#90 炊き出しをした話
城についた。中は目の眩むほど贅沢品だらけ。代官と引き継ぎをするのは昼飯のあととなった。
炊き出し。まあ、俺には関係のないことだ。食べる専門だし? 俺が料理したら、ご想像にお任せって感じだし?
ファルカスが持ってきたのは、パンと野菜と肉。まあそれくらいしか食べ物ってないけどね。
調味料は高いから使えない。しかし城にいっぱいあったからそれを頂戴した。塩もあったし、それなりのものができるだろう。
「ちなみにさ、この中で料理ができる人ってどれくらいいる?」
「ラーファできます!」
「俺、無理」
「私も無理よ」
「僕も······」
ああ、終わった。ラーファしかいねぇ。ファルカスは自信無さげ。だけど一応こいつはできるんだよな。調理実習でやったし。
ラーファとファルカス、まあいいんじゃね。いけるいける。俺は何もできないけど。
「大きい鍋とかあったらいいんだけど······」
「俺持ってきたよ」
そして何故か知らんけど準備がいいファルカス。前から言ってたしな。
木を適当に持ってきて、焚き火用と鍋を吊るす用を用意する。火をつけて暫く温めて、その間に材料をカット。
スムーズに進んでいるが、鍋に入れるの大変だなーとか思いながら、俺は大きな別の木を持ってきて、魔法で削って皿を作る。
焚き火の火の調節も俺の役目だ。魔力操作が得意じゃないから絶対無理だが、火力だけはあったからそれを頼りに少しずつ魔力をぶち込む。
アルタイルは水を持ってきて鍋に入れている。ファリナは見学だ。
暫くして、少しずついい匂いがしてきた。質素極まりない料理だが、それでも美味しそうだ。
そういえばヴェルディに来てからご飯の匂いがなかった。ひもじい思いをさせるのはダメだな。
「みなさーん! ご飯一緒にどうですかー!!」
耳もはち切れそうな大声でファルカスが町に向かって叫ぶ。俺は火を止め、皿をファルカスとラーファに渡す。
よりによってスープだ。液体状なのでお椀を作らなければならなかったから難しかった。パンを乗せるやつはないが、不便ではないだろう。
小さい子どもがそろりと近づいてきた。おどおどした様子だが、スープの匂いによだれを垂らしている。
「はい、どうぞ」
ファルカスがパンと一緒にお椀を手渡すと、嬉しそうに受け取った。母親を呼びに何処かへかけて行った。
ぞろぞろと人々は近づいてくる。彼らはみんな最初は怯えた様子でも、ファルカスとラーファのスマイルでメロメロだ。
予想はしていたが、やはりこうなる。くそ、顔がいいとはまさにこういうこと。
皿作りを急ぐ。返却はいらないから、個々人の財産にしても構わないと伝えてある。ラーファの笑顔を見てから、家宝にすると言い出すおっさんまで出現した。
「えへへ、大袈裟ですよ」
「いえいえ、きっとあなたは、神が我らに向かわせた天使なのでしょう」
神って言ってるし、こいつはジェルグリッド教じゃねぇな。そしてラーファさんや、にへにへするな。そういう気持ちの悪い連中は後回しでいいんだ。
まあ、困ったわけでもないのだしいいけど。
そのおっさんにファルカスも微笑みかける。異性はともかく、流石に同性にまで愛のある眼差しはしない――――してるねぇ。一瞬で恋に落ちちゃったねぇ。
とまあ、色々とあるけど実害がないから良しとしよう。大体、ファルカスとラーファの顔面偏差値がカンストしてるのが悪いのだ。
「熱いから気をつけてね」
「はーい!」
子どもが十数人、列を成している。これまで親がぴったり子どもについているのが普通だったが、今回は何やら違う。元から住民は貧しそうだったが、こっちはそれよりも貧しそう。
孤児、そう判断するまでに長い時間はかからなかった。彼らは笑いがぎこちなく、心からの安心をしたことがないような、そういう顔つきだった。
恐らく孤児院という施設はないのだろう。子どもが集まって、何とかやり過ごしてきたってところかな。
この場にいる全員の食事が配り終わったところで、ようやく俺達の昼食だ。
「「いただきます」」
どうしても、日本文化は離れないな。特にこういう挨拶は。家に土足で上がるっていうのにも抵抗あるし。
俺達が食べようとした時、周りからじろじろ見られていることに気づいた。
別にいただきます自体は珍しくもない。だって先人たちがやってたから。何か珍しいことでも?
「あのぅ······もしかして新しい領主様?」
少し小さい声で、一人の女性が近づいて聞いてきた。
あっ、という腑抜けな声がした。ファルカスである。そういえば自己紹介まだでしたね。
「あー、すみません。俺は、今日からここの領主になる、ファルカス・カーティリスです。これからよろしくお願いします!」
ファルカスが立ってお辞儀をした。頭を下げられた領民たちは気まずそうにしている。
その後の領民たちの反応を見る。人によって様々ではあるが、そうと確信してた顔と驚きの顔がほとんどだった。あと、早速惚れた人。しかし初対面が最高だったので、残念そうな人はいなかった。
続いてラーファが立つ。ちょっとむっとしているのは、ファルカスに顔を赤くしている若人がいっぱいいるからだろうか。微笑ましい限りだ。




