第4話 俺の体を所有している奴に出会い、最悪の事実を知った件
第4話 俺の体を所有している奴に出会い、最悪の事実を知った件
俺とパトライトがオシト陛下の話を神妙な面持ちで聞いていた時、後ろの扉が大きな音を立てて開いた。俺とパトライトは思わず後ろを振り返る。そこには長身で銀色の甲冑とマントを身に着けた、色白で歯が白い、爽やかな男が立っていた。というか、その男は、俺だった。いや、厳密に言えばこの世界に来る前の俺の姿だった。
そもそも俺自身、一体どうしてこの世界に来ることになったのか、その意味が解ってない。現実とは異なる世界に転生したと仮定した場合、生まれ変わるわけだから、容姿が変わっているのはごく自然だ。元の体や意識が同じままで別の世界にやって来るのは転生とは言わないだろう。それは理解できる。だが、どうやら俺の場合は何かのイレギュラーなのか、俺の魂だけが以前生きていた現実とは異なる世界に飛んでいってしまい、今この顔に苦労がにじみ出ている元勇者のオッサンの体に入ってしまっているように感じられる。
だが、今俺の目の前にいるのは、俺。現実世界の俺の体、正真正銘グレイだ。
パトライトがやってきた俺の体の顔を見て、明らかに頬を赤らめ「うわ、素敵なお方」と言っている。くっそっ。一体どういうことだ、誰か説明してくれと言いたいが、自分の力でこの不可解な現象を解明するしかない。とりあえず、この世界には、俺の体と魂が別々にやってきている、ということだけは理解した。
ということは、今の俺の体に入っている魂は、素直に考えるなら、俺が入っている体の持ち主。つまり、元勇者の男、ということになる。
「オシト陛下、無事頼まれた任務を遂行してまいりました」
俺とパトライトに一瞥もくれず、俺の体の持ち主はオシトの前で膝を折った。
「うむ見事なり、ダイゴロウよ。そなたを新たなる勇者と認め、グレイと共に我が望み、大陸統一を果たしてくれ」
ダイゴロウ? そうか。やっぱり、こいつが元勇者だな。声も俺と同じ。だが中身は違う、俺じゃない。本当の俺はこのオッサンだ。ダイゴロウと呼ばれた元勇者は、後方にいる俺を一瞥した後、オシトに視線を向けた。一瞬だが、その眼差しには確かに侮蔑と棘を感じたぜ。俺には解る。現実世界で、俺に対してああいう眼を向ける奴に嫌というほど会って来たからな、畜生、畜生。
「この後ろの二人は、一体となたで」
ダイゴロウの奴、白々しくもオシトに尋ねやがった。お前の成れの果てだろうが。
「その者の名前はグレイ。かつて世界を救った勇者だ。現在は戦いから離れハッピーエンド村の村長をしているが、人手不足でな。この男にバッドエンジェルズを制圧して来て欲しいと頼んでおったところだ」
オシトもオシトで、頭がおかしいことを平然と言ってのけやがる。そのとき俺はふと直感的に感じた。今目の前にいるオシトと名乗るこの国の王も、ひょっとして魂だけ俺みたいに別の世界から来た奴に入れ替わっているのではないか、と。
突然すぎる王の変節。それを世界の危機と認識するパトライト。普通の安っぽい物語なら魔物がオシトに化けていて、本物の王様は城の地下牢に幽閉されているみたいなことがありそうだが、どうやらそんな展開にはなりそうもない。そもそもこの世界の魔王は倒され、魔物達はいなくなった、と馬車でパトライトから聞いている。
・・・はっ。魔王。
魔王は俺の目の前にいるダイゴロウが討伐したのは事実らしいが、その魔王は、果たして、生涯独身、だったのだろうか? 魔王は世界を滅ぼすのに執着していたらしいから、私生活までは手が回らなかった、と考えるのが普通だが、俺は嫌な予感を感じ、隣のパトライトの方を向いた。
「パトライト。一つ聞きたい。俺が倒した魔王は、独り身だったのか」
俺の質問に、パトライトはバツが悪そうな表情で沈黙している。質問に答えてくれ、と俺は催促すると、口ごもった表情で、「時空を歪められる力を持った邪悪な子供がいましたが、勇者様が殺めることは出来ぬ、と、逃がしたではないですか」と返して来た。
子供。
魔王には、子供がいたのか。それも時空を歪められる邪悪な子供、とな。
どうやら、点と点が繋がり始めたな。
とりあえずダイゴロウ、俺の体は必ず返してもらうぞ。俺の品位を貶めるなよ。腐っても、俺は王族の嫡男なんだからな。




