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お前らとならば

 同時刻、王城にて。

 

 「大丈夫ですかねぇ〜、今頃は帰りの道中でしょうけど」


 まだ全体の形が見えてないままの月に反射する日光が王を一部分だけ照らす。

 心配を混じらせておきながらもさほどの危機感は持っていない。

 そんな王の心構えを身に受ける者も当然いる。


 「王都も近い場所ですし吸血鬼はあまり出はしませんよ。もちろん、わざわざ"手引きしたりしなければ"の話ですがね」


 へなへなとしながらも強く、鋭い目突きで奥を見る。

 

 「ですが、例え遭遇したとしても一通りの対処は教えたのでしょう?ならばそこまで杞憂の域を出ることはありませんか……」


 それは期待しすぎでもなく、嘘偽りのない真っ当な評価であった。実際それなりに彼らは努力をしてきている。

 だから、スグル達に何かあっても障害へとは成り得ない。そう、王、もといベルーカ"は"感じていた。

 ただし、彼は例外イリーガルを想定してはいなかった。温室育ちの『人間』の発想の域を出ない。

 

 「例の『遺物レリック』持ちは順当に成長してますし、『勇者スグル』だって鍛えられてる。それ以外の2人ももそこそこ筋もいい……」


 続けて、少し間を空けながら言う


 「それに、何事も上手くいかないから人の生涯ってものは面白いんです……まあ、あいつらなら大丈夫ですよ」 


 指南役は自信を持って言う。自分の教えと教えられた生徒に圧倒的な自信と愛着があるからだ。

 だから、今スグル達に対面しているものは試練ということになっている。


 

 

 戻って、スグル達の居る荒地。

 

 「1,2,3,しー……おや、一匹足りないですね。おかしいな。あの夜聞いたのは5人分の逃げ足だったんですが……」


 「………、」


 口を動かすのは目の前の男だけ。

 その相手は黙ったまま。黙ることしかできない。

 

 「もう少し肩を下ろしていいんですよ?私は別に礼儀作法を気にしませんし」


 妙な敬語や、まるでこちらを尊重しているかのような姿勢があの王を思い出させる。

 だが、少し深くあの王のことを知ったスグルには決定的な違いがわかる。


 「……五月蝿ぇ」


 享楽的、かつ刹那的。

 芯がなく、思うがままにしたいこと楽しいことをする、おめでたい生き方。

 いや、それ自体が悪いかと言われたら首をしっかり縦には振れない。

 スグルの憤る部分はもっと小さい。

 単純な恨み。

 だが、それを口に出すのはその本人ではない。


 「おっと、危ないじゃないですか」


 狼男と対面するスグルの後ろから黒鉄の塊がストレートとまではいかない軌道を描きながら、目の前の敵へと向かっていく。

 敵はそれを軽く躱して、こちらをまじまじと見る。


 「斧……ですか。しかも小さい。小ぶりな肉には丁度いいじゃないですか」


 そんな煽りには耳を貸さず、塞いで、彼は小さい口を開く。

 斧と共に投げたのは小澤。そこに一切の容赦はなかった。


 「お前のせいで、お前せいで!!………いっぱい人が死んだ!苦しんでいる人ができた!!」


 声と口調を荒げて言った、精一杯の文句。

 しかし、言われている側の良心は、それで揺れるほど大きくもないし薄くもない。そもそも、あるのかすら疑問である。


 「人聞きが悪いじゃないですか。私はただ腹が空いたから拾い食いをしただけ……まあでも、おかげで最ッ高の美食にありつけましたがね」


 奴がスグル達に今向かってきている理由が当人達にも想像ができた。

 推定中世の時代と現代では生活基準が段違い。そして、良いお肉は良い餌を食らって味を形成していく。

 だから、この狼男にとっては棚から牡丹餅どころかホールケーキが落ちてきたのである。

 そして、良い食べ物はもう一度食べたくなるというのが世の常。

 

