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#91 視察をした話

「ファルカスの婚約者、ラーファ・ステラです。よろしくお願いします!」


 ラーファ元気良く、かつ歯切れ良く。特にファルカスの婚約者を強調してぺこりと一礼。何とも可愛らしい挨拶だ。

 座るラーファとすれ違うように、ファリナが立ち上がる。やっぱ美少女だよなーとか思いながら、俺は挨拶しなくていいだろとパンをかじる。


「ファリナ・カーティリスと申しますわ。お見知りおきを」


 スカートの裾を持ち上げ、一礼。ふわりと花が咲いたように整っていて、一番品がある。やっぱりこいつもかわいいから、メロメロになってる奴が何人もいる。ラーファよりは女性が多めだな。

 もしゃもしゃと俺はパンを食べている。そしてじーっと周りからの視線。気づいた頃には視線が冷ややかになっていた。

 え? 俺もするの?

 仕方なく立ち上がる。


「ファルカスの護衛の、ウリアです。よろしくお願いします」


 領民からの反応はない。さっきとは打って変わって、無反応。まあね、やっぱり顔なんだわ。別に残念じゃないもん。ルッキズム反対派だもん。

 俺と入れ違ってアルタイルが立ち上がった。こっちも盛り上がりがあった。ファルカスに比べるとやっぱる反応は薄いが、こっちはこっちで良きって感じかな。


「ファリナ様の護衛、アルタイルです。耳を見ればわかると思いますが、ハーフエルフです。よろしくお願いします」


 領民たちが声を聞いた途端、女性たちがアルタイルに釘付けになった。

 ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ、くそぅ。声も顔もいい。違うし、大事なのは中身だし。とか言ってる時点で中身が良くないんだよ、くそおおおおお!

 駄目だ、こいつらといると心が醜くなっていく。


 昼食を終えた後は、引き継ぎをして視察だ。領地は割と広い。しかしそのほとんどが広大な農地であるため、領民の人口は少ない。

 王都に近く、出荷が楽ちんだから農作物が主な特産品だ。言うなれば、近郊農業ってやつ。新鮮なままの良質な野菜や果物が収入源。

 馬車でぐるっと一周するには数日かかる。なので、俺達は魔法で飛んでいくことにした。そしたら時短だしいちいち馬車を降りる必要もないので効率がいい。

 周りの領地とは木の柵があるし、そこに沿って行くことにした。遠くの住民とも仲良くしておきたい。

 村が点在していて、これは税を納めにくくするためらしい。姑息というか何というか。

 領主の城から出発して、ファルカスと俺だけで一周。魔法が使えるようになってからは楽で楽で仕方がない。


「ウリアは翼あるでしょ? 魔法使わなくてもいいんじゃない」

「服を破るわけにも――――だから何でそんな用意周到なんだよ!」


 ファルカスは魔法を使って飛ぼうとしたタイミングで止めてきた。地味にこの瞬間が腹立つんだよなーとか悠長に考えてたら、背中の部分だけ穴が空いた服をファルカスが取り出してきた。

 一枚上手っていうの、これ。予想に反して散財してたっぽくて笑える。

 こっそりその穴のある服に着替え、翼だけ解放する。ストレッチした時くらい気持ちがいい。


「せーので行くからね」

「フェイントすんなって」

「いくよ? せーの、で行くからね!」


 こいつ······。んもう、先に行くところだった! 魔法を使うよりスピード出やすいんだよ、翼は!

 やっと本命のせーのを聞き、タイミングを合わせて空に駆け出す。迷子にならないように手を繋いで、まずは真西に向かう。

 ずっと真西に行くと、地図が間違っていなければセントリア王国との国境まで行けるハズだ。国境の先は俺が本来いるべき場所ってわけでもないが、機会があれば訪れようと思う。

