#93 妖精の国に行った話
翌日、俺は妖精の国に訪れた。勿論、グングニル召喚が目的である。
真正面から入ると非常に騒ぎになるのが予想されるため、転移魔法で直接俺の住処に訪れた。
住処······それはまあ、アレだ。妖精の国って、中心にパルテノン神殿の中にコロッセオが入ったような、そういう建造物が存在してるんだけど、それの最上階。
ちなみに、そのコロッセオの中に世界樹の妖精ユグドラシルが生えている。そんなわけで、その建造物は全てのフロアがドーナツ型なのだ。
一人で行動するとクロードがうるさいので、ダリアを連れて来た。それでもきっとクロードはくどくどお小言を言ってくるんだろうな。
俺の部屋はやっぱり片付いていない。まあ、王になっても自由に行動してたし、片付けられると腹立つし。下手に片付けられないのは理解したけど、ホコリが溜まっていないのは転生を確信してたってことかな。
「すごい······ごちゃごちゃしてるね」
ダリアがそう言う。はっきりしててとてもいいと思うの。でもね、いちいち思ったことを口に出さなくてもいいと思うの。
ダリアは王子から脱却し、その仮面を投げ捨てたようで、よく喋るしよく動く。これを見ると、今までどれだけ我慢してたのかがわかるな。
「簡潔に終わらせて帰るぞ。妖精王の帰還となれば、世界規模で騒がれるからな」
もう騒がれてるかもしれないけど、とは言わないでおく。そう、マリーとこの国に来た時だ。あれは結局帰って来なかったってなるけど、今回はしっかり記憶まで宿して帰ってきちゃってるからな。
神槍グングニル。かつての友が俺のために作らせた、とりあえずすごい槍。実は変幻自在で、槍だと握りやすいからっていうのが槍にしてる理由。当時、武器っていうのは剣と槍くらいしかなかったんだよね。
オーディンが死んだ時、簡単には開けない収納魔法でグングニルを封印した。危険すぎて下手に放っておけないのだ。
しかも武器のくせに魔力量が多くて、急に人の前に出すと死ぬし。だから妖精の国を包む結界に魔力を流して有効活用している。
「魔法障壁で全身を包んでおけ。妖精でもダメージ大きいからな」
「? わかった」
俺が注意すると、ダリアが疑問の表情を浮かべた。しかし言われた通りに魔法障壁をいくつか発動して、全身を守った。
まあ、その疑問もすぐ晴れるよ。結界を維持する魔力にしているとはいえ、それでも余るんだから。
俺は魔法陣を部屋の床に浮かべた。魔力を流し始めた瞬間、魔法陣は光を発し、中心から槍の先が覗き始める。
槍の矛先、柄と続いて現れ、とんでもない魔力に押されそうになる。幸いなのが、俺が弱い聖なる魔力ではなかったということだな。
俺は魔法陣の中心に立ち、グングニルを握る。全て現れた後、魔法陣は消えていった。
はー、危ねえ。両目とも失明するところだった。右目までやられたら、復讐できないからな。
「ぐッ、もう、無理······」
ダリアの魔法障壁には、細かくヒビが入っている。大きなヒビがないのを見ると、壊れないように大分頑張ったんだな。粘り強くて良いことである。
グングニルはたまった魔力が暴走しかけていた。ここで俺の出番である。
角や翼は高密度の魔力である。それをわざとずっと作って、無駄に魔力を消費する。魔族の血が入っているからこそできることなのだ。
オーディンが半魔であるという事実が知られているのは、角と翼を四六時中隠しているわけではなかったからなのだ。
ファルカスが背中に穴が空いた服を二着も持ってて助かった。どこに売ってたのかは知らんが、非常に助かったな。
「さて、帰るか。どうやら外が騒がしくなってきたし」
「え、もう? まあ確かに、長居しても良くないよね」
ざわざわと、興奮と焦りの声が外から聞こえる。やっぱり、グングニルが強烈すぎてわかっちゃうよね。急いで転移魔法でヴェルディに戻り、ダリアと二人で安心する。
セーフ。まだ妖精王の帰還は先延ばしにできた。もう王としてのしがらみに駆られたくないのだ。せめて子供がいれば良かったんだけど、世襲制も良くないところあるし、相手がいないし。
どうにかして、欲のままに生きていける人生を送りたいものだ。




