#87 パーティーを抜け出した話
ユリウスはもう一口を催促してくるが、俺はまだ自分の分を食べ終わっていない。
本当にあっち行ってろって感じなんだけど、まずは静かな時間を壊されたことに苛立ちを覚えた。
幸い、俺の名前は広まっていないからファルカスを追うやつは来なかったけど、それでもこいつがいるってだけで腸が煮えくり返る。
言っておくけど、こいつは一応復讐の範囲内に入ってるからね。いつか腹切り裂いてやる。
夜風に流されて、錆びた鉄の匂いがした。いや、鉄じゃないなこれ。
「お前、血の匂いする。また人でも殺したか」
「ん? そんな頻繁に人は殺さないよ。ミルトアの時は例外だっただけ」
ユリウスはさっきまで笑顔だったのに、急にすんと笑みが消えた。質問に真っ直ぐ答えていないし怪しさ満点だな。
今その話題を持ってくるのか。ミルトア。もうその名を彼は忘れたと思ってた。
いまだ忘れられない。忘れちゃいけない。復讐は必ず成し遂げる。
いっそ俺も纏めて殺してくれれば良かったのに。
「何でミルトアの人たちを殺した?」
「······? 君が殺されなかったからだよ」
どういう意味だ? 殺されなかった······、だってあの時、俺を殺そうとしたレイガルドを止めたのはユリウスだろ。
俺を殺すためだけにミルトアの住民を全滅させた、と考えるのは自意識過剰がすぎるな。
信じたくない。考えたくない。だけど、心当たりが一つしかない。
俺が殺されなかった、それは二回ある。
一回目、兄姉たちが謎の人々に殺されたやつ。二回目、ミルトアの住民。
どちらも共通しているのは、俺だけ生き残ったこと。
もし、もしもの話、兄姉たちを殺した奴らとレイガルドたちはグルだったら。否定はできない。だけど肯定もしにくい。
あくまで仮定。そう考えておこう。まだ、兄姉たちを殺した奴らの尻尾を掴めていないからな。
「ねえ、復讐なんて考えないで、僕と一緒に幸せに暮らそうよ」
「は? お前どの口が言ってんの? 俺を不幸にしたのお前らだろ」
本当に腹が立つ。加害者意識がないのか? もしかして、俺を生かすことで俺を幸せにできるとでも? ぶち殺すぞ、この野郎。
あー、だんだん眠くなってきた。クロードからの報告を受けられる環境も整えたいし、ファルカスもお疲れの様子。
「ファルカス、もう寝る時間」
「そうだね、今日は凄く疲れたよ。もう戻ろうか」
うとうとしかけていたファルカスを揺すり、バルコニーを後にする。勿論、ユリウスを置いて。
パーティーの途中退室は別に無礼ではない。寧ろ、最後までいる方が珍しい。
謁見の間を出て全速前進。この堅苦しい服もさっさと脱ぎたいし、学校を建設するに当たって調査もしなくては。
まだ夜は完全に更けていない。実はパーティーが始まる前、ラーファに頼み事をしていた。学校から高校までの教科書を全て借りてくるように、と。
それを読んで、俺達の学をつける。そして領地における最高の学校づくりの参考にするっていうことだ。
服のせいで走りにくいため、俺達は早歩きで部屋に戻る。
その途中、ファルカスの兄弟姉妹らしき人物とすれ違った。それはもう酷い顔で、嫉妬と屈辱に乱された顔。顔の作りはいいのに、中身は残念そうだ。
嫌味というか悪口を言っていたが、早歩きだったので全部は聞こえなかった。
部屋に戻ると、ラーファとファリナは既にお休みして、アルタイルが護衛についていた。
明日はもう元リステニア侯爵領にいく予定だ。
ファルカスは侯爵領の領主になったので、地名がミドルネームに入ることになった。えーと、ファルカス・ヴェルディ・カーティリスだっけ。
ちなみに子どもがいてもミドルネームは受け継がれないらしい。貰うのは領主になった時のみだそうだ。
だから、ラーファの実家であるステラ公爵もミドルネームは持ってるけど、ラーファは持ってない。
やっぱりステラ公爵の後継として小公爵に任命され、ラーファと結婚すればファルカス・ヴェルディ・ステラ小公爵、ステラ公爵がファルカスに爵位を譲れば、ファルカス・ヴェルディ・ステラ公爵となる。
大変な話。しかもアレよ、ステラ公爵に権力集中しまくりね。だから今公爵が治めている領地は、彼が爵位を譲ったら全く別の貴族に治められるだろう。
「さてさて、この国の形だけ義務教育はどうなっているのやら」
礼服を脱ぎ捨て、秒で風呂に入ったファルカスが早速教科書を手にする。
形だけって、まあそんなんだけど。結局、孤児院を例外に裕福な家庭しか通えていないのが現状だ。
そのせいで、学習内容も貴族寄り。礼儀とか、庶民には必要ないからな。
「へぇ、やっぱり貴族向けだねぇ。経営学もあるけど、支配者階級以外に使い道はなさそう」
だろうね。授業聞いてても意味あるのかどうかずっと考えて終わってるし。
さて、俺も風呂入るか。




