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悪夢の続き

  「きて……おきて………起きなさいっての!」


 直後、今日"は"グッスリと眠っているスグルの腹に何かが突き刺さる。当然そんな衝撃を受けて目を覚さないわけがない。


 「グエッェ゙!?え?!なんなのぉ!?」


 衝撃により飛び起きたスグルの目に最初に映ったのは鈴宮と自分の腹に埋められている鈴宮の肘であった。

 起きたのを確認して口早にこう言う。


 「さっさと支度なさい。どうやら王様が私を呼び出しているらしいわよ」


 「陛下が?」


 それを毛布にくるまりながら聞きた後、速やかに着替えを始める。

 鈴宮もスグルがやろうとしていることが目に見えているため足早に部屋から出ていく。


 「にしてもなんで陛下がこんな朝早くに呼び出すんだろ。いつもならもう1,2時間経ってから授業なのに」


 元の世界なら午前7時半ぐらいの時間。

 普通の高校生をやっていたスグルにとってはあまり出かけるには慣れない時間である。

 それでも昨晩のこともあってかちんたらと行動しようとは思わないスグル。

 いつもの服装に着替え、寝室の扉から飛び出していく。



 「すいません!遅れました」


 バタンと玉座の間の扉を開く。玉座に座っている人物が一般的な王であった場合無礼千万である。


 「いいえ、寧ろ丁度いい時間でしたよ。さあ、話を始めましょう。カトルスさん、お願いします」


 「ヘイヘイ」


 若干息を上げてここまで来たスグルの視界には

随分と舐めた態度を取っている指南役と自分を待っていた3人が入ってきた。

 生返事をしながら指南役は説明口調で前へ出てくる。その手には鮮やかな橙色に染まった花が握られている。


 「君達にはこの花を取りに行ってもらう。なぁに歩いていれば見つかる程度の珍しさ。それを取りに行く課外授業だゾ」

 

 簡単な説明の後、先頭に立っている鈴宮に地図手渡される。地図には赤い印が描かれており、文脈的にあの花の群生地だろう。

 王城から中途半端に遠い場所にあった。果たして意図してか。


 「20分後に出発してもらうからそれまでに準備して逝ってくれ」


 その言葉を終わりの合図として一時解散。

 といっても王とカトルス、スグル達で分かれただけであってバラバラという訳では無い。

 玉座の間を出てすぐの廊下で4人は口を開く。


 「にしても急に外に出て花を取ってこいなんてちょっと早々?意図もよく分からないし」


 小澤はそう言うが、主催した王としては徐々に徐々に行動範囲を広め、最終的には4人で各地を回ってもらいたいのだろう。

 だが、これを完璧に理解しているの者はこの中にはいない。


 「そこを考えてもただただ疲れるだけだろう。ピクニックとして楽しもうではないか」


 と、大原は能天気なことをぬかす。

 だが、別にこの捉え方も間違ってはない。むしろ言い渡した方も同じような考えの可能性だってある。

 そこから何も脈略もなく、


 「そういや鈴宮、お前"あれ"は大丈夫なのか?」


と、片方の手の甲を指で示す。

 鈴宮の方もその意味を分かっており、簡単な返答をする。


 「えぇ。バッチリよ」


 スグルの目を見て答える。

 そして、そのままスグルの目を見たまま、より鋭い目突きで、


 「……竜嶺も大丈夫なの?」


 優しい声で問いかけられる。

 

 「?」


 だが、質問の意味が伝わってなかったため当のスグルは訳の分からない顔をしている。そうなっている内は問題はないのであろう。

 その様子を見て鈴宮も自らの質問が愚問であることを自覚する。


 「いいや、何でもないわよ。ほらチンタラしてないでさっさと歩く」


 一歩前を踏み出し駆け足となる。


 「あ、待ってくださいよ〜」


 そこに小澤も加わり、


 「なんだ?競争か?」


 大原も腹から声を出して応じる。


 「……楽しいな」


 フニィ、と力の抜けた笑みを浮かべながら最後尾を飾る。




 25分後、王とカトルスへ挨拶を済ませ、王城の正門を、真ん中の道を歩きながら4人は進んでいく。

 男性陣の腰には武器が携えられており、スグルは切腹ができるぐらいの長さの短剣、大原と小澤はそれぞれ大きい斧と小さい斧。鈴宮はぷらーんとされてはいるが、何も殺生から離れるためではなく別の役割があるからだ。

