第十四話:仕込み杖、天を裂く 〜神話級魔剣の真の力〜
「ヒャッハー! 騙されやがったな、クソ盲目のジジイがァァァ!!」
聖騎士団総本部の主塔最上階。床にへたり込んでいたはずの新団長ボルドーが、下劣に顔を歪めて狂ったように叫んだ。
彼が抱きしめていた魔導水晶はダミーだったのだ。本当の術式は、部屋の天井の装飾に隠されていた。凍結されたはずの魔力が一気に逆流し、主塔の天井を突き破って、王都の夜空に巨大な漆黒のゲートが開いた。
グルオォォォォォォォォォッ!!!
天地を揺るがす咆哮とともに現れたのは、かつて一つの国を一夜で滅ぼしたという、魔王軍の巨大怪獣『終焉の巨獣』だった。山のような巨体が主塔の真上に君臨し、その口元には王都を焼き尽くすための破壊光線がバチバチと収束していく。
「ハハハ! 見ろ! これが私の本当の切り札だ!」
ボルドーは金にまみれたエリートとしての傲慢さを全開にし、イチたちを指差して下品に唾を吐き捨てた。
「おい、イチ! お前のような目も見えねえ出来損ない……いや、ただの平民の障害者が、この偉大なる私に勝てると思ったか! この怪獣が一撃放てば、お前らの大好きな下町も、あの居酒屋のサホとかいう小娘も、まとめて消し飛んで灰になるわぁ!」
「ひゃっはー! ざまぁみやがれジジイ! お前が死んだ後は、あの小娘を攫って、俺たちの奴隷にしてやるからな、ケケケッ!」
ハゲ支配人もボルドーの背後から腰をくねらせ、下劣な言葉を吐き散らした。
王都崩壊のカウントダウン。迫り来る絶望の巨獣。
「イチ、あれはまずい! 私が全魔力で障壁を――」
ゲラルトが前に出ようとする。
しかし、イチは静かにそれを制した。
「いやあ、新団長の旦那。それにカジノのハゲ。……あんたたち、本当に救いようのないゲスだねぇ」
イチは飄々としたいつもの笑みを消し、仕込み杖を『両手』で深く握り込んだ。
その瞬間、王都全土の空気が一瞬で凍りついたかのような、絶対的な静寂が戦場を支配した。
イチの全身から吹き上がったのは、夜空の暗雲をすべて消し飛ばし、神々すら平伏すほどの、天を衝く黄金の神聖魔力。
「――サホちゃんの笑顔と、美味い酒の味を汚した罪。……あんたたちの安い命じゃ、到底払い切れんと言ったはずですよ」
イチが仕込み杖から、その『本物の刃』を完全に引き抜いた。
キィィィィィン……!
現れたのは、光の粒子で編まれた、この世界の概念そのものを両断する神話級魔剣『世界樹の瞬き(ワールド・ブリンカー)』。
「消し飛べェェェッ!!」
ボルドーの絶叫とともに、巨獣の口から極大の破壊光線が放たれた。
だが、イチの居合いの方が、遥かに速かった。
「【無刀一閃・世界の境界】」
サクッ。
まるで、薄い紙を一枚ハサミで綺麗に切ったかのような、静かな音が響いた。
直後、放たれたはずの破壊光線が、中央から綺麗に左右へと割れて霧散した。
それだけではない。イチが両手で放った目に見えぬ黄金の斬撃は、上空の巨大怪獣を脳天から股下まで一瞬で真っ二つに叩き切り、そのまま聖騎士団の傲慢の象徴だった『巨大な主塔』そのものを、天に向かって『完全な左右対称に真っ二つ』に両断したのだ。
「ひ、ひえあうあわあああああーーーっ!?」
バリバリと音を立てて割れていく主塔。
ボルドーとハゲ支配人は、イチが放った衝撃波の風圧だけで、皮膚を傷つけることなく、着ていた高級な魔法鎧、衣服、下着に至るまでを一瞬で粉々に切り刻まれた。
「ぼ、僕の地位が! 城がぁぁぁ!」
「全裸だ! また全裸にされたァァァ!」
スッポンポンになった二人の悪党は、衝撃で真っ二つに割れた天井から遥か彼方へと吹き飛ばされ、王都の中央広場にある、冷たい「豚小屋の泥沼」へとまっ逆さまに叩き落とされた。
◇
翌朝、王都の中央広場は大騒ぎになっていた。
「おい、見ろよ! 豚の餌箱に頭から突っ込んでる全裸のハゲとデブは誰だ!?」
「あ、あれ、聖騎士団のボルドー新団長じゃないか!?」
集まった大勢の平民や貴族たちの前で、ボルドーとハゲ支配人は、泥と豚の糞尿にまみれた生まれたままの姿(全裸)で、気絶して白目を剥いていた。
イチが事前に証拠の密書を王宮へ転送していたため、彼らが魔王軍と内通し、王都を滅ぼそうとしていた大罪人であることはすでに国中に知れ渡っていた。
「うわぁ、汚らわしい! 聖騎士団のトップが魔王軍の内通者だったなんて!」
「平民を見下しておいて、自分は豚小屋がお似合いの売国奴かよ!」
「おい、あいつらに生ゴミを投げつけろ!」
目を覚ましたボルドーは、周囲からの軽蔑と嫌悪に満ちた視線、そして容赦なく投げつけられる腐ったトマトや生ゴミを全身に浴び、絶望に顔を歪めた。
エリートとしてのプライド、社会的地位、信頼、そのすべてが文字通り泥に塗れて完全失脚したのだ。
「違う……私は偉大な団長だ……私は無能じゃない……!」と虚しく泣き叫ぶボルドー。これ以上ない、完璧すぎる究極の『社会的ざまぁ』が完了した瞬間だった。
◇
その頃、真っ二つに割れた主塔の最上階。
イチはサヤに魔剣を収め、仕込み杖をコツ、コツ、と突きながら、隣のゲラルトを振り返った。
「いやあ、ゲラルトの旦那。ちょっと派手にやりすぎちゃいましたな。またサホちゃんに怒られそうだ」
「ハハハ! 最高の見物だったぞ、イチ。あの無能どもに世界の広さを教えてやれたな。さあ、下町へ帰ろう。最高の酒が俺たちを待っている」
最強の二人は、朝日に照らされる王都を背に、大切な仲間たちが待つ美味い居酒屋へと、静かに歩みを進めるのだった。




