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第3話 狡猾の獣人⑯

次の日、僕はこれまで通りに双子と一緒に農作業の手伝いをしたのだが、手の動きと頭の回転は完全に別なものとなっていた。

流石は僕というべきか、既にやったことのある農作業は考えずとも手だけで対処し、頭の方では作戦についてあれこれ思考を巡らせていた。


(生徒たちは一網打尽にしたいから、全員を一挙に宮殿まで連れていきたい)


亜空間からの転送魔法ならそれは実現できるだろうが、リードに転送魔法を使わせるのは技術面で不可能と分かっている。


(だとしたらパティに頼んで何か引き金のようなものを作って貰うか。それならリードに技術がなくても問題ない)


その場合パティがそんな道具を作ることができるかどうかが問題になってくる。


(いや、待てよ。よく考えたら『そんな道具』は必要ない。本当に自由に取り出せるようにしてしまうとクーデターが成功する恐れがある)


であればパティには持ち運び亜空間を作って貰うとしよう。

生徒たちの捕縛はその作戦でいくとして、次に決めないといけないのは作戦を決行する日取りだ。


(これは来週でいいだろう。僕が王様に呼ばれるときに)


その時リードが偶然にも同じ時間帯に王様の部屋に押し掛ける。そして偶然居合わせた僕を無視してクーデターを行うべく作動しない魔道具を使う。


(事前に王様にクーデターの存在をほのめかしておけばすんなり逮捕…されるのか?)


ここで僕は素朴にして大きな問題を認識する。


(リードって王子だろ。そして獣人帝国の王様は世襲制。だとするとリードがクーデターを企てても王様は処罰したがらないんじゃないか?)


リードは王様に、困ったら帰ってきてもいいと言っていた。つまりリードが州民と同じ場所で生きているのは教育の一環。決して息子を突き放すためではないと考えられる。

つまり、リードは何かをしても特権的に守られるか、あるいは事件そのものをなかったことにされるかもしれない。

王様の部屋には僕と王様とリード。そこでリードがクーデター宣言。王様はその事実を揉み消したい。


(一番危ないの僕じゃないか!)


計画がひっくり返った。これじゃあ駄目だ。しかしだからといって僕がいないときにさせるのは避けたい。この成功しそうで失敗する作戦というのは非常に微妙なバランスで成り立っている。ここぞというところは僕が自ら手綱を引きたい。


(落ち着け。だったら着地点を変えればいい)


つまり、リードのクーデターを未遂に終わらせればいい。リードがクーデターを企てているという事実に王様が気付き、そして王様が気付いているという事実にリードが気付けば、リードはクーデターの実行を最低でも躊躇、うまくいけば言論による闘争へと展開を変えてくれるかもしれない。

リードは今まで確実性がないという理由で何も具体的な行動は起こさなかった。つまり彼はかなりの慎重派。望みはかなりあると考えられる。


(では、作戦はこうだ)


6日後、僕は宮殿に呼ばれる。僕が宮殿に到着して王様としばらく話す。

その5分後、リードが突如として宮殿を訪れ、王様の部屋へと踏み込む。

以降リードには多少のアドリブなどを交えてもらい、最終的にはパティに作ってもらった、リードには使えない魔道具を取り出して盛大に空振りをしてもらう。

そして最後に僕が全てを明かす。リードがクーデターを起こすと知っていてこの失敗する方法を教えた。クーデターは未遂に終わったので今回は大目に見てやってはどうか、と。


「よし」


呟いて僕は立ち上がる。無意識に腰に手をやり、のけ反ってしまう。


「ぐ…。ふぅ…。作戦はこれで問題ないな。残る問題は…」


王様には恩を売れるが、リードをはじめとする生徒たちには確実に恨まれるということだ。

そしてもう一つ。計画通りにいくようにうまくリードを誘導すること。ノラの仲間ということでそこそこ従順に話を聞いてくれるだろうが、あまりに失敗するという結末が見え透いているといけない。

腕の見せ所だが、うまくやって見せる。

決戦は今夜、否、本当の決戦は6日後だから前哨戦というべきなのかもしれないが、ここで全てが決まるという意味では決戦に他ならない。

緊張を噛みしめながら夜を待とう。それまでの時間は、


「農作業だ」


僕は再びしゃがみ込み、農作業を再開する。

ちなみに僕は今、双子が耕して作った畝に指で穴を穿ち、何らかの植物の種をそこに落として優しく土を被せるという作業を行っている。一つ一つの作業に消費される体力はゼロに等しいが、いかんせん体勢そのものが辛い。腰に宿った火種が業火にまで登り詰めるのに、そう時間は掛からない。

立ち上がったりしゃがみ込んだりを繰り返しているうちに仕事は終わった。ふと空を見上げると太陽は丁度てっぺんに昇った頃だった。


「おーいアーサー!」「昼飯だってよー!」


その時、遠くから双子が僕を呼ぶ声が聞こえた。

その数秒後、風と共に彼らは僕の目の前に現れる。


「分かった。すぐ行く」


その日の昼食はラクティヴの母作のサンドイッチだった。具は干し肉とレタスとトマト。素朴な味付けだったが、みずみずしい野菜が乾燥した口には嬉しかった。


「3人とも手伝ってくれてありがとうね。おかげでもうやってもらうことはなくなったわね。本当にありがとうね」

「もうやることなくなったのか?」「遠慮しなくていいんだぞ」

「いやいや。本当にね。あまり作業を早めすぎても駄目だからね。今できる作業はもう全部終わってしまったね」


確かにラクティヴの母の言う通り、農業は基本的に植物の成長に合わせた予定で進んでいくので、作業を前倒しにしたりするということが基本的にできない。だから忙しい時は急に忙しくなったりする。