 

 「えぇっと、王都をまず出て西に進んだところにあの花があるみたい」


 そう言いながらスグルは地図上の王城の直径と、王城から花の群生地までの距離を指で測りながら苦い顔を浮かべる。


 「まあでも今日一日中使って行くわけだし、持久走5回分ぐらいの距離くらいどうってことないわよ」


 落ち着いた様子で答えた鈴宮。


 「持久走5回分!?それ往復で十数キロあるじゃないですか」


 これから起こることに声を震わせながら冷や汗をかき始める小澤。


 「なぁに時間を測るわけでもないのだから心配することなぞ何一つないぞ」


 ボンバンッ、と小澤の背を叩く大原。


 「そんなに大変なのですか?距離を間違えてしまったなら申し訳ございません」


 そう言いながらアワアワとした様子を見せる王。王……?


 「「「「え?」」」」


 一斉に振り返る4人。

 目に入るのは5分前別れの言葉を投げた王。しかも着ているローブの一部が何故か盛り上がっている。

 全員顎が外れたかと思うぐらい口をあんぐりとさせており、驚かすつもりはなかった王自身もビックリしている。

 そんな中、開いた口を何とかもとに戻しながらスグルが問いを投げかける。

 

 「国王陛下、なんでここにいるんですか?」


 加えて、『どうやって私達に気づかれないままついてきたんですか』と問いただしたいところだが、前の問いの方が重要なのと、もっと面倒くさくなるのでやめておいた。


 「"貴方"にこれを渡したくてですね」


 そう言いながら、中身の入った鳥籠を差し出してきた。

 その中身というのは、


 「金の卵?」


 プレゼントの意図が何かより先にそのインパクトが先に来る。

 ダチョウの卵かってぐらい大きな金の卵。

 あまりにも異様なその様相に、誰もこの中にただのヒヨコが入っているだなんて思わない。


 「これは400年前からこの国に代々伝わっているものでしてね、この国にとって必要な時に、これが必要な者に返すことになっているんですよ」


 「『返す』って、私は別に貸し出したわけでもありませんよ。そもそも400年前に生きてるわけもありませんし……」


 「それはそうです。これは400年前の"英雄"から預かったものですから」


 つまり、『英雄』……または勇者から預かったなら勇者に返すのが道理なのだ、と言いたいのである。

 あるいは時を超えて、国王から預けたものを返されたのではなく国王を通じて"託された"という表現のほうが正しいのかもしれない。

 王は鳥籠とその中身を差し出しながら、


 「どうぞお納めください。これは貴方が持つべきものなのです。この平和な世でもね」


 そう言い終わった後にそそくさと自分の城へと戻る王。恐らくは激務の公務のため。

 それと同時に、400年前ものの卵を手渡された一行。もしかしたら無精卵かも、なんて不安を抱える。もしかしたら、誰かしらからの因縁プレゼントかも。

 そんな事がふと浮かんできても深く考える暇もなく鳥籠を片腕全体で支えようとする。が、脊椎で反応するような刺激がスグルを襲う。


 「重ぉぉぉぉ……っ!!……まさかこれメッキとかじゃなくて純金か?それにしても重すぎるくらいに重いけど」

 

 何故この様に重いのか。

 体全体ではなく、腕だけで持ったからそう感じるからか。それともこの金の卵の中にはオスミウムでも入っているのだろうか。もしくは金の重みではなく人の重みか。

 

