?」

「フッ。当然だ。さすがはアーサーさん。何もかもお見通し」


今の俺の呼び方は普通にアーサーさんのようだ。「まさか。知ってるだけで何も見えていないよ」は今回は省略する。


「これはナイトライナー:タイプガントレット。俺の指先から放出される魔力をこのガントレットが掌に誘導し、そこで縒り合わせる。そして好きなタイミングで射出することができる」

「射出の勢いは手を開く速度で調整が可能だ」


何でこれもまた、そんなオスカーしか使えないような仕様にしたのだろう。いや、これに関しては装着者がオスカーじゃないと機能しないから問題ないのか。


「どうだろうか?」


パティは両手を腰に当てて誇らしげに問いかける。


「うん。よくできてると思う。確かに最初に言ってた通り、オスカーの魔力の模範解答的な使い方だな」


ぱあっとパティの表情が明るくなる。そしていつものことながらその傍らで、オスカーは不敵に得意げな笑みを浮かべる。


「ただ、このクロスボウタイプはカプセルの数を五個以上にしてもいいんじゃないのか?」

「それは、もちろん考慮していま…いるのだ。しかし、今の技術では五本までが限界で…六本以上になると詰まりのリスクが…」


すすすとパティの肩が落ちていった。良かれと思ったのが、いらん発言だったようだ。


「すまない。余計なアドバイスだったな。ごめん…。でもこの発明自体は本当にすごいものだから、それは誇るべきだよ」

「はい…」


慌てて繕うが、パティの肩が元の高さまで戻ることはなかった。

しずれにこのことが知れたら間違いなく殺されてるな。いや、もしかするとそれよりひどい目に合うかもしれない。


「そうだ、波斗原に手紙を出すんだった。それじゃあ僕はもう行くよ。パティ、ありがとう。これからの作戦の幅が広がりそうだ」


思い出した用事を盾に、僕は逃げるようにその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