第2話:転生したら顔に苦労がにじみ出ているオジサンになっていた件!!
毎朝目を覚ますと、見知った白い天井が視界に入る。それが俺の日常のはずだった。
だが、今日は何故か黄金色の空にありとあらゆる形の雲が流れているという奇妙な光景が黒い瞳に映り込んできた。
更に視界を遮るかのように、俺の周囲には美麗な無数の花が咲き誇っている。
そのとき俺は、悟り、そして安堵した。
ようやく、この苦しみしかない人生を終わらせられたんだ、と。死んだら絶対地獄行きだと確信していたが、どうやら俺は天国に行けたらしい。法を侵す真似はしてないし、知的生命体を殺生したりもしていない。粉飾決算やインサイダー取引、収賄や裏金作り、マネーロンダリングすらしていない。この俺の清廉潔白で高潔な人間性を、きっとお天道様が評価して下さり、浄土にこれたのだろう。感謝するぜ。
天国は心地いい。後頭部にふかふかで温もりがある枕まで用意してくれていたようだ。流石天国、気が利くじゃねぇかい。と俺が考えていたら、視界に人間の顔が飛び込んできた。それが直に女性であり、そして漫画から飛び出して来たような美少女であることも理解した。銀色の美しい髪で、大きな瞳をしている。そしてあきらかに果実のように実った胸の大きさも感じる。彼女の抱き枕作ったら売れるだろうな。
「やっとお目覚めになられましたか、勇者様っ」
勇者、様? この女子は弾んだ声で言ったが、ちょっと意味が解らない。
「勇者、って、・・・・というより、お前さんはどちら様」
俺が純粋な疑問をぶつけると、その美少女は瞠目し、扇子で口元を隠し、「やだ勇者様ったら、御戯れが過ぎますわ。私です、パトライト・レアゲームですよ。かつて共に世界を救った仲間じゃないですか」と言ってきた。やっぱり、何を言っているのか理解できない。世界を救った? かつて? 俺が? 一体この女は何を言ってるんだ。というより、俺、このパトライトと自称する女性の膝に後頭部を乗せている状態、つまり膝枕じゃないか! なんてことだ! パンツ一丁のムキムキ変態お父さんにもされたことなかったのに! いや、そんな親父に膝枕などされたくないよな、普通の男は。言いかえよう。
なんてことだ、産まれてこの方、彼女にもされたことが無いのに! そうだ、これでいい。テイク2でアドリブ演技が決まった。流石俺だ。自分が童貞である現実を解らせられて、精神的ダメージが入ってしまったじゃないかっ。くっそ、せめて童貞捨ててから死にたかったよ。
「勇者様、心ここにあらずみたいになってますが、大丈夫ですか」
「あの、えーと、パトラさんだっけ?」
「パトライトです、勇者様!」
「失礼、パトライトさん。俺、いや、えーと、私はテール家という王族の家に生まれたグレイと言う名の者なんだけど、合ってるかな」
俺がそう言うと、パトラ、否、パトライトは扇子を頭に置き首をかしげた後、「いいえ、あなたのお名前は、ダイゴロウですよ」
俺とお前と、ダイゴロウってか。
・・・・って、そんな昭和のCMソングネタ、この物語を読んでいる10代の若者が知るわけないだろうがっそこはもっと鮮度のいいネタで攻めるべきだろう。というか何でダイゴロウやねん。
と、俺が思った瞬間に時が巻き戻り、パトライトと名乗る少女は再び「勇者様、心ここにあらずみたいになってますが、大丈夫ですか」と先ほどと同じ質問をしてきた。なんだ、今のは。そして俺はもう一度同じことを言った。すると、パトライトは「あなた様の名前は・・・」と柔らかそうな唇を動かしたのち、突然彼方から性別を判定できない声で「名前をつけて下さい」と囁かれた。
何だ、今のは? まあいい。
俺の名はグレイ。シャスポーネ国の王族、テール家の嫡男、グレイだ。
そう心の中で思った瞬間、パトライトは「勇者様のお名前は、グレイですよ」と言い、満面の笑みを見せつけてきた。可愛い。惚れてしまった。キミが好きだと叫びたい。彼女の推しになって、推し活したい気分だ。
俺は徐に上半身を起こす。何だか体の節々が痛いのだが、気のせいか? 少々体が重い気もする。何気なく、右掌を見てみた。生命線の長さが異なることに気が付くのに、時間はかからなかった。
違う。
これは、この体は、俺の本当の体じゃない。パトライトに顔を思いっきり近づけ、彼女の瞳に自分の姿を映してみた。
なんだ?
この、人生疲れ切った草臥れたオッサンみたいな顔は。若い俺でも顔に苦労がにじみ出てるのが解るほどには草臥れてるぞ。
「俺、オッサンになっとるやないかいっ」
自分で自分にツッコんでみたが、パトライトは表情を変えず、「勇者が世界を救ってから、もう20年以上経過してますし、人間ですから年も取るのは自然なことですよ」と言ってきた。全然慰めにも何にもなってない。昨日、というか目を覚ます前はピチピチの若者だったのに、なんで今の俺はオッサンになってるんだ。しかも明らかに俺の顔じゃない。これは間違いなく別の誰かの体で、恐らく俺の魂だけが、かつて世界を救ったらしい勇者だが、今はオッサンになっている奴の体に乗り移ってるんだ。
「グレイ様、そろそろハッピーエンド村に戻りませんか。村人達も待ってますわ」
ハッピーエンド村? なんだそのやたら金利が高そうな金融会社みたいな名前の村は。大体、ハッピーだのなんだのと付ける会社は、実態は超絶真っ黒だ。働きやすい素敵な職場です、福利厚生バッチリなんてのも嘘っぱちだ。俺は正直に、パトラに「行きたくない」と言った。だが間髪入れず、彼女はこう言ったのである。
「何を言ってるんですか? ハッピーエンド村は、勇者様が世界を救った後に自ら作った村で、あなた様は村長じゃないですか」
と。
一体どういうことなのでしょうかね? 何が何だかもうわけワカメでございますわよ。