 「だぁ〜〜かぁ〜〜らァ、今晩も美味しいお肉のためェ、無駄な抵抗はよしてくださいよォ!」


 直後、奴の足元の枯れ草が後ろへ蹴り飛ばされる。

 その光景しか、小澤には見えていなかった。

 だが、別の者にははっきりと見えていた。

 一瞬の間に全身が黒く硬い毛で覆われ、その腕の先、足の関節がバキバキと音を立てて変わっていく様子を。

 手先の爪は人間と比べて長く、鋭く。足の関節は110度程の角度ができるよう折れ曲がる。

 その構造上から発せられる瞬発的な力で獲物へと向かい、本来自身の身体を守るために神が作り給うた長い爪で肉を裂く。

 しかし、そんな凄惨な状況は作り出されることはなかった。代わりに、振り降ろされた狼爪による質のいい金属音が響く。

 火花が舞い散る。

 

 「………困りましたねぇ。まさか、この1週間程度で殺し合いの素養を身につけるとは……」


 そんな言葉とは裏腹に、驚嘆の声色と表情を見せる。だが、あくまでも野鹿がしぶとく逃げ回ることへのものとほぼほぼ同一。

 だが、野鹿の方はそうはいかない。

 その眼は強く堅く、揺るぎない。


 「こっちは、二度とあんな目には会いたくねぇんだ。ここでお前をぶっ倒して俺たちは帰る!……そうだろ?"スグル"」


 小澤の前へと出たのは大原。その手には、小澤のものと対照的な大きな斧が握られており、それが狼男と力を押し合っている。

 それを見ていた、呼びかけられたスグル。

 頭は躊躇う。足は震える。心は躊躇する。

 だが、奥底は正反対。


 「全く、次から次へと……大人しくしていれば楽に締めてあげたものを」


 大原(仲間)の呼びかけが突き動かす、腰に携えられた小刀。

 そして、一瞬で鞘から抜かれる。そこに何の迷いもない。 

 身体が、心が、本能が、反抗の意志を表明した。それは、狼男の胴、特に胃や肝臓に突き刺さった。


 「あぁ、当たり前だ。帰ろう。帰ってまた美味しいご飯食べたり、訓練しよう……!ここで誰も傷つかないで!!」


 強い言葉が腹から出る。まるでこの状況がスグルに喝を入れに来たような感覚があるくらいに。

 その言葉と同時に、再び狼男に向かって鉄塊が投げつけられる。しかし、既のところで命中はしない。


 「僕も同じです!お前になんか美味しい思いはさせません」


 と、1本の斧を手に持ちながら、もう片方の手で狼男を指差す。

 そんな素振りを目にし、敵は目を細め、睨みを利かせる。その先ははたして、自分に反抗する者たちへのものかそれとも肉に対してか。


 「はぁ〜〜ア、何事も上手くいかないから人生は面白い、なんてこと聞きますけど、いざって自分がその状況になると、笑えなくなりますよ」


 そのセリフが終わらない内に、2つの斧が振り下ろされる。

 だが、それが奴の身に届くことはなかった。

 

 「なっ……、こいつ、よくッ……!」


 「手で受け止めるだなんて……!」


 と、大原と小澤は若干青ざめる。

 両腕で彼らの斧を、まるで白刃取りのように指の腹と指の腹で挟んでいる。

 しかし、この体勢はすぐに崩れる。

 狼男が体を上下させ、大原と小澤のバランスを崩そうとする。これは目論見通りに作用した。

 そうなると、得物が視界の面積を占めるのと突然の出来事で2人に死角と隙が生まれる。

 それを当然捕食者は逃さない。

 

 「まずは一品」


 堅く、硬い黒爪が大原の空いた脇腹を襲う。今度はちゃんと何も邪魔が入ることなく、狼男に肉を裂く感触と血が滴る。

 だが、しかし明らかな違和感が同時に襲ってくる。

 

 「硬い………キチンと手応えはありますし、血だって出てる。なのにこれ以上は爪が入らない………まだ焼いてもないんですがね……」


 もちろんこれは素で大原が耐えているわけではない。

 スグル達、俗に言う"転生者"というやつはこの世界に来た時全員大小何かしらの力を貰っている。

 スグルだったら動物とお話ができるという『意思疎通コミュニケイト』、鈴宮だったら、元の素質である『遺物レリック』の効果と合わせて他人の回復ができるというもの。ここには居ないがレンだって『拘束バインド』という力を手にしている。