 「俺も持つ、俺にだって背負わせろ。それに気になる」


 そう言いながら大原が鳥籠の底面半分を持ってくれる。

 身長差が目分量で易しく測れるくらいのためスグルの腕が十数何十センチか上がる。

 直後に腕の負担が元の5分の1程度となる。その原因の究明に特に特別な言葉を使う必要はない。


 「水臭いわよ、私も入れなさい。ほらそこ、開けた開けた」


 「そうですよ!2人でやるより4人のほうが楽ですよ。僕だって持ちます」


 大器晩成型と誤魔化すのには少々危機感を覚えたほうがいい年齢の小澤の身体には少々荷が重いようで、両腕がピンと伸びている。


 「「「「………」」」」


 沈黙が滑走しているが別に気まずさの空気などは一切ない。

 ただ、自分らの今の体勢を客観視してみると馬鹿みたいな体系をしている。似たようなものにお神輿があるが、人数も背負う神輿の派手さにおいても全てが安価チープである。


 「ねぇ、これいつまでやるの?」


 「さあね。でもこれ、誰かが手を外したらその瞬間にバランス崩れちゃうわよ」


 何人か顔が固まる。鈴宮の言葉の意味を察したからだ。

 だが、その意味を否定したい、否定しなきゃマズイといった感情で無駄な聞き返しをする。


「それってつまり……?」


 スグルの額からポタポタ汗が流れ出す。冷えた汗が流れ出す。


 「しばらくこのまま、ってことよ」


 フゥォ……、という空気の通過音が2音。しかし、どちらも悲哀に満ちている。その持ち主の1人はスグルと、もう1人は現在120%体を伸ばして支えている小澤である。

 加えて、これから自分の身がどうなるかを覚悟した顔が一つ、一切何も考えてない顔が一つ。

 何はともあれこうするしかないからこうする。

 彼らの頭の中はこれが占めている。



 時は経ち、身を焦がす程の西日の差し込む畦道。出発したのが昼下がりぐらいのためもう2,3時間ぐらい歩いている。当然同じ体勢だ。

 

 「あァァ〜〜!なんでこんな陽射し強いのよぉ……空気がクリアなんだから気温もクリアであるべきであるべきじゃない?」


 そんな鈴宮の言葉遣いに片眉を傾けるスグル。


 「クリアであるからこそのこの暑さなんだよ。大気に色々と混ざっている現代の方がむしろ陽射しは優しいんだよ」


 だとしても中世温暖期なんじゃないか、と額に浮かんだ汗を拭いながら疑う。

 だが、そんな思考を毟り取る様に、耳と脳が情報を処理をする。


 「そういえばずっと気になっていたんですけど、魑凰さんは今頃どうしてるんですかね?ほら、急にいなくなっちゃったし遭難でもしてたらと考えたら……」


 そんなこと、この場の誰も知り得ないため単なる雑談の話題となっている。

 話題の彼を普段下の名前で呼んでいるため、苗字で呼ばれることに若干の違和感のあるスグル。だが、下の名前で呼ぶ理由なんてちょっと小難しいため、その若干の違和感は障害へと成り得ない。


 「う〜〜ん、アイツは少々ガキっぽいところがあるからな。迷子になっててもおかしくはないけど」


 実際はそんなことはないとは思っている。ないと思いたい。

 

 「随分と甘いこと言うわね………今頃誰かの腹の中かもしれないわよ」

 

 秒速340mのナイフが4人を突き刺す。放った側が一番深く傷を負う全身ナイフ。

 負った傷が一瞬でズキズキと全身を痛めつける。そして更に負おうとする阿呆は此処にはいない。


 「ごめん」


 「いやいい」


 二言だけだがそれが最良。

 冗談だとしても、平静の保たれなくなった中身となる結果は変わらない。

 だからこそ、冗談として消化する必要があるのだ。消化するしかない。

 パンッ!と手を叩いた後に口を開くスグル。この行動にどんな意味があるのかは想像に容易い。

 

 「……そういえばだけど鈴宮、もうあの遺物レリックってのはもう大丈夫なの?」


 「え?」


 キョトン、と口を空ける鈴宮。

 一瞬で空気感と台詞の重みが変わったことに困惑しているのだ。さっきの話題はスグルにとっても別に気持ちのいいものではないはずなのにだ。

 スグルは調子を維持しながら、


 「ほら、レリックが発現してから時間経ってんじゃん?前みたい倒れたりしないか心配でさ」


 「え……えぇ、もう前みたいなことにはならないわよ。はいこれ」


 多少ぎこちなく片腕を差し出す。次の瞬間、手の甲に光る紋様が浮き出て、またそこから光の粒子が出現し形成される。


 「はえ~〜、すっごいです!」


 「すごいな!俺もいつか同じやつ欲しくなってきたぞ」


 そう言いながら、小澤も大原も感嘆する。その目は浪漫を感じているかのようにキラキラしている。


 「ふふ〜ん、すごいでしょう、すごいでしょう!あんたらもいつか出せるようになったらいいわね」


 右手に握られているのは、いい感じの木の枝くらいの長さの杖。先端あたりには2枚の翼や、、ツタのような蛇のような装飾が施されている。

 異形ともとれるその見た目に対して、その持ち主はルンルンと軽い様子。

 少し元気が湧いてきた一行の様子をまじまじと見て、ホッとするスグル。


 「ん?もしかしてあそこじゃないですか?」


 そう指を指した先は、畑が廃れた後かのように枯れ草枯れ木に溢れかえる荒地。だが、その枯れ草達の間から、色の源流のような橙色がこの場所からも見えてくる。

 待ってましたと言わざるを得ないくらいの駆け足に移り変える。

  

