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#98 過去に遡った話

 深い森の中、鳥のさえずりと風の音。木の葉の隙間から、日の光が覗く。

 ここはどこ、と周りを見渡す。すぐ近くに、金髪の少年が丸まって寝ていた。何とも絵になる。

 えっと、どうしてここにいるんだっけ。

 ぱちっと、金髪の少年、ダリアが目を覚まし、元気に起き上がった。何かを急いでいるようだ。


「他のみんなは······?」


 きょろきょろと彼は周りを見る。俺以外誰もいないのを確認して、申し訳なさそうにした。しかし少し嬉しそうである。

 他のみんなが一緒に来なくて良かった、という安堵だろう。


「悪い。一つ聞いていい?」

「はい、ああ違う。うん」

「俺の魂って本当に全部戻った?」

「? はい」


 嘘だろ。全部あるのか。うーん、そうか。

 急に泣きたくなってきた。


「オーディンの記憶、全部なくなった」

「え? はい?」


 怪訝な顔をして、ダリアは聞き返す。仕方ないのでもう一回言ったが、そういうことじゃないと怒られた。

 オーディンの記憶があったことは覚えてる、クロードのことも。でも、その、オーディンだった頃の記憶が綺麗さっぱりないのだ。

 ダリア曰く、魂は全部戻ってきたし、俺もそれは感じている。なのに逆に記憶がなくなった。

 このままこの場にいるのも何なので、少し移動しながら色々しよう。

 出している翼を使って、ダリアを連れて空を飛ぶ。


「ごめんね、時を渡る時に魔力を全部使っちゃって」


 やはりここは過去らしい。ダリアから俺の魂が取られて、混ざりもののない妖精になってしまったから、噂に則って過去に来てしまった。

 ダリアの魔力が全て使われてしまったということは、相当の過去である。もしかして人類がまだいなかったりして、いやないか。


「お? やあ、オーディン······? あれ、違うな。君、誰?」


 下から急に声をかけられた。気さくそうだが、俺を見て不思議に思っている。魂が認識できる人間なんて、凄い奴だな。

 そういえば、オーディンの時の知識はそのまんまだな。記憶はないけど。

 仲良くできそうなので、俺は一回その人の前に降りた。


「こんにちは。オーディン、さんとはお知り合いですか?」

「おうよ、親友だな。お前、オーディンの魂持ってるけど、何があったんだ?」


 親友、確かいた気がする。あっ、そうそう。カーティリスの王族がこの人の子孫じゃないかと疑っていたんだ。

 こいつは多分信用できる。申し訳ないが、利用させてもらう。


「実は······」


 かくかくしかじか。オーディンではないと言ってから、簡単に彼に説明した。


「へぇ、じゃあ帰れるまで身寄りがないんだ」

「そうなんです」


 てくてくてくてく。どこに向かって歩いているのか知らないが、男は話をしながら歩いていく。

 ダリアはただついて行くだけになっており、つまらなそうにしていた。随分余裕そうだ。


「あ、いい忘れた。俺はシグルド。旅人だ。今からお前らをオーディンに預けるが、いいか?」

「勿論いいですよ。あ、俺はウリア。こっちはダリアです」


 今更だけど、俺ってコミュニケーション能力あったんだな。すっかりコミュ障だと思ってたよ、自分のこと。

 オーディンに預けるって、大丈夫かな。変な人体実験とか、しないかな。俺なんだけど。

 ダリアがずっと静かだと思ったら、こくりこくりと歩きながら睡魔に犯されていた。魔力もないし、疲れたのだろう。俺は彼を抱きかかえてシグルドについて行く。

 妖精って魔力の塊だから、魔力が少ない時は軽いんだよねー。

 急に森が開ける。芝生が太陽を反射して、輝いていた。真ん中には先のない扉が聳えていて、門番が二人、槍を持って立っていた。


「いよーっす。元気? オーディンのところに通してほしいんだけどさぁ······」


 シグルドが門番の肩を掴み、笑顔で話しかける。その笑顔にはどこか圧があるのだが、門番は動じず固まったままだった。

 門から、見覚えのある顔が出てきた。クロードだ。若い。


「シグルド殿。主から面倒だから通せと仰せつかっております。こちらへ」


 クロードが転移魔法陣を広げる。彼はとても不機嫌そうだが、俺達を見た瞬間に驚きの表情へと変わった。

 案内されたのはヴァルハラの中の一室。質素だが、だからこその品があって落ち着く。

 クロードが熱々の紅茶を置いて退室。暫く待たされる暗示だろうかと、部屋の中心にある長椅子にシグルドと座る。

 ダリアはゆっくり寝かせてやろうと、横にさせた。膝枕をするのは不本意だが、スペース的にそうなる。太もも硬くてごめん。

 紅茶も丁度いいくらいの温度になった頃、オーディンとクロードがやってきた。ノックもなかったので、シグルドとは親しい仲だったんだな。

 クロードはオーディンの分のお茶を置いて、再度部屋を出ていった。

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