 大原も小澤ももちろん例外ではない。


 「筋肉密度……?とやらをなんか強くする。それが俺の力だな。よくわからんが」


 理論上では、筋肉である程度なら刃物での攻撃を耐えることができる。

 今起こっているのはそれと同じこと。

 人知を超えた力で肉体性能を高め、理論を実践とする。神の権能と言っても過言ではない。

 力の名を『怪力ギフテッド』。

 この耐久性は筋肉由来のため、当然攻撃性だって上昇する。


 「フンッ!!」


 空気が裂け、それに伴い、ブォン!という力強い轟音が響く。

 狼男の爪を身に食い込ませながら、頭部を切り落とすか砕くためめいいっぱい、顔が丸々隠れるぐらいの大きさの斧を横に振る。

 

 「これはこれは面白い力だ……もし当たったら私でも危なかったで・す・ねエ゙ェ゙!!」


 自信へと襲う大斧を膝を曲げることでセンチ単位で回避する。

 次の瞬間、大原の腹を裂こうとしていた狼男の右手が離れる。そして、手の形をパーからグーに変える。

 

 「ウゥ゙ヴォオ゙ォ゙!!?」


 その手が大原の腹……特にみぞおち辺りにめり込む。同時に聞いたこともない断末魔が上がる。


 「さっきよりかは柔らかい……つまりは制限時間があるんですよね?それに斬撃ではなく打撃ならと思いましたがアタリでしたねぇ」


 すかさず2発目を打ち込もうとする。

 が、それを甘んじて周りの者が受け入れるわけがない。

 再び斧が振られる。しかし今度は小さめの。

 

 「チッ……せっかくのところを。鬱陶しいので貴方・か・らァ!!」


 進行形で大原に触れている手とは反対の、左手の標的を小澤に定める。それは、あ、とも言わせずに降りかかる。

 今度は狙いも順調、 それに回避行動も防御行動も取っていない。これ幸いにと更に力強く振り下ろす。

 だが、その手は別に小澤の意識外にあったわけではなかった。

 

 「あれ?空振った……先程までそこにいたのに……何故でしょう」


 避けられたわけじゃない。手が届かなかったわけじゃない。どこにも獲物がいないのだ。

 自分の生物的な長所である鼻を使って探知しようとするが更に混乱させられる。匂いだけはあるのだ。

 辺りをキョロキョロと見回す。しかし、目に映るのは三人だけ。

 また同じ位置を見回すと瞳に映る光景に変化が起こった。

 だが、それは小澤の出現ではない。

 

 「ッ____!?一体………?」


 捉えたのは自身の顔と数センチ距離の小斧。このままだと次の場面では顔面に突き刺さる。

 そう思い、身体を無様と言えるほど仰け反らせ回避する。

 この斧を投げたのは小澤である。

 そして、彼は狼男のすぐそばにいた。いや、今の彼にとってはまあまあな距離である。

 

 「よぉ〜〜し!当たったぁ〜」


 彼は今草むらの中に立っている。雑草を踏んづけて立っているのではなく、その"中"に立っているのだ。

 小澤の授かった力は、一言で言えば、自分自身を小さくするというものである。

 力の名を『小福ミニマム』。

 体だけではなく、そこに付随する衣服や武器も力の対象である。

 加えて、小さくなった状態で、同じく小さくなったものが手から離れた場合、それは元の大きさに戻る。

 今の現象も同じこと。

 草の根に紛れながら狼男へ投げた斧が元のサイズに戻りながら、運動を続けていったのだ。

 そして、もう一人もただ突っ立ってるだけではない。


 「ほら、しっかりしなさい。直ってきたでしょ?」


 小澤とは少し離れたところで鈴宮は大原の傷を診ていた。

 手には日曜朝に出てきそうな若干ファンシーな杖、もしくはステッキが握られている。

 それを、大原が狼男につけられた腹の傷に当てる。するとみるみる内に垂れてた血が引き、患部の様子もほかの肌と遜色ない。治すというより時間を巻き戻していると感じさせるくらいに完璧な仕上がり。若干青かった顔も健康的な薄橙色である。


 「む〜〜、あれが例の『遺物レリック』持ち………回復役は厄介ですし、まずはアレからですかね」

 

