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#86 パーティーに参加した話

 アリア正妃とリステニア侯爵はもうじき処刑、侯爵の娘に小さいのがいるらしく、今は王城で保護されている。


「ねぇウリア。俺さ、王城暮らし、もうやめようかなって思ってるんだ」

「家出の話?」


 こいつ急にどうした。急に真面目になって、俺はこっそり桜を消した。

 確かに王城暮らしは彼にとって辛いことだろう。具体的には性格の悪い家族たちだな。しかしそもそも、王都っていうのが環境がいいのだ。


「そう。せっかく領主になれるんだし、領主として俺が責任持って治めたい。でも学校は義務。だから考えたんだ。あっちに学校を作ればいいんだって」

「確かに。そしたら俺達の価値観も少しは共有できるかもだし、そうなることで他の転生者も見つかるかもな」


 学校を建てることのメリットは多い。まず高度な人材の育成、そしてその地域の住民が増えることでの活性化。学校があるってだけでもかなり違いが生じる。

 でもその分問題があるのだ。まず質の高い教員・教材の確保、施設費、給食があるならそれも。コストと時間がかかりすぎるのが問題だな。


「確かに確かに! じゃあ決定ね。まずは現地に行くところからだけど、明日にでも行こうと思う。もう二週間も放置気味だし、食材をいっぱい持っていきたいな」


 あれもこれも、あとこれも、どんどんファルカスはアイディアを生み出していく。勿論それは全て住民のためのものであり、彼は楽しそうだった。

 俺は妖精王として妖精の国の治世を数百年行ったことがある。でも結局、俺は王に向いていなかった。理由はいくつか、いや何個もあるが、俺は王らしいことをしていなかった。

 ファルカスのほうが何倍も王に向いている。こんなに真っ直ぐに民のことを考えられて、そしてそれを楽しんでいる。

 素晴らしい、この言葉に尽きる。


「さて、もうそろそろ夜会の準備するか。だるいな」

「もう行かなくていいんじゃない? 他の兄弟姉妹に何かされるってわかりきってるんだから」


 そうだよねぇ、とだらだら部屋に戻る。

 きっとファルカスは将来、立派な人物になるだろう。今ので確信した。俺はそうなる時、彼の側にいられるだろうか。

 俺は魔族と人間の混血、ファルカスは人間。ラーファも。魔族は永遠に近い寿命を持ってたりもするし、混血といえど寿命は長くなる。

  たとえ今が俺の人生における一瞬だとしても、俺は忘れずにいたい。オーディンの時と同じにならないように、な。

 早速だが、レイガルドをどうしようか。まだ復讐は終わっていない。

 記憶を取り戻したことで人格が変わったつもりはない。だが確かに以前より俺は人の心がないかもしれない。

 それも気のせいで終わるといいのだけど。


「――――そして、ウリアにはもっと幸せになってもらうからね!」

「それは凄い楽しみ」


 俺に振り向いたファルカスの笑顔は太陽のように明るく、かつ穏やかで、少しいたずらっぽかった。

 人を殺して復讐を成し遂げた先に、幸せは待っているのだろうか。待っていてほしいな。そうでないと困る。そう信じよう。

 部屋にやっと戻ると、アルタイルがぼうっとしていた。ファリナをラーファが連れ去ってしまったから、やることがないのだろう。


「はっ、そうだ。ファルカス様、もうそろそろ準備を!」

「はい」


 まだ急ぐ時間でもないが、早めに準備を終えておいて損はない。俺も騎士の制服を着る。

 制服は複雑な作りをしていて着方がわからなかった。アルタイルに手伝ってもらってやっとの思いで着れたが、若干緩い上に動きにくかった。

 剣も腰から下げて、これで完成。着てみれば騎士らしく見えるもんだな。

 ファルカスも丁度着終わったみたいだ。こっちは装飾がきらびやかで、キラキラな王子らしさが彼から溢れ出ていた。

 何というか、まだ幼いからそれのあどけなさと彼本来の高貴さを含む美しさが際立っている。ファルカスのアメジストのような瞳とマッチしすぎなくらい美しいし麗しい。

 これは······夜会でモテるわ。大変そうだな。


「行くかー。いいなぁ、ラーファは。行く予定だったのにお義父様の反対で欠席だって」


 お父様も見習ってほしいよね、とファルカスは口を尖らせる。

 あ、そうなの!? え、婚約者も側にいないとか、爆モテ確定じゃん。俺は悪いけどお側にいるだけだから、女衆からは守れないよ。

 夜会の会場、いや謁見の間と言ったほうがいいか。そこで爵位の授与とかも行われる。そのまま立食パーティーというやつをやる予定だ。

