第二十三話:仕込み杖、世界を裂く 〜限界突破の聖剣居合い〜
「ヒャッハー! 騙されやがったな、クソ盲目のジジイがァァァ!!」
魔王軍の空中要塞、その最奥にある玉座の間。
床に膝をついて怯えるフリをしていた魔王『虚無の王』ヴァルガスが、下劣に顔を歪めて狂ったように叫んだ。
彼が抱きしめていた魔導水晶はただのフェイクだったのだ。本当の起動陣はサホが閉じ込められた檻の底に隠されており、イチの一突きを回避するように魔力が一気に逆流。要塞の天井を突き破って、王都の夜空に極大の【滅びの終焉魔法陣】が完全展開された。
「ハハハ! 見ろ! これが我が魔王軍の本当の切り札だ!」
ヴァルガスは最高幹部としての傲慢さを全開にし、イチたちを指差して下品に唾を吐き捨てた。
「おい、イチ! お前のような目も見えねえ出来損ない……いや、ただの平民の障害者が、この私に勝てると思ったか! この魔法が一撃放たれば、お前らの大好きな下町も、あの居酒屋のサホとかいう小娘も、まとめて消し飛んで灰になるわぁ!」
「ひゃっはー! ざまぁみやがれジジイ! お前が死んだ後は、あの小娘を俺たちの奴隷にしてやるからな、ケケケッ!」
隠密兵たちもヴァルガスの背後から腰をくねらせ、下劣な言葉を吐き散らした。
王都崩壊のカウントダウン。迫り来る世界の終焉。
「イチ、あれはまずい! 私が全魔力で障壁を――」
ゲラルトが前に出ようとする。
しかし、イチは静かにそれを制した。
「いやあ、魔王の旦那。それに隠密のハゲども。……あんたたち、本当に救いようのないゲスだねぇ」
イチは飄々としたいつもの笑みを消し、仕込み杖を『両手』で深く握り込んだ。
その瞬間、王都全土の空気が一瞬で凍りついたかのような、絶対的な静寂が戦場を支配した。
イチの全身から吹き上がったのは、夜空の暗雲をすべて消し飛ばし、神々すら平伏すほどの、天を衝く黄金の神聖魔力。
「――サホちゃんの笑顔と、美味い酒の味を汚した罪。……あんたたちの安い命を世界中から掻き集めても、到底払い切れんと言ったはずですよ」
イチが仕込み杖から、その『本物の刃』を【限界突破】で完全に引き抜いた。
キィィィィィン……!
現れたのは、光の粒子で編まれた、この世界の概念そのものを両断する神話級魔剣『世界樹の瞬き(ワールド・ブリンカー)』。
「消し飛べェェェッ!!」
ヴァルガスの絶叫とともに、天井の魔法陣から極大の破壊光線が放たれた。
だが、イチの居合いの方が、遥かに速かった。
「【無刀一閃・世界の境界】」
サクッ。
まるで、薄い紙を一枚ハサミで綺麗に切ったかのような、静かな音が響いた。
直後、放たれたはずの破壊光線が、中央から綺麗に左右へと割れて霧散した。
それだけではない。イチが両手で放った目に見えぬ黄金の斬撃は、上空の巨大魔法陣を一瞬で真っ二つに叩き切り、そのまま魔王軍の傲慢の象徴だった『巨大な空中要塞』そのものを、天に向かって『完全な左右対称に真っ二つ』に両断したのだ。
「ひ、ひえあうあわあああああーーーっ!?」
バリバリと音を立てて割れていく空中要塞。
ヴァルガスと隠密兵たちは、イチが放った衝撃波の風圧だけで、皮膚を傷つけることなく、着ていた高級な魔導衣、衣服、下着に至るまでを一瞬で粉々に切り刻まれた。
「ぼ、僕の地位が! 要塞がぁぁぁ!」
「全裸だ! また全裸にされたァァァ!」
スッポンポンになった悪党どもは、衝撃で真っ二つに割れた天井から遥か彼方へと吹き飛ばされ、王都の中央広場にある、一番汚い「最下級ゴブリンの檻」へとまっ逆さまに叩き落とされた。
◇
翌朝、王都の中央広場は大騒ぎになっていた。
「おい、見ろよ! ゴブリンの檻の中に頭から突っ込んでる全裸のハゲは誰だ!?」
「あ、あれ、魔王軍の最高幹部ヴァルガスじゃないか!?」
集まった大勢の平民や貴族たちの前で、ヴァルガスはゴロツキのような隠密兵たちと折り重なり、緑色の不気味なゴブリンたちに「ウギャギャ!」と囲まれながら、生まれたままの姿(全裸)で、泥と糞尿にまみれて白目を剥いていた。
イチが事前に証拠の密書を王宮へ転送していたため、彼らが王都を滅ぼそうとしていた大罪人であることはすでに国中に知れ渡っていた。
「うわぁ、汚らわしい! 魔王軍のトップがゴブリンに遊ばれてるぞ!」
「平民を見下しておいて、自分はゴブリンの檻がお似合いの売国奴かよ!」
「おい、あいつらに生ゴミを投げつけろ!」
目を覚ましたヴァルガスは、周囲からの軽蔑と嫌悪に満ちた視線、そして容赦なく投げつけられる腐ったトマトや生ゴミを全身に浴び、絶望に顔を歪めた。
最高幹部としてのプライド、社会的地位、信頼、そのすべてが文字通り泥に塗れて完全失脚したのだ。
「違う……私は偉大な魔王だ……私は無能じゃない……!」と、ゴブリンの檻の中から虚しく泣き叫ぶヴァルガス。これ以上ない、完璧すぎる究極の『社会的失脚』が完了した瞬間だった。
◇
その頃、真っ二つに割れて地上へと不時着した要塞の最上階。
イチはサヤに魔剣を収め、仕込み杖をコツ、コツ、と突きながら、隣のゲラルトを振り返った。
「いやあ、ゲラルトの旦那。ちょっと派手にやりすぎちゃいましたな。またサホちゃんに怒られそうだ」
「ハハハ! 最高の見物だったぞ、イチ。あの無能どもに世界の広さを教えてやれたな。さあ、下町へ帰ろう。最高の酒が俺たちを待っている」
最強の二人は、朝日に照らされる王都を背に、大切な仲間たちが待つ美味い居酒屋へと、静かに歩みを進めるのだった。




