表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/100

#85 魔法が使えるようになった話

 準備をサボり、トイレから戻ると朝食の準備はすっかりできていた。

 今日は国王がしっかりしたやつを用意させてくれたようだ。暖かくていつもより量が多い。元がかなり少ないだけなんだけどね。


「ファリナ様、ゆぅっくり食べるんですよ」

「勿論わかっているわ。よく噛んで、粉砕して液体になったものを飲み込むわ」


 アレだっけ、飢餓の人がいきなり食事をとるとダメなんだっけ。アルタイルがいて良かった。俺達、多分一般的な知識のほうが魔法の知識より少ないからね。

 朝食も食べ終わったということで――――


「ウリア、角は?」

「隠せたから隠してる。ただの魔力の塊だったから」


 俺がオーディンとしての記憶を持ってたこと、言ったほうがいいか? いや、そしたら俺という人間の認識が変わってよそよそしくなるかも。

 ······やめておこうか。

 ん、ラーファがそわそわしている。緊張? 彼女、記憶がないからファリナとはほぼ別人のようなものか。


「ラーファ、やっぱり思い出せない?」

「······うん。で、でもでも、引っかかる感じがあるから、きっと思い出せるよ」


 記憶の空白、か。ファルカスとしては思い出してほしいし、ラーファもそうなりたいとは思っているだろう。

 ラーファに呪いの痕跡はない。何か手がかりがあれば思い出すだろうけど、既にファルカスができることはしちゃってるからな。


「あら、そういえば婚約者同士だったわね。もう十二歳でしょう、結婚も考えていい年頃じゃない」

「えー、早いよ」


 ファルカスくんや、ラーファを見てご覧よ。お顔真赤だよ。

 ファルカスはさぁ、もうね、ぶっちゃけおじさんだけどさぁ、ラーファはもうそういうお年頃なんだからね。

 いやぁ、若いねぇ。俺も若い頃は······、若い頃はぁー、えっとぉー。若い頃は若くなかったかもしれない。前世は浮いた話の一つもなかったわ。

 十二歳で結婚か。確かにこの世界と時代で考えるとあり得ない話でもないか。だって前世の世界では四歳で結婚とかあった気がするし。


「でも、そうね。ファルカスが領主になるなら、ステラ公爵の跡取りとしての爵位が与えられるわ。小公爵ね」

「そっかー。王位継承権なくなるから嬉しいな」


 ファルカスに爵位、だと。責任重大じゃないかそれ。王位継承権はラーファと婚約した時点でないけど、国の中枢になるのは間違いないじゃん。

 そんな人の、護衛が俺。大丈夫かな、これ。

 この後、こっそりグングニルを呼び出してもいいけど、少しクロードと話がしたい。オーディンが死んだ後、何がどうなったのか。

 彼のことだから呼べば来るだろうけど、ファルカスとラーファにはバレたくない。マリーなら大丈夫そうだけど、いちいち世話になるのも気が引ける。

 今日はいいか。王子のことも考えなきゃだし、八月二十······六? 七? までには一回妖精の国に戻りたい。


「ウリア、何か考えごと?」

「いや、別に?」


 ラーファが目ざとく質問してきたが、ぬるりと躱す。流石に怪しかったか、ラーファもファルカスも、疑わしそうな目で俺を見つめ始めた。

 無理もない。今日、急に角も翼も生えるし、ファリナを解呪したのは俺だって、アルタイルがばらしちゃったし。


「ウリアだったかしら。アレね、嘘が下手ね。もっといい返事があったわ」

「えっ、バレた?」


 厳しいご指摘をいただきました。ウリア王子の話にもあったけど、どうやら俺は本心を隠すのが下手くそらしい。顔に書いてあるのかな、本当に。

 いやぁ、そんなつもりはないし、これまでもずっと上手くやってきた気がするんだけどな。


「で、何かしら」


 どこから話すべきか。オーディンの記憶を持っていることはできるだけ隠したいし、でも隠し事をするのはちょっと罪悪感に駆られる。

 もっと別の、違うことを考えていたってことにしよう。


「折角魔法が使えるようになったし、色々試してみようかなって」

「えっ、やっぱり魔法使えるようになったの!?」


 俺が魔法を使えると知ったラーファが、いそいそと朝の支度を済ませる。そう、いつもの場所へ、レッツゴーなのだ。