 アルタイルは出席する予定だったが、ファリナの護衛という名目で欠席。そのファリナも、まだ体が本調子じゃないからと、不参加である。

 俺とファルカスだけか。しかも聖騎士も参加できるっぽくて、レイガルドとユリウスも参加する可能性がある。

 ユリウスとはちょっと気まずい。勝手に俺が一方的に気まずさを感じてるだけなんだけど。

 謁見の間に行くと、既に多くの貴族が並んでいた。みんなぴしっとしていて、祝杯のパーティーなのに真剣な面持ちである。


「俺の真似してればいいからね」

「了解」


 こそっと耳打ちされた瞬間、貢献者が前に出るよう指示が出された。

 ユリウス、マリーもいる。あとはラーファの父親のステラ公爵、その他知らない人だが、騎士であるのがわかる。

 俺だけ一つ後ろでファルカスの真似事だ。レッドカーペットの上で膝をつき、頭をじっと下げる。きっとこのまま待機だ。

 そこからは殆ど何も覚えていない。何故かというと、レッドカーペットの上に蟻さんがとことこ歩いてきて、そいつをずっと観察していたからだ。

 ぼんやりと一人ひとり名前が呼ばれて褒美を与えられていたというのは覚えている。

 表彰式が終わったあとは、予定通りだ。堅苦しい雰囲気をどこかに置いて、豪華絢爛な食事が運ばれてきた。

 レッドカーペットもいつの間にか仕舞われていて、あっという間に謁見の間はパーティー会場へと変貌していった。

 ワインか何かの入ったグラスを各自渡され、乾杯をした。それは思ったより優雅じゃなかった。


「毒見も護衛の役割なんだけど、でもこれお酒だから飲めないね」

「やっぱり酒か······」


 酒、というのは非常に厄介な飲み物である。前世は勿論、未成年だから飲んでいない。しかしオーディンの時、うっかり酒を口にしたことがある。途端、泥酔。その場に倒れて多くの者を心配させた記憶がある。

 トラウマものだよね。二度と飲まない。


「しっ、護衛は敬語使わないと」

「······はっ、えぇーと、飯を食べます?」


 普段使っている言語、コルーシェ語は敬語がある。日本語より一つの単語に対する敬語は少ないが、似通っている。

 日本語訳するとカジュアルになっちゃうけど、しっかり敬意を示しているのだ。


「食べよ。野次馬が来る前にね」


 時既に遅しだとは思うが、早速ファルカスにお目にかかりたいというご令嬢が多数いる。側室確定なのに、ようやるわ。

 そそくさと逃げ回るようにしてあちこちの食事に手を出す。美味しかったり不味かったり、食事は個性豊かだった。

 たまに令嬢に捕まって挨拶を交わしたりもしたが、トイレに頻繁に行って逃げてたりもした。

 それでもまだついて回る奴がいたので、頭を冷やすという名目で外に出て撒いた。

 バルコニーにいればまだ安心だと、光の当たらない場所でゆっくりケーキを食べているのが今だ。

 上手い。ショートケーキだ。貴重で高価な砂糖が使われているが、甘さ控えめで苺の甘みが際立つ。その苺も、甘すぎず酸味が強い。しかし新鮮な生クリームによくマッチしていた。


「やっと静かに食べれるよ」

「ほんと、厄介極まりないな」


 俺はファルカスの護衛として彼とずっと一緒にいたが、俺にも擦り寄ってくる馬鹿がいた。孤児だと知れば下がっていくだろうが、ファルカスの悪評が広まっても困る。

 仕方なく簡単な挨拶をして流していたのだが、ユリウスが俺にベタベタしてきたせいでさらに馬鹿が増えた。

 俺に何をしてもいい未来はねぇよ。


「あ、いたいた。ウリアー!」


 猫を被らなくなったユリウスは、それはもう凄く厄介者だった。以前の方がよっぽどマシ。うるさいし、俺を見つけたら抱きついてくる。

 弟への愛? 嘘つけ。弟として育っていないのに、愛が育まれるわけないじゃん。

 げ、と声が出そうになった。そして逃走しようとするが、まだショートケーキは食べ終わっていないのだ。

 ショートケーキをゆっくり食べたいという欲求が最優先されるのは当然のことで、不覚ながらユリウスに捕獲されてしまった。


「お前、離せよ。食事中」

「最近まで敬語だったのに······。お兄ちゃん悲しい」


 死ね!

 叫ぼうとした瞬間、何かが口に突っ込まれる。

 甘い、柔らかな口溶け、ほんのりと香る苺の香り、しっとりとしたスポンジ。


「美味しそうにケーキ食べてたから、持ってきたよ。もう一口、あーん」


 こいつアタマオカシイのかな? ファルカスは我関せずと黙々とケーキを食べている。こいつは苺を残す派だった。

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