第3話 転生した自国の王様が第六天魔王になっていた件
かつて自らが乗り移った体の持ち主と世界を救ったというパトライトに導かれるがまま、俺は自分の体の持ち主が興したハッピーエンド村にやってきた。そこは城塞都市のように石垣で覆われていることもなく、黄金色の小麦畑の先には、暖色系の建物が並ぶ街並みが連綿と続いていた。住民たちが幸せそうに暮らしている様子が伝わってくる、何とも明るい雰囲気の村、というか、街の規模だ。と思ったら、村の入り口とみられる場所に複数名の兵士が立っているのが見えたので、俺は警戒する。兵士達の脇には幌付きで白い馬が2頭並んだ豪華な馬車が置かれていた。
「お待ちしておりました、グレイ様。キング・オシト陛下の元にご案内いたします」
突然そう言われ、俺は困惑した。まだ村にも入ってないのに。隣にいたパトライトはバツが悪そうな表情を浮かべた後、「実は、再びこの世界に危機が起こっているんです」と伝えてきた。
世界の危機だと。道中、特に魔物らしき存在もおらず、兎が子供を追いかけて走っていたのを見たぐらい平和なのに、一体どんな危機が迫っているというんだ。キング・オシトは陛下と呼ばれていたことから、恐らくこの地域を支配する国の王だろう。丁度いい。その人物は俺がかつて世界を救った勇者だと思い込んでいるようだ。丁度いい。俺はこの世界とは異なる世界から魂だけやってきた人間で、この体の本当の持ち主ではないことを伝えておこうと思った。
早速馬車に乗せられ、俺はキング・オシトに会いに城へ招かれることになった。馬車の中からは外の風景は不明だったため、城の大きさなどは良く解らないが、ゴシック調の豪華絢爛な城、というよりは、城砦に近い感じなのだろう。
と思って馬車を降りると、頂きが見えないほどの高い建物が聳え立っていた。これは城、というよりも巨大な塔に近い。しかも白い。さしずめ白い巨塔だな。恐らく薬師同士が権力争いでもしてるんじゃないのか。
巨塔の周囲は堀があり水が張られていた。石で作られた橋を渡り、兵士に導かれるがまま、俺は開門された扉を通り、塔の内部に入っていった。入り口の直脇には無限を想起させるような螺旋階段が存在したが、この国の王、オシトと思しき人物は、一階の奥の玉座に鎮座していた。
いきなり別人ですというのは不味いので、俺は王族の礼儀に習い挨拶をし、頭を垂れ、「お招きいただきまして光栄です、陛下」と丁寧な言葉づかいをしてみせた。しかし王のオシトは無表情で、開口一番「ひさしいな、勇者よ。其方、顔に苦労がにじみ出ているな」と失礼な事を言ってきた。礼節も弁えないクソッタレな暴君の匂いがプンプンしやがる。俺をここに呼んだのも、きっと世界を救ってこいとかそういう無理難題をふっかけるつもりなんだろうな。
俺は柔和な表情で、オシトとかいう王に用件を尋ねると、単刀直入に想定外のことを言ってきた。
「隣国バッドエンジェルズは、我が国の兵力では攻め落とせない。勇者よ、お主一人でいつものようにちゃちゃっと支配者達を皆殺しにしてきて欲しいのだ」
このオシトとかいう奴は、いきなり何ということを言うんだ。世界を救った勇者を敬うどころか、戦争の駒としてしか見ていない。パトライトが言っていた世界の危機とは、もしかして。俺は隣にいる彼女に視線を送った。パトライトは頷く。
そうか。この世界の新たなる危機とは、魔王復活とかではなく、人間が第六天魔王になってしまった、ということか。しかもこの体の持ち主、王様の言うなりになってやがる。やれやれ、異世界に転生したいとは思っていたが、とんだ災難だ。しかも隣国の名前がバッドエンジェルズって、レディースか何かかよ。