 「確かにあの花の色と同じだ。こんなとこに生えてくるもんなんだな」


 とスグルが首を傾げる。

 それに大原が当たり前のように、


 「花によっては荒地でも芽は出す。なんなら、泥沼の中から生えてくる花だってあるぞ」


 へ〜〜という顔をしながら感心する3人。

 その中でスグルだけ大原の台詞に当たりに行く。


 「それって"蓮"のこと?」


 『泥中の蓮』という言葉の通り、蓮は清らかな水の中だけではなく泥沼でも花を咲かせるという意外な一面があるのだ。むしろ、汚れた泥沼の方がより大きな花を咲かせるのだ。

 なぜこんな事を知っているかというと、彼の、花を名前に持つ親友から教えてもらったのだ。


 「よく知ってるな!竜嶺"も"花屋に生まれたのか?」


 「いいや、普通のサラリーマンと主婦の間だよ……………って、え?」


 なぜこんな事を知っているかというと、彼の、花を名前に持つ親友から教えてもらったのだ。

 と、それと同時に聞き捨てならないことを聞いてしまった。身体が硬直してしまうくらいに。

 それは他2人も同じで信じられないものを観る目をしている。

 

 「た、……確かに何でそんな知識があるのって気になってたけど……まさか花屋の息子とは思いもしないわよ」


 「ギャップ萌えのギャップっていうのはデカすぎると唖然とするしかないんでスよ」


 と、そうこうしている内に枯れ草に囲まれた花畑に着いた。

 花畑を覗き込む。

 そうしてみると、改めて花について気づくことがある。


 「これマリーゴールドだよね?お城で見た時薄々思ってたけど」


 「あっ、ホントだ。この世界にもあるものなのね」


 これ摘むときはどうやってやるんだ?と言わんばかりに花屋の男を見つめるスグル。 


 「まだ生きている花は摘んだことはないが……これを……こうだな!!」


 声のハリ具合に比べてその手つきは随分と優しいものであった。

 茎のしっかりとした部分を選び、軽く捻じった。そうすると茎がまるで自分から折られにいったかのように切断された。刺激が少ないよう、花を自然な方向になるようにして折ったのだとしたらミケランジェロや運慶とも近しい哲学を感じる。


 「よし!後は帰るだけだな!!」


 と、元気に言い放つ。 

 が、同時に、


 「痛った!!??」


 という張ったこれが響く。

 あまり自分にできることがなく手持ち無沙汰になっていた小澤は、そこら辺の枯れ草をサワサワと触っていた。そして、乾いた植物の繊維により指先を少し深く切ってしまったのだ。

