↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】盲目の無能と蔑まれ追放された聖騎士、実は気配察知スキルがカンストしていた〜盲目だけど仕込み杖を抜いたら、一瞬で魔王軍を全滅させてしまった件〜  作者: ボルトコボルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/24

第十七話:帝国のイカサマカジノ船、下町に密航する

 ザーーー、ザーーー……。


 王都の下町を流れる大河に、漆黒の巨大な船影が音もなく滑り込んできた。


 先日の夜、居酒屋『カツコマ』で前衛の騎士たちを全員全裸にされ、エリートとしての面目を完膚なきまでに叩き潰されたバルサス帝国軍の騎士団長。彼は自らの失脚を防ぎ、下町を裏から支配するための次なる卑劣な手段を打っていた。


 それこそが、帝国裏社会の巨大な資金源である『巨大魔導カジノ船・リヴァイアサン号』の密航、および不法停泊だった。


「ヒャッハー! ほらほら、平民のドブネズミども! 帝国の最高級カジノが上陸してやったぞ! カネを持ってる奴は全員吐き出しやがれぇ!」


 カジノ船の入り口では、帝国のゴロツキや下劣な兵士たちが、銃や魔導銃をチラつかせながら、下町の平民たちを強引に船内へと拉致、拉致同然の強制連行を行っていた。彼らはこの船に仕込まれた『最悪の魔導イカサマ』を使い、下町の富を根こそぎ吸い上げ、住民たちを合法的に破産させて奴隷に落とそうと画策していたのだ。


 理不尽な暴挙はそれだけに留まらなかった。


 彼らは下町の流通ルートを力ずくで占拠し、カジノ船に都合の良いように物資を独占。その結果、下町の物価は一気に跳ね上がり、ただの食材やエール(黒麦酒)の仕入れ値すら、通常の数倍にまで暴騰していた。


 ◇


「もう、信じられないわ! 卵も、お肉も、イチさんの大好きな黒エールも、全部あの帝国のカジノ船のせいで仕入れ値が5倍よ! このままじゃ『カツコマ』が赤字で潰れちゃう!」


『カツコマ』の店内。


 看板娘のサホが、請求書を片手に涙目で激怒していた。


「ほう、仕入れ値が5倍ねぇ……。そいつは聞き捨てなりませんな、サホちゃん。俺の大事な燃料エールを値上げさせるなんて、その帝国のカジノ船とやらは、ずいぶんと行儀が悪い」


 カウンターの隅で、俺――イチは静かにジョッキを置くと、壁に立てかけていた木製の仕込み杖を左手で引き寄せた。


「イチさん、どうするのよ? 街の男の人たちも、あの船に騙されて身ぐるみ剥がされてるのよ!」


「いやあ、ちょうど生活費を稼ぎに行こうと思っていたところですわ。ゲラルトの旦那、ちょっとお出かけ(お散歩)にお付き合いいただけますかね?」


 隣の席で串焼きを食べていたゲラルトが、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。


「フン、いいだろう。帝国の無能どもが、今度はどんな下劣な罠を用意しているのか、この目で確かめてやる」


 ◇


 魔導カジノ船『リヴァイアサン号』の内部は、眩いばかりの魔導照明と、人間の強欲な汗の臭いで満ち満ちていた。


 その中央に鎮座する、最高額の金貨が飛び交うVIPテーブル。


「ケケケッ! ハズレだ、ハズレ! ほら、そこの平民の親父、お前の全財産と、その娘の奴隷契約書をこっちに貰い受けるぜぇ!」


 紫色のド派手なタキシードを着た、帝国の自称『天才ギャンブラー』であるディーラーの男が、下品に舌をペロペロと出しながら、泣き叫ぶ下町の老人のカネを毟り取っていた。


 この船で行われているダイス博打には、最高峰の『音響遮断結界』と『空間湾曲魔法』が仕込まれていた。ディーラーが手元の指輪の魔導スイッチを押すたびに、カップの中の重力が変わり、カジノ側が思い通りの目を100%出せる仕組みだ。普通の人間には、カップの中の音すら一切聞こえない。


 彼らは「完全なる神のダイスだ!」と豪語し、負けた平民たちを「自己責任だろ? 嫌ならカネを払えよ!」と嘲笑い、服を剥ぎ取って奴隷の檻へと放り込んでいた。理不尽と欺瞞に満ちた、下劣極まりない博打場。


 そこへ、コツ、コツ、と仕込み杖を突きながら、俺とゲラルトが足を踏み入れた。


「おいおい、なんだその盲目のジジイは!」


「ここはカネのない障害者が来る場所じゃねえんだよ、ひゃははは!」


 周囲の帝国兵たちがゲス全開で嘲笑う中、俺はサホちゃんから預かってきた最後の金貨1枚を、静かに『半(奇数)』のレーンへと置いた。


「いやあ、目が見えねえと勘だけが頼りでしてねぇ。――『半』でお願いしますよ、天才の旦那」


「ケッ、死に金だな! いくぞ、オープン!」

 ディーラーが勝ちを確信してカップを開ける。……だが、彼の顔が引きつった。


「ご、5と4で……半(奇数)!?」


「おっと、当たりましたな」


 俺はさらに、倍になったカネをそのまま次の勝負に賭けた。


 ディーラーの額に冷や汗が浮かぶ。彼は指輪の魔導スイッチをカチカチと連打し、体内の魔力をダイスへ注ぎ込んだ。ダイスの重心が変わり、カップの中で不自然な回転をする。普通の人間には不可視の、完璧なイカサマ。


