第九話:王宮の刺客と、最強の「足ツボ」マッサージ
「ヒャッハー! 囲め囲め! このドブネズミの巣窟を、一歩も逃がすんじゃねえぞ!」
下町の居酒屋『カツコマ』の周囲を、ガチャガチャと不快な金属音を響かせて包囲したのは、聖騎士団の新団長ボルドーが自信満々に差し向けた、聖騎士団の現役エースたちだった。
彼らは王宮の最先端魔法鎧を身に纏い、手には特注の魔導槍を構えている。しかし、その顔に浮かんでいるのは、正義の騎士とは程遠い、下劣でゲス全開のニヤつき面だった。
バシャーーーン!!と、すでに何度目か分からないほど乱暴に店のドアが蹴破られ、3人のエース騎士が踏み込んできた。
「おいおい、本当に盲目のジジイが呑気に座ってやがるぜ。おい、クソ盲目! お前が『魔王軍と内通して王宮転覆を企む大罪人』だな! 観念してその汚ねえ首を差し出しな!」
先頭のリーダー格の騎士が、下品に唾を吐き捨てながら、カウンター席のイチを指差した。
「おいおい、そこの小娘もなかなか極上じゃねえか。ジジイを連行した後は、この店もろとも俺たちの『玩具』にしてやるからよぉ、ケケケッ!」
「やめて……! 近づかないで!」
サホが怯えて身を引く。エース騎士たちはサホの恐怖に歪む顔を見て、さらに下劣な高笑いを上げた。彼らは新団長から「下町の平民どもは好きに処分していい」と許可を貰い、完全に調子に乗っていたのだ。
しかし、その横で、俺――イチは静かにエールのジョッキを置き、フフッと口元を緩めた。
「いやあ、お客さん方。ずいぶんと威勢が良いですが……その割には、足元がずいぶんとフラついていますな。魔力回路のバランスがぐちゃぐちゃで、肩も腰も、特に『足の裏』がガチガチに凝り固まっていますよ」
「あぁあん!? 何をボケっとしたことを言ってやがる、この障害者が! 恐怖で頭がおかしくなったか!」
「聖騎士団のエースたる俺たちに、マッサージだと? ふざけやがって、その生意気な片腕ごと、細切れにしてやるわぁ!」
エース騎士の2人が、下劣な叫び声を上げながら、魔力を込めた大剣と槍でイチの死角から同時に襲いかかった。常人なら肉片すら残らない、一撃必殺の同時突き。
――だが、イチは席から立ち上がりすらしない。
カシャッ。
一瞬、誰も視認できない速度で仕込み杖が閃いた。
イチが放ったのは、剣風すら起こさない神速の『峰打ち』。
キィィィン!!と鼓膜を突く高音が響いた瞬間、2人の騎士が持っていた高級な魔導武器が、まるでガラス細工のように根元から粉々に砕け散り、床にバラバラと落ちた。
「な、何だと……!? 俺たちの特注武器が一瞬で……!?」
「おやおや、やっぱり足元が留守ですよ」
唖然とする騎士たちの懐に、イチは音もなく踏み込んだ。
そして、仕込み杖を壁に立てかけると、左手一本で彼らの首根っこを掴み、そのまま床へと叩きつけた。
「がはっ!? 何の真似だ――」
「さあ、お仕事の時間ですな。まずは、体内の魔力が一番詰まっている『足の裏のツボ』からいきましょうかねぇ」
「は? 足の裏……ぎゃ、ぎゃああああああああああああああああーーーッ!?!?!?」
玉座の間を揺るがすほどの、この世のものとは思えない絶叫が響き渡った。
イチが左手の指先にカンストした魔力制御スキルを込め、彼らの足の裏にある『魔力経絡の秘孔(湧泉のツボ)』を、ギチギチと容赦なく強烈に指圧一発分の衝撃波を凝縮)したのだ。
普通の足ツボマッサージではない。体内の魔力回路を強制的に逆流させ、激痛とともにすべてのバフ(強化魔法)を完全に中和・無効化する、イチ独自の『絶対デバフ指圧』である。
「あ、熱い! 脳ミソが弾け飛ぶ! 呪いだ! これは凶悪な禁忌の呪いだぁぁ!」
「許して! 頼むからその指を離してくれぇぇ!」
エリート騎士たちは、あまりの激痛に涙と鼻水をボロボロと流し、床をのたうち回りながら見苦しく命乞いをした。さっきまでの下劣で傲慢な態度は微塵もなく、ただの惨めなブタのように鳴いている。
「いやあ、お客さん方。無能な新団長にゴマすりばかりしているから、そんなにツボが凝るんですよ。――おまけに、もう一押し!」
イチが指先をクッと捻った瞬間、バチバチバチッ!!!と凄まじい衝撃波が彼らの体を駆け巡った。
その風圧だけで、騎士たちが身に付けていた最先端の魔法鎧、衣服、下着に至るまでがミリ単位でズタズタに切り刻まれ、一瞬にして爆散した。
「ぶひゃああああっ!?」
3人の聖騎士団のエースたちは、一瞬にして生まれたままの姿(全裸)にされ、衝撃で店の外の大通りへと勢いよくブッ飛ばされた。
ドサササッ!と泥水の中に全裸で転がるエリート騎士たち。
「ひ、ひえぇぇぇ! 武器も鎧も服もねえ!」
「全裸だ! 聖騎士団のエースが全員スッポンポンだぁぁ!」
彼らは恥ずかしさと恐怖のあまり、股間を両手で隠しながら、下町の大通りを「ひ、ひえぇぇぇ!」と悲鳴を上げて一目散に逃げ出していった。
王宮の現役エースたちが全裸で泥水を爆走する姿は、瞬く間に王都中の大爆笑のニュースとなり、聖騎士団のメンツは完全に泥に塗れた。完璧な『ざまぁ』の完成だ。
「ふぅ……。左手一本だと、少々力加減が難しいですな。サホちゃん、床を汚してすまなかったね」
イチはいつもの飄々とした態度で仕込み杖を拾い上げ、カウンター席に戻った。
「ううん! すっごくスカッとしたわ! あんなゲスな奴ら、全裸がお似合いよ!」
サホが嬉しそうに拳を握りしめる。
隣で一部始終を見ていたゲラルトは、クスクスと肩を揺らして笑っていた。
「ハハハ! さすがだな、イチ。王宮の現役エースたちを足ツボ一つで全裸にして敗走させるとは。あの新団長ボルドーも、今頃は泡を吹いているだろう」
「いやあ、無能と笑った奴らに、本当の世界の広さを教えてやるのは気持ちが良いですからねぇ」
イチは新しいエールを美味そうに喉に流し込んだ。
だが、その時。イチの『世界樹の根』が、王都の防衛網を擦り抜けて、下町の裏路地へと音もなく侵入してくる、冷酷で不気味な『気配』を捉えた。
魔王軍の超一級暗殺部隊『幻影の牙』。新団長たちの無能な内乱に乗じ、最大の脅威であるイチを無力化するため、サホを狙う冷酷な足音が、すぐそこまで迫っていた――。