 だが、瞬時に自分のナプキンで患部を圧迫することでどうにかして止血を試みている。それに反して、その血は段々とナプキンを、ピンク、そして赤へと局所的に染めていく。

 しかし、これ以上広がることはなかった。


 「まったく、何やってんのよ。ほら手出して」


 そう言いながら鈴宮は左手で小澤の患部を、右手で杖を持つ。もちろん彼女の遺物である。


 「いや〜すいません。手寂しくて」


 「何よ、手寂しいって。怪我するんだったらもうちょっとマトモな理由で負いなさいよ。直してあげるから」


 その台詞とともに小澤の手の傷がみるみる内に回復していく。

 これが彼女の権能。遺物の力。ではあるのだが、もう一つこの現象の要因がある。

 まず、スグル達転生者はあの女神から"スキル"なるものを得ている。

 彼女のそれは、『再生ヒーリング』。

 ありきたりではあるが、彼女自身の資質である『遺物レリック』と噛み合うのだ。

 もちろん、他三人も同じような神から与えられし異能の力を持っている。が、別に今使えるものではない。

 少なくともスグルの『意思疎通コミュニケイト』は動物がいないと機能しない。

 動物といえば、とスグルは、いつの間にか重さに慣れて片手で持てるようになった鳥籠の中の卵を見る。


 「そういえば、これマジでなんの卵なんだろ。鳥にしてはデカいけど」


 確かに、と三人も共感する。そして各々考えを出す。


 「爬虫類……トカゲとか?」


 「う〜む、鷹や鷲もいいと思うぞ!」


 「あえてのカモノハシでしょ♪」


 「いや竜だ」


 4つの声を脳裏に響かせ、個人的にダチョウと予想していたスグルは考えを巡らせる。

 だが、そんなことは、今すぐ押しくら饅頭でもして暖を取らない限り分からない。

 ということで、


 「さてさて、さて、帰ろうか」


 大原が自分の懐のポケットに摘んだ花をしまったのを確認し、出発する。

 辺りは真っ黒、すっかり日は沈んでいる。

 今からなら、元の世界の補導時間ギリギリぐらいまでには到着するだろう。

 数時間前までいた城、帰るべき場所は、『王城』のためもちろん王都にある。言わずもがな賑やかな王都は夜もあまり変わらず、十数キロメートル離れたこの場でもその賑やかな光は平然と届いていく。

 

 「あ〜〜〜……また何キロも歩かなきゃですよ………今日は野宿しません?」


 「ダメよ。夜は吸血鬼の時間なんだから。今のろくに戦う力もない私たちじゃ最悪死ぬ…………あんたも体感したんじゃないの?」


 実際正論ではある。

 熊が頻繁に出る山で野宿しようと言っているようなものである。

 幸い、そこまで人里を離れているわけではないのでうろちょろしているかどうかといえばしていない、リスクは低いと言ったところだ。

 だが、彼らはここ1週間努力してきた。血のにじむ程ではないが肺が引き釣り出されるような思いはしてきた。


 「……確かにそうです。今にでも帰った方がいいですね」 

 

 だからって別に努力の結晶の出力方向を間違えるほど阿呆ではない。

 スタスタと三番目としてついていこうとする。が、四番目の欠番にすぐ気づいた。同じように一、二番目もなんとなく気配で気づく。


 「どうしたの?」


 そうして目をやると、少し離れたところに流れる小川付近で手を伸ばしている。

 

 「オォ゙ォ!!よし!取れたぞ!!!!」


 大原の手に握られているのは、紫色の小さい花を複数つけた植物、タイムである。


 「おい、竜嶺。これ……を…………や………」


 ガサゴソガサゴソ。

 ガサゴソガサゴソガサゴソ。

 ガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソ。

 ガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソ。

 ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ。

 全ては枯れ草同士が互いにこすり合っている音である。

 全員の動きが止まっている。別に金縛りとかファンタジーでもない。ただ単なる"恐怖"。それが彼らを押さえつける。

 枯れ草が擦れる音を恐れているのではない。その音が段々と早く、近くへなっていることに対してではない。

 このような出来事が前にもあったからである。そして、その出来事は彼らにとっても悪夢そのもの。

 ガサガサガサガサ、サクッ。

 一番近くの低木が切り開かれる音。

 その音が脳内を切り刻むと同時に、不快感が襲う。まち針で全身の毛穴一個一個を刺されていくような、そんな不快感。


 低木から出てきたのは、綺麗な格好を着た長髪の男性であった。

 貴族のような青いジャケットを含んだ宮廷服。

 服装だけなら高貴さを感じるがそれをぶち壊す顔の薄暗さ。

 整えられてない髭に長いこと誰の手にも触れなかったであろう髪。この2つが印象を相殺どころかマイナスまで持っていっている。

 そして、スグル達にはこの顔に見覚えがあった。あの時と少し見た目は変わってはいるが記憶の底へ落としたくても落とせないくらいにこびりついている。


 「ここらへんに居ろ、とのご命令で待っておりましたがやはりあの方に従って正解でしたね。おかげで花の匂いを辿って、"食べ残し"にありつけました。感謝をせねばなりません」


 足を綺麗に立たせ腕を組んで、まるで騎士のような態度の独り言。

 直後、口角"だけ"を89.9999………度になるまで曲げ、こう告げる。


 「1()()()ぶりで・す・ねェ゙」


 「ぉ……お。、……お前かァァァァァァァァァァァァァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!!!!!」 

 

 

 

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