「普段はどうしてるんですか?僕たちみたいに手伝ってくれる人がいるんですか?」


僕はふと浮かんだ疑問を言葉にする。

今回は間に合ったと言っていたが、それはおそらく超人的な腕力、双子の助力によるものだろう。双子がいなかった間に合っていなかったのだろうか。あるいは、間に合わせる方法があるのだとすれば、それは一体どんな方法だろうか。


「それはね。ご近所さんに手伝ってもらうのよね。ここらへんはみんなちょっとずつ違うものを育ててるからね。みんなが一気に忙しくなるってことはないのよね」

「なるほど、そんな工夫がされていたんですか」


かなり原始的というか愚直な解決策だ。何らかの負担を軽減する機械があるか、もしくはそういう時にのみ限って魔法の使用が許されるのかと思ったら。魔法の禁止はかなり徹底されているようだ。


「ということは、お前たちが活躍する場は本当にないみたいだな。今のところは」

「えー。そうなのかよ」「明日から何するかなー」


ここで僕はあることを思いついた。


「お前たち。やることがないなら今日一緒に学校に行かないか?」

「「やだ」」


即答だった。彼らの持つ反射神経の持てる力全てを使ってのものと思われる、即答だった。


「ちゃんと考えろよ。学校に面白いもんなんてねえだろ」「暇だからって何してもいいってわけじゃねえんだぞ」


そしてなぜか僕が怒られてるみたいになった。

この2人は学校という教育機関に何か怨みでもあるのだろうか。


「いや、別に授業は受けなくていいぞ。…。静かにはして欲しいところだけど」


僕が双子を学校へ連れて行きたい理由。それはノラの足止めのためだ。

ノラは日中眠くて仕方なく、隙あらば寝ようとする。双子にはそんなノラを見張ってもらい、起きそうになったらまだ寝てても大丈夫、とか言ってもらい、ノラを教室から出さないようにさせようというのが作戦だ。

ノラの魔術に関する知識をもってすれば僕の提案が失敗すると看破されるかもしれない。そのリスクを避けるために、リード達には夜中ではなく昼間に作戦の説明をするべきだと僕は考えた。


「「いやだ」」


しかしこれである。

双子はさらにもう1つずつサンドイッチを掴み、頬張り始める。

もたもたしていると2人の意志が「いやだ」に固定されかねないので、僕は早めに仕掛ける。


「そこにはノラもいるんだ。久しぶりに会えるかもしれないぞ」

「姉ちゃんが?」「学校に?」


咀嚼しながら双子は腑に落ちないと言った風に首を傾げる。


「ここずっと会ってなかったから、顔ぐらいは見たいんじゃないか?」


もっとも、机に突っ伏していて見えない可能性の方が高いが。


「それはそうだけどよ…」「学校はちょっとな…」


双子は尚も難色を示すが、態度が軟化しているのが見て取れた。


「お前たちが学校の何を嫌っているかは分からないが、お前たちが心配するようなことは起こらないはずだぞ」

「「何を根拠にそんなことを」」


何を嫌ってるかも分からないお前がよくそんなことを言えたものだな。そう双子の視線は物語っていた。2人のサンドイッチを食べる手が止まる。

また、どうでもいいが今のは双子が同時に言った言葉の字数、秒数共に最高記録だった。


「お前たちは学校に無断で侵入してもらう。つまり、教師や生徒など、学校に関係あるものとかかわる必要はないということだ」

「姉ちゃんに会うだけでいいのか?」「ていうか姉ちゃんに出てきてもらうのは駄目なのか?」

「ああ……それでもいいな」


思わぬ発想の転換だった。しかし冷静に考えてみれば寝ているノラを学校の外に連れ出すのは難しい。やはり双子に学校に潜入してもらうのがいいだろう。


「まあとにかく、学校には来てくれるな?」

「行くだけでいいならな」「行くだけだからな」


ようやく2人からの承諾を得、僕は胸を撫で下ろす。

昼食を済ませると僕たちはすぐに歩いて学校に向かった。ノラに転送してもらおうとガラス球をこすってはみたのだが、寝ているのか応答してもらえなかった。


「マスターではないか。それにシニステルとデキステルも」


学校に忍び込んだ僕はまっすぐ例の空き教室に向かい、その引き戸を開いた。

そこで待っていたのはオスカーとパティ、そしてノラ。彼女はやはり自分の両手を枕に机に突っ伏していた。


「まだノラの授業は始まってなかったか。…丁度いい。シニステル、デキステル。よく眠れるようにそばにいてやれ」


そばにいることにそのような効果があるかどうかは怪しいが、とりあえず双子にはそう命じておく。


「それとオスカー、パティ。今日の授業は中止だ。生徒達には作戦を説明したいからな」

「なるほど。心得た」

「ノラには言わないでおいてやってくれ。あいつが知ると怒るだろうから」

「うむ。把握しました」


中のことは4人に任せ、僕は教室の外に出て出入り口横の壁にもたれかかる。ここは角部屋なので少し先の廊下で待ち伏せするということができない。

僕にしてみればこれはかなりの苦痛を伴う重労働。だが僕は待つ。生徒たちよ来るがいい。

いつでもいいぞ。来い。さあ来い。さあ…。


「いや、本当に…早く来いよ」


生徒が来たのはそれからさらに20分ほど後のことだった。

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