 あの、あれ。裏庭と言うべきか、魔境と言うべきか迷うあの場所。魔法の練習によく使われてたので時々俺も行っていたが、最近は行ってないな。

 草木も何もなく、更地。だがラーファの魔力を高濃度で感じる。かなり濃いな。

 ラーファの魔力は爽やかで、春の晴れ渡った風のような、柔らかさと温かさがある。まさに聖女なのだが、半分魔族の俺にはちょっとキツイ。

 多分、魔力を直で浴びたら、俺は病に伏せるだろう。そんな機会、ないとは思うけどね。

 ラーファの魔力とは反対に、俺のは重たくて濃厚、毒の如く有害な魔力だ。ラーファとは本当、正反対だ。だから彼女も、俺の魔力を直で浴びたら、体調崩すと思う。


「実は魔法じゃなくて、魔力そのものを使った実験を最近してたんだけど、凄い発見をしたの!」


 ラーファはいつもの五倍くらい元気だ。目まできらきらと輝いて、まるで好奇心旺盛な子どものようである。子どもなんだけどね。

 魔力そのものを使う、か。興味をそそられるが、それは魔法と違ってイメージを形にできない。人によって魔力も違うし、結果はその人次第になりそうだな。

 ラーファは両手の平を仰向けにして、魔力をその上に集め出した。

 うぷっ、キツイな。何だろう、人の血も流れてるから心地よさも感じるんだけど、それ以上に体が霧になる感覚が鋭くやってくる。症状が軽いからいいものの、距離が近かったら死ぬな。

 ラーファの集めた魔力がやがて形を成してきた。それは花のようで、多分この世界には存在しないもの。


「お花をイメージしたら、こうなるの。ウリアもやってみて」


 これ魔法と関係あるのかどうか。まあそれは置いておき、俺も花のイメージをすればいいのか? 地獄絵図を何となく想像できるんだけど、やってみないことに始まりはない。

 手の平に魔力を収束しながら、そうだな、桜でもイメージするか。匂いまで再現できるか試してみるか。

 俺の魔力は濃いから、圧縮が簡単だ。その分繊細な動きをするのは難しいし、魔法の出力調整もしにくい。だけど魔力そのものだったら、ちょっとはやりやすいみたいだ。


「できた」

「これは、もしかして桜ってやつ? 待って、ファルカス呼んでくるね!」


 ファルカスは既にラーファに桜を語って聞かせていたようだ。ラーファって知識欲が高いから、知らないことがあったらすぐ聞いてくるんだよね。

 ぴゅーん、という表現が最も的確だろうか、ラーファはすっ飛んでいった。ファルカスを連れてくるまで暫く時間かかりそうだな。


「クロード、いるだろ」

「はい」


 うわっ、マジでいた。姿を隠して近くにはいるとは思ったけれど、まさかこんなに側にいたとは。

 いつからいたのかは知らんが、こき使えそうだ。俺の片目が失明したのは半分くらいはこいつのせいだが、許さないというのは違う。俺の臣下であることは間違いないし、俺の片目として働けということだ。

 片膝を地面につけて跪く彼は嬉しさと緊張を隠せていなかった。


「何かご用で?」

「ウリア王子の元の魂は弱った妖精と言っていた。何の妖精か知りたい。頼めるか」

「仰せのままに」


 霧になるように、クロードはふっと姿を消した。彼は叡智の妖精だ。全てわからなくても、何かわかることはあるだろう。それに、普通にクロードはそういう魂や魔力を見る目に優れている。

 それにしてもあいつ、俺がオーディンだとわかってた? 魂が戻ってきてたからわかるか。

 あ、ファルカス。それとラーファ。思ったよりこの桜の維持が大変だから、さっさとしてほしいものだ。


「桜だ! え、懐かしすぎるんだけど!」


 ファルカスが息を切らしている。道のりが結構あるからね。

 ラーファは何故か誇らしげだ。彼女はファリナをおんぶしていた。ファリナは興味深そうに顔を近づけて桜を見ている。


「そうだ、ラーファ。ついでに地下牢に行きたいわ。お母様の顔を蹴り上げてやるのよ」

「それいいね、すぐ行こう!」

「「良くない!」」


 ファリナが意地悪そうな笑みを浮かべ、反対にラーファは明るくぱっと笑う。

 ファルカスと俺のツッコミは見事にハモったが、行動力の塊であるラーファは既に小指の爪程度の大きさだった。

 元気でかなりよろしい。しかし考えて行動しようね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