#89 ヴェルディに行った話
男子会が終わり、しっかり睡眠をとって、翌日は領地へお引越しだ。国王には既にしっかりファルカス本人が領地を治めると伝えてあるそうなので、中学・高校の教科書を返却後、即出発だ。
領地に行って、落ち着いたら妖精の国に戻る予定だ。今の俺の体でも魂が同じだから妖精の国にフリーパスで入れる。まだオーディンが妖精王ってことになってるらしいが、俺としては退位も視野に入れて考えたいところだな。
国王が馬車を用意してくれた。急だしその他理由が色々あって見送りもなく、王城を出ると王都の人々が笑顔で送り出してくれた。民には人気だからね、ファルカスは。
「本当に良かったの、ファリナまでついてきて」
「いいのよ、アルタイルだっているじゃない。それに、お母様をいたぶることもできてスッキリしたし」
予想外だったのが、ファリナまでついてきたことだ。ラーファは心配そうだが、嬉しそうにしているのは隠せていない。
お母様をいたぶる······。悪い顔をしているな、ファリナ。でも本当に晴れ渡った表情だ。
馬車内にはラーファとファリナ、そしてファルカスと俺だけ。アルタイルは馬を引く御者の隣にいる。
『オーディ、ウリア様。ウリア・セントリアがご一緒したいと······』
『休めと伝えておけ』
クロードから魔力に言葉を乗せた、まあアレだ、テレパシーのようなものができるやつ。それが来た。
一緒に行きたいだと? おいおい、寝言は寝て言え。体力も気力も落ちている状態で馬車はキツイでしょ。
クロードはこき使ってもいい気がするから、ウリア王子の監視にも使いたい。それと、妖精なんだから噂を広めないと。
『解析が終わりました。ウリア・セントリアの時の妖精の魂は、粉々に潰されていました。それらを繋ぎ合わせて約半分の魂が作られています』
なるほど。魂を粉々に潰された、というのは魂割りによるものではなさそうだ。彼自身の能力的な問題で、時を渡ると負荷が大きいから、それによるものであるとも考えられる。
しかし時の妖精というものは、精霊みたいにかなり頻繁に出現するものではない。レア中のレア。どれくらいかっていうと、二十個のサイコロでゾロ目を出すくらい。だから、魂が粉々になるまで時を渡ったとは考えにくい。
ヒビくらいなら入るか。それから粉々にして、集めて繋ぎ合わせた人為的なもの? 冗談じゃない。趣味が悪すぎる。
時間的猶予は少ないな。魂を綺麗さっぱり修復するのは無理だし、残り半分はどこにあるかわからない。ましてや粉々にされてしまったのなら、余計に探すのは無謀だ。
仕方ない、あいつを使うか。
『よし、可能なら時の妖精の噂を広めておいてくれ。あと、魂を集めるためにユグドラシルに協力を仰いでくれ』
『御意』
流石にこき使いすぎか? いやでもクロードは最高に優秀だし、これくらいは卒なくこなせるだろ。魔力も多いし、彼の力の源である知識欲は俺がいる限り絶対なくならないし。
こういう探し物がある時は、世界樹の妖精ユグドラシルを利用すると役に立つ。世界を俯瞰して常に見ているので生きる歴史書で生きる新聞だ。クロードより時事に特化した妖精だな。
「見えてきたよ。アレがヴェルディだね」
窓から顔を出し、ファルカスが向こうに指を指してはしゃぐ。ラーファとファリナもどれどれと窓に釘付けになった。
ヴェルディの中心地は山城のようになっていて、頂上は王城に比べると質素で小さい城。形からして城だが、野生感が強め。山の麓に市街地、その周りはのどかな畑だ。
行く途中で痩せ細った領民たちに出会う。物乞いもいれば、死んだ目で畑を耕す者もいる。
何となく予想はできることだが、税が重かったんだろうな。川もある、土もいい、畑はすごくいい。でも、領民の生活水準は低い。これは良くない。領主は処刑で、代官が領主をしていたのだろうが、税はそのままか。
山の麓まで来て、馬車を降りた。山になっているから馬車だと無理らしい。結構山が急だし、魔法が使えるから苦はない。
折角なので歩いていくことになった。馬車の荷物を全部収納魔法にぶち込み、領民を観察する。
俺達は冷たい目で見られていた。支配者階級を信用していないような、そういうものだろうか。俺達を避けるように、領民は道を離れていった。
「あはは、歓迎はされてないみたいだね。さて、まずはお昼にしようか。いっぱい食料を持ってきたんだし」
「そうだね。腹が減っては戦はできぬ、だったっけ?」
「戦はしねぇよ。首が飛ぶ」
いつも通り楽しく冗談を言い合い、軽く笑いが起こる。
懐かしいな。オーディンのときも、こうして笑い合える奴らがいたっけな。あいつら、もう死んでるだろうけど、また会えるといいな。