 これで、スグル達の手札はもう全部見せた。

 それを狼男も分かっており、狙いの順番を付ける。まるで和食の御膳を品定めするかのように。前菜に副菜、それに主菜。どれが誰だか見る見る内に頭の中が創り変わっていく。

 そして、次の場面には箸を手に持つ。


 「危ないですッ!避けてください!!」


 鈴宮と狼男の距離は、大原を避難させておいたため、約20m程。

 しかしそれでは大した精神安定剤にはならない。そんな距離で得られるのは良くて小数点以下秒の猶予。

 それで行動できるほど彼らは成熟していない。

 だけど、


 「な、……なんだ!?足が……」


 「そうなるよな……そうするよな………そうするしかないよなァ!!?………」


 事前に構えていれば何とか対応ができる、本当に"何とか"ではあるが。そのせいなのか少し気力が尻すぼみになっている。

 構えた短剣の狙いははなから決まっていた。


 「足の腱……これまた随分と狙いにくく大事なところを……」 

  

 アキレス腱。この器官は足の、歩・走・跳を支える役割を持つ。つまりはそこに何か問題があると万全な歩行機能が失われるということ。

 現に狼男の切られた片膝は地面とキスをしている。

 だがもっと驚くべきは、一瞬の間にアキレス腱を狙い、刃渡り30センチ程の短剣で斬りつけたのだ。

 もちろん、彼の指南役はそんな技術は教えていない。なんなら、この短剣を握って1週間も経ってないのだ。

 これを、才能や天才肌という言葉で言い表すのは少々歪だ。しかし、この歪さは現実の物。

 

 だから選んだ。選ばれた。

 

 そんな物が自分の中にあるとは露知らず、スグルは一言。


 「今だ」


 緊張と恐怖と闘志と後悔と希望と絶望。これが今のスグルの中身だ。これらは節々から漏れ出ていく。

 これを感じないほど周りは阿呆じゃない。それに、周りも同じようなものである。一人じゃない。


「フゥゥッン!!!!」


 現在片足の自由が利かなくなっている狼男が目に焼き付ける、大斧を降りかざす大男。

 だが、狼男も使えないのは四分の一だけ。

 瞬時に目の色を切り替える。


 「片足が使えない、だから何も出来ないと?それが問題になる、害になるとでもォ?甘い甘い甘い甘い甘いでェ゙・すゥ゙・よォ゙」


 両手で刃を受け止める。ただし、なんとか。

 ただ、さっきまで殴られて吐きそうになっていた男の一撃。長期的に見れば勝ちの目は狼男の方にある。

 ならばどうする?

 答えは大原のなかで出ている。しかし、自分からはアクションを起こさない。 


 「ッぅ゙ぅ゙ゥ゙_________!!?」


 狼男の伸ばした手に小斧が、乾燥しパサパサとした体毛と肉に覆われた腸に短剣が、突き刺さる。

 同時に、痛みに対する悶え苦しむ声や目前の現象へと驚きの感情が表に出てくる。もしくは混じった怒気、憤慨。

 しかしそれはスグル達も同じ。

 質も重さも違うが同じモノを持った両者たちが激突する。

 だけどもお膳立ては万端。

 仲間の刃が道を創った。


 「ハァ……ハァ…これでぇぇ!!!…………」


 今までに見せたことのない、出せないくらいの剛力が大斧を振るう。どうしても苦しさを隠せてないまま。

 今度はちゃんと届いた。直撃。

 だが、一刀両断とはいかなかった。


 「ンん゙ん゙ン゙ン゙_______!!!!!!」


 と、自分で自分を小馬鹿にするような汚い踏ん張り声を上げる。抉れた地面の様子からその内心が垣間見える。

 両者の力は大体五分。

 このままでは状況は硬直したままとなる。

 そうなると一つ懸念点が出てくる。

 まず先に思い至ったのは対面している狼男。


 「(この塊肉の力はそこまで長くは持たない……ならば、張り合って、効果時間が切れるのを待つのが得策……!)」


 今の光景を見て、同じことを考えたのは他にも一人。


 「(まずいな……大原は今全快じゃないし、次第にバテる。それに……)」


 スグルである。

 場面が見えている今の状況、最初に出てくる感想はこの状況に対する焦りや危機感ではあるが、同時にやるせなさも感じる。大原に大きな役割を押し付けてしまっていることに対する力不足の実感。