 国境は北から西に山脈があるはずだ······数分飛んだだけで見えてきた。飛ぶのが速いだけで、それなりに距離はある。


「んー、見た感じ流通業って感じ? セントリアと王都を繋ぐ中継地点でもあるのか。でも中心地はそれを通っていないから······遷都も視野に入れるべきかな」


 下を見ながら、ファルカスは小さいメモ帳に今彼が言った通りのことを書き留めていく。その間にもゆっくりだが進んでいるので、彼は何気なくスゴ技を披露していた。

 やべ、全然見てなかった、とは間違っても口には出せない。飛ぶのが気持ちよすぎて見るのを忘れていた。まあ、いつものことだ。

 壁に来た。南に行くか北に行くか、迷う間もなくファルカスが左に飛び出した。つまりは南である。

 せめて何か一つでも言ってほしかったよね、とは口に出さない。いつもこうだから。ちょっと速く飛んで前を進んでいた彼に追いつく。今度は手を繋がず、ペースも合ってきた。

 南側はまさに地中海沿岸。こっちは野菜類ではなく、樹木の栽培が多く見られた。特にぶどうとオリーブ。中心部よりも栄えていた。


「ふむふむ、南側は農業。流通に問題がありそうだね」


 彼の言っていることは正しそうだ。南側は独立している印象を受けた。セントリアと王都間の道のりまで少し遠い。税もこれじゃあ取りづらいし、経済的格差も中心地とある。

 南側を通り過ぎ、次は王都に近い東側だ。

 なるべく低空飛行で飛んでいると、馬に乗った聖騎士を見かけた。荷物いっぱいで大変そうである。


「あれぇ! ユリウスさんじゃないですか」


 急ブレーキ。そのまま先を急ごうとした俺がファルカスに引っ張られるようにして隣に立つ。

 げぇ! 俺さあ、気づいても言わずにスルーしようとしたのに、どうして声かけちゃうかな。ファルカスもこいつに対して悪印象を持ってる筈なのに、よく気さくに話せるよな。


「こんにちは。視察ですか?」

「はい、まずは領主として領民の生活に触れようと思って」


 お互いににこにこし合って、朗らかな雰囲気を作り出している、ように見える。その本質は俺を挟んで繰り広げられる、鋭い視線の交差だった。

 ひえっ、という情けない声が出そうになったのは内緒である。しかし本当に圧迫感と緊張感がレベルMAXで、そそくさと逃げ出した気分もレベルMAXだった。


「ユリウスさんはこちらに何の用事で?」

「異動になってしまって、その途中です」


 聖騎士に異動とかあるんだ。へえー、レイガルドがいなくて良かったよ。

 ユリウスは俺の姿を見るなり、目をぱちくりさせた。そういえば翼を出しているんだった。でも彼、俺が魔族と人のハーフだって気づいてたでしょ。

 俺がファルカスに早く行こうと促す。すると彼は頷き、少し先に行った俺の方に来た。ユリウスも再び進み始めた。やっぱり妙な大荷物だ。

 すごいな、目が合わなくなった途端に笑顔から無表情に変わった。まるで仮面のようだ。

 東側は王都に近いから、こちらもなかなかに栄えていた。王都へ繋ぐ道に沿って街ができていて、天の川ですと言わんばかり。しかし王都に比べると人口は少ない。

 北側はほぼ山脈。人は住んでいない。この山脈は多分アルプスなんだけど、そのアルプスには魔物や魔獣がうじゃうじゃ住んでいた。これは人の住める地ではない。


「北側から来る魔物の対策も考えないといけないね。それじゃあ帰ろうか」


 視察終了。実にアッサリと終わってしまった。だが成果としてはコッテリ。実のある視察だったな。ほとんど俺は何もしてないけど。

 一周して、そのまま中心地に戻る。もうすっかり日は暮れていた。翼をしまい、城に入ると一番に言い合いの声が聞こえてきた。片方はアルタイルである。

 言い合い、というか説得? もう片方も負けじと声を張り、わがままな子供のような態度である。いや、実際に子供じゃないか、コレ。しかも聞き覚えのある······え、違和感ビシビシに感じるんだけど。


「ついて行くとウリアさんに伝えたハズです! それに僕、元気です!」

「そういう問題じゃないんですよ······。一国の王子たるお方が身勝手に行動されては困ります!」


 やっぱりかー。城のホールにて、その場にいるのは三人のみ。アルタイル、ユリウス、そしてウリア・セントリア。

 ついて行きたいとほざいていたのはクロードから聞いたけど、まさか実行に移すとは誰も思わないよね。

 ホールをドアの隙間から覗いていたが、まず最初に気づいたのはユリウス。ちらっとこちらを見てにこにこ······にやにやを一つ。それに気づいたアルタイルもこっちを見てきた。

 やべ、バレたと思い逃走体勢を取るも、アルタイルに首根っこを掴まれてホールに引きずり出された。そして小さなドアの隙間の奥で、手を振るファルカスの姿を捉えた。


「何だか久しぶりですね、ウリアさん! 見てください、僕元気になりました!」


 エネルギーが溢れかえる程にピンピンしている王子とは正反対に、アルタイルは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。俺はその様子を見て哀れみを感じる。


「もう来ちゃったんです。働くのでここで住まわせてください!」


 妖精とは不思議な種族である。定義としては種族ではなく、魔法と同じ現象である筈なのに、種族である。噂だけで生きることができるし、知名度で力が決まる。

 クロードが有能すぎたのか、それとも彼がおかしかったのか······。噂が広まるとすぐに元気になったな。


『ユグドラシルに確認したところ、ウリア・セントリアの残り半分の魂は存在しておらず、弱っていたところに魂が砕かれたのだと推測されます。なので、妖精の国と人間の国どちらにも噂を流し込みました』

『流石クロードだな。ありがとう』

『――――ッ!? 勿体なきお言葉です、うへへへ』


 こいつこんなにキモかったっけ? という疑問を置いて、俺はユリウスに近づく。本当は近づきたくないのだが、声を張り上げたくもない。

 妙に大きい荷物を運んでいたと思ったら、人を運んでいたとは思わなかったよ。


「お前、何か言うことあるだろ」

「だって······だってぇ、お願い聞いてくれなかったらウリアに言うよって――――」


 なるほど、そういうことか。足元を見るって、こういうことを示すのかなと思う。もう手遅れだけど、俺に嫌われたくないユリウスと、俺と友達の王子だったら、ユリウスが弱者になるのは容易に想像がつく。


「言い訳はいい。お前はさっさと教会に行け。速く」


 弱々しい声でユリウスが返事をすると、明らかに少ない荷物を持ってホールを出ていった。ガン飛ばしたら歩く速さが上がった。

 さて、次はウリア王子の方だ。まずは場所を変える。用意された俺の部屋だ。やっと一人で寝れるよ。

 二週間は放置されていたはずなのだが、ピカピカだ。俺達が視察に行っている間、残されたラーファたちが掃除して整えてくれたようである。全力で魔法を駆使しているので、全て洗浄済みの完璧な清潔状態だ。


 アルタイルには休むように言って、王子と俺だけの空間を作り出す。そこでクロードの登場だ。呼べばいつでもそこにいるから、ちょっと怖いんだよねぇ。


「お茶の用意しますね」

「ああ、頼む」


 ピリついた俺の感情を読み取ったのか、クロードは転移魔法でどこかに行った。この城の中じゃないので、遠くまでお茶をいれに行ったようである。

 丁度いいところにソファとベッドがあったので、王子と向かい合って座る。

 ウリア王子は俺と目を合わせようとしない。肝心のその表情はガチガチで冷や汗をかき、焦りと緊張をそのまま顔に貼ったような顔だった。

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