第二十話:宿命の共闘 〜元王宮筆成騎士と盲目の聖騎士〜
「ひゃっはー! 燃えろ、燃えろォ! 逃げ惑うドブネズミどもを片っ端から焼き殺せぇ!」
王都の夜空に浮かび上がったのは、魔王軍の最高幹部『虚無の王』ヴァルガスが展開した、禍々しい紫色の【滅びの終焉魔法陣】だった。それだけではない。前回の戦いで一文無しにされたバルサス帝国の騎士団長もまた、魔王軍と裏で結託し、敗戦の腹いせとばかりに進駐軍の魔導兵器を下町に向けて無差別発射していた。
理不尽な火の手が下町の家々を包み、平民たちの悲鳴が響き渡る。
さらにゲス極まりないことに、魔王軍の隠密どもは100%の気配隠蔽スキルを悪用し、寝室で寝ていたサホを『神話級エルフ豆の苗』ごと強引に拉致。上空に君臨する巨大な黒鉄の空中要塞へと連れ去ってしまったのだ。
「イチさん! ゲラルトさん! 助けてーーーっ!」
遥か上空から聞こえる、引き裂かれるようなサホの悲鳴。
「ククク……ハハハハハ! ざまぁ見ろ、盲目の大罪人イチ! そして裏切り者のゲラルトよぉ!」
空中要塞の投影魔導具から、ヴァルガスの下劣に歪んだ顔が王都全土へ映し出された。
「お前たちの唯一の弱点である小娘と、伝説の苗は我が魔王軍が貰い受けた! もし少しでも逆らう素振りを見せてみろ。この魔法陣を起動し、王都全土の数百万の平民どもを、内側から肉片に変えて爆発させてやる! 命が惜しくば、今すぐその薄汚ねえ魔剣を捨てて、全裸でそこに這いつくばり、我ら魔王軍の奴隷になることを誓えぇぇ!」
人質を王都全土、そしてサホに変えた、反吐が出るほど醜く、下劣極まりない卑劣な脅迫。
絶望的な光景を前に、下町の平民たちは地面に膝をつき、涙を流して絶望に暮れていた。誰もが、もう終わりだと、世界の終焉を確信していた。
――だが、ただ二人、激しく燃え盛る居酒屋『カツコマ』の前に佇む男たちの目(気配)だけは、微塵も死んでいなかった。
「……いやあ、魔王軍の旦那。それに帝国のハゲ騎士団長」
イチは愛用の仕込み杖を『両手』で深く握り直した。
彼らが弱点だと蔑み、なぶり殺そうとした下町の小さな店の前で、イチの全身から、王都の紫色の夜空を一瞬で黄金に塗り替えるほどの、絶対的な神聖魔力が立ち上る。
ドゴォォォォォン!!!
イチが放つ、カンストした【魔王の威圧】の覇気が空間そのものを激しく震わせ、周囲で略奪を働いていた魔王軍の雑魚兵や帝国兵たちが、その圧倒的なプレッシャーだけで白目を剥いて一斉に泡を吹いて卒倒していった。
「サホちゃんの美味しいポトフの味を汚し、あの優しい笑顔を涙に変えた罪……。あんたたちの安い命を世界中から掻き集めても、到底払い切れんと言ったはずですよ」
普段は不器用で、のんびりエールを飲むことしか考えていなかった盲目の元聖騎士の『人情スイッチ』が、今、完全に臨界突破し、世界を容易く滅ぼせるほどの親バカ……いや、人情の怒りへと変貌した。
「フッ、フハハハ! 最高だな、イチ! これほどの怒りを湛えた君の魔力、かつて王宮の筆頭騎士だった頃の私でも、震えが止まらないほどだぞ」
隣の席で串焼きを食べていたはずのゲラルトが、全盛期を遥かに超越した冷徹な魔剣を引き抜き、イチの隣へと力強く並び立った。彼の身体からもまた、天を切り裂くような漆黒の魔力圧が吹き上がっている。
「イチにこの不治の病を完治させてもらった時から、私の命は君と、この素晴らしい下町のものだ。古巣の無能どもや、隣国のゲスども、そして魔王軍の化け物どもに、本当の『絶望』ってやつを教えてやろう」
「ええ、ゲラルトの旦那。まずは、上空の要塞に乗り込む前に、道を塞いでいる帝国のドブネズミどもから、徹底的に揉みほぐして(お仕置きして)あげましょうかねぇ」
盲目の最強騎士と、完治した天才魔剣士。
世界最強の二人が、魔王軍と帝国軍の数万の大軍勢が対峙する、最前線の戦場へと向かって、堂々と正面から歩みを進めるのだった。




