#84 ファリナが目覚めた話
ファリナはそろりと立ち上がろうとする。しかし六年寝たきりだったのだ。立てずに尻もちをつき、壁を伝ってベッドに座った。
うわぁ、美少女だぁ。何か、神聖な感じする。あのババアと似たように見えないのは、きっとババアが化粧バッチバチだったからなんだろう。
「ちょっと、説明してくれないかしら。私、五歳の頃からぼんやりなのよ」
念のため聞くけど、この人今さっき起きたばかりだよね。しかも五年、いや六年近く呪いにかかってたよ?
元気というか何というか。でもはっきりしてていいね、うん。
「ファルカスと、ラーファよね。あと······、ファルカスの護衛で間違いないかしら」
「うん。ちなみに俺の護衛はウリア」
とりあえず会釈しといた。失礼だとか何だとか言わない辺り、ファルカスの出汁出てるわ。
アルタイルを知ってたのは意外だが、いつの間にか彼は消えている。国王に伝えに行ったのだろう。
「あのババアは? 公開処刑でもされた?」
「いやぁ、まだ、と言うべきか······」
公開はされないけど、処刑はされるよね。
ファルカスの言葉を聞いて、ファリナは驚いていた。本当だとは思わなかったのだろう。
暫く経って、国王陛下のお成りである。寝間着姿のままである。思ったより朝が遅い国王陛下。
「あら、お父様。元気そうで安心したわ」
「肝が座っているのは変わりなくてお父さん安心したぞ」
ん?
「目覚めて良かったなぁ、ファリナ」
んん?
いや、俺の気のせいじゃなければなんだけど、何かデレデレじゃない? その、威厳? 威圧感? 一切なくなってるよねぇ?
あれ、もしかして娘には弱いお父さん!? ファルカスには別にそんなんじゃなかったのに!? えっ、えっ······。
俺には改める必要があるようだ、国王に対する認識を。
アレだもんね、うん。あくまでお父さんだもんね、うん。
「その薄気味悪い表情、何度もやめてと言ったでしょ。まさか忘れたの? お酒を摂取すると脳が縮むって言うわよね」
多分それファルカスの知識! おいファルカス、何教えてんの? しかも陛下に厳しく叱ってる!
対して国王はといえば、しゅんとしている。お酒を摂取したのは多分本当のことなんだろうな。
アルタイルは陛下を引きずって戻しに行った。ただの報告だったのに何か来たって感じか。
かくかくしかじか。ファリナには色々なことを説明した。これまであったことをさらっとだけど。
ファリナはファルカスが転生者だということを知っているらしく(一応ラーファも知っている)、話が早くて助かった。
「えぇ!? じゃあ、アナタ領主になるの!?」
「そうなんだよねぇ······。俺には荷が重くて」
大丈夫、ファルカスならきっとできる。ただちょっぴり責任が増えるだけだから。きっと。
ファリナは多分、かなり聡明なんだと思う。理解力が高すぎるし、話から大体先のことを予想して全て当てていた。
学習面での遅れが心配だったが、大丈夫そうだな。
「私も行けないかしら、そこ。どうせここにいても、性格の悪い兄姉しかいないもの」
次は元リステニア侯爵領に行きたいと。国王は許すだろうけど、でも俺達は王城暮らしのままだからな。
腹が鳴った。あ、俺じゃないよ? 誰かの腹の虫だ。
失礼ながらファリナだな、これは。六年近く飲まず食わず、ってわけでもないけど、大したもの食べてないからな。
アルタイルも戻ってきたところで、朝食の準備だ。
いつもは朝に冷めた食事が運ばれてくる。これも顔も見たことないファルカスの兄姉たちの嫌がらせだ。腐ってないだけマシだし、魔法を上手く使えば暖かくなるから黙認してやっている。
そもそも、家族として認められていないからファルカスが自室で食べるしかないのだ。今日のパーティーだって、何されるかわからない。
しかし、今日は午前中ヒマだ。読みたい本はこの頃ないし、オーディンの相棒、グングニルでも呼び出してみるか。あー、魔導書でもいいか。
いや、王子と話をすべきか。まだまだ知りたいことがあるし、彼の