 ――しかし、俺の【限界値カンスト】に達した聴覚スキル『世界樹の根』の前では、それはただの『大音量の騒音』だった。


 船全体の魔導回路を流れる魔力のノイズ、指輪の作動音、そしてカップの内壁に魔導ダイスが衝突する微小な空気振動――そのすべてが、俺の脳内3Dマップに完璧に透過されて『聴こえすぎていた』。


(へえ、次は『丁(偶数)』に操作したね。じゃあ、俺は――)


「――『丁』に、全額」


「なっ……!? 開、開!! ……3と3で、丁……だとぉ!?」


 それから先は、一方的な蹂躙だった。


「半」「丁」「半」「丁」――俺が賭けるたびに、カジノ側のイカサマを100%先読みされた狂いのない目が、正確に出続ける。


「ひ、ひえええ! あの盲目、また当てやがった!」

「おい、これで20連勝だぞ!? 船の資金が底を突く!」


 カジノ中の客が狂喜乱舞し、逆にディーラーは精神が崩壊して泡を吹いてその場に卒倒した。俺の目の前には、うず高く積まれた金塊と、カジノ船の全財産。帝国の巨大な資金源を、たった一時間で完全に枯渇させてやったのだ。


「――そこまでにしてもらおうか、大罪人ども」


 奥のVIPルームから、金塗りの鎧を着た帝国騎士団長が、数百人の完全武装した暗殺兵を引き連れて現れた。


「おい、クソ盲目。てめぇ、何かしらの不正スキルを使いやがったな? あああん!? 帝国のカネを盗むなど、万死に値するわ!」


 団長は下劣に顔を歪め、俺が稼いだ金塊の山を乱暴に蹴り散らした。


「このカネは全額没収だ! それから、その調子に乗った両腕と両足をここで叩き切って、この川のドブ底へエサとして放り込んでやる! 野郎ども、この障害者をなぶり殺しにしろ!!」


 数百人の暗殺兵たちが、ギラギラと光る魔導短剣を構え、一斉に俺とゲラルトへ飛びかかろうとする。


 だが、俺は仕込み杖の先で、船の床をトントンと2回、軽く叩いた。


「いやあ、騎士団長の旦那。イカサマはいけませんな。カネってのは、綺麗に稼がねえと……足元からすべてを失いますよ」


「あぁん? 何をボケっとしたことを――」


「【闇域ダークネス・ベール】」


 パツンッ!!!


 次の瞬間、巨大カジノ船内のすべての魔導照明が一瞬で『完全消滅』した。


 船内は光子が完全に遮断された、一寸先も見えない完全な漆黒の闇へと変わる。


「うわあああ!? なんだ、真っ暗だぞ!?」


「何も見えねえ! おい、どこにいる!?」


 視界を奪われ、パニックに陥る帝国兵たち。暗闇の中で彼らは武器を振り回し、お互いを傷つけ合う。


 ――しかし、俺の世界は、何も変わらない。


 むしろ、周囲が静かになった分、彼らの恐怖に満ちた心臓の鼓動、荒い呼吸、下劣な冷や汗が流れる音まで、脳内マップに鮮明に浮き上がってくる。


「さて、お仕置きの時間ですな。ゲラルトの旦那、入り口の回収(金塊の確保)をお願いしますわ」


「フッ、了解した。思う存分揉みほぐしてやれ、イチ」


 暗闇の中、コツ、コツ、と俺の足音だけが響く。


「ひ、ひいいい! 来るな! 来るなァ!」


 ――シュパッ!!


「ギャアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」


 誰も俺の姿を捉えられない。ただ、暗闇の中で仕込み杖の魔剣が神速で風を切り、正確に暗殺兵たちの武器を粉砕し、防具を切り刻み、彼らの衣服をミリ単位で全て剥ぎ取っていく。


「武器が……最新鋭の魔導鎧が、服が消えたァ!?」


「痛くねえ……痛くねえけど、スッポンポンだァー!」


 暗闇の中で、ゴキ、バキ、と小気味よい音が響くたびに、帝国兵たちが全裸で床に転がっていく。


 最後に残った騎士団長と、ハゲのギャンブラーの背後に、俺は音もなく立った。


「……あ、あ、ああ……」


 団長が恐怖で歯をガタガタと鳴らす。


「旦那方。下町の仕入れ値を上げた罪、その全裸の身一つじゃ、とても払い切れませんがねぇ」


 イチは仕込み杖の柄で、二人の額をツン、と軽く小突いた。


 それだけで、カンストした衝撃波が脳を揺らし、団長とギャンブラーは白目を剥いて全裸のまま、カジノ船の床を突き破って冷たい大河へとまっ逆さまに叩き落とされた。


 船の全財産を失い、精鋭も全滅、自身は全裸で川へドボン。


 完璧な制裁が完了した瞬間だった。


 パチン、と指を鳴らすと、カジノ船の照明が元に戻った。


 そこには、数百人の全裸の帝国兵たちが折り重なって気絶している、あまりにもマヌケで下品な地獄絵図が広がっていた。


「よし、サホちゃんへの手土産(仕入れ値5年分の金塊)を台車に乗せて帰るとしますかねぇ」


 俺はゲラルトと一緒に大きな麻袋に詰め込んだ金塊を台車に積み込むと、それを軽々と引いた。


「いやあ、やっぱり目が見えないってのは不便ですな。カネの重さで、少し肩が凝りそうだ」


 イチはフフッと笑いながら、仕込み杖をコツコツと鳴らし、サホちゃんの待つ美味い居酒屋へと、静かに歩みを進めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。