 とはいえ、体躯的にも、神からの異能の力の内容的にも大原が攻撃役をやる事は別に不自然ではない。むしろ合理的でもある。

 だからこそ。

 だからこそ嫌だ。

 実のところスグル、小澤、鈴宮、大原。この4人は同じ学校で同じ学級であるものの特に大した関係ではなかった。各々友人知人は居たためボッチな1人は極少数。

 それがこの1週間で数時間道中をずっとおしゃべりしたり、殺し合いで身を委ね合って連携したり、同じ釜の飯を食ったりするほど仲を深めていった。つまりは対等な友達。 


 「……………グズがッ」

 

 そう、"対等"なのだ。

 それなのに、見ていることしかできない、見ていることが最善な自分の無力さと意気地無しさに歯噛みする。歯髄か悲鳴を上げるほどに。

 だからこそ。

 "だからこそ"。


 「ブッ、……フぅ、ゥ!?何が起こって……」


 狼男の身体が大きく傾く。

 原因は何か。理由は至って単純。


 「いっけぇぇぇーー!!!!」

 

 体重65キロ身長174センチの全力の体当たり。他に力のリソースを割く余裕が無いなら体勢を崩すことに関しては有効打となる。

 致命的な隙が生まれる。

 『狼男』が瓦解する。



 「終わりだぁぁァァァァァァァ゙ァ゙!!!!!」



 大斧の刃が真に肉に到達する。

 そのまま狼男は数メートル十数メートル吹っ飛ばされた。折れちゃいけない骨が確実に折れる音を着地音として地面と激突する。

 ただ、中身が漏れて出いるなんて手っ取り早いことは無かった。

 斧を持って数日程度の技術と体力不足も合わさり、綺麗に両断どころか深い切傷も与えられていない。これでは斬撃ではなく打撃だ。

 狼男は動かない。

 因縁は終わった。


 「これで……やっと……終わったんですね~…………なんか、忘れているような……」


 「そうね、帰ったらちゃんとした墓でも建ててあげましょ、約40人分の。ほら、大原、竜嶺。あんたら怪我してるんでしょ?診せなさいよ」


 「ありがとう……さあ!早く帰って飯にするぞ!おかげでペコペコだ!!」


 「そうだね、その通りだ。ようやくお………」


 スグルの言葉が遮られる。極めて長く大きな音にだ。

 以下はその音の内容である。


 ミシ……ゴリッ……ボキッギチ……ギチギチッ……ゴリ、ズリュッ、メキメキメキッ! バキィッ! ガチッゴゴゴ……メキ……グチャ、ベキベキッ、ボキィッ! ズシンベキメキッ、ズズ……ズリュ……ギィィ……ボリボリ、ボキボキィッズズッ、ギュリ、ガチリパキィィッ、ピキッ、ベキッカチッ、カチカチ、バキバキッ!ドクッ、グチュ、ズブブ……ミシミシッ……パキパキ、ピキィッ! ギュルル……。

  

 これら全ては生物の身体の中で奏でられた重奏音である。

 加えて、スグルの、スグルだけの脳に声が響いた。


 まだだ、まだ終わっていない。ここから。ここからが剪定。


 前にも同じような感覚がスグルに走った。だがそれをすぐに思い出せる程便利な頭じゃない。むしろ、頭が拒否しているような気もする。

 

 「な、何だ、これ………どうゆうことだ……?それに、誰だ………」


 聞いたこともない声。よく分からない内容の語り。

 『まだ終わっていない』。この意味をキチンと考える。

 そして、考えつくのは口にするのも憚れる残酷な仮説。

 

 「ぁぁ゙ァ゙〜……〜ァ゙、肉どもがッ。いいなぁァ?羨ましいなぁ゙?俺も食いてぇなァ゙あ゙、うまい肉、美味いにく、ウマイニク……」


 仮説は事実となる。よりによって最悪なタイミングで。最悪な心持ちで。


 まだ、まだ終わっていない。





 

 

 



 

 


 

 

 

 



 



 




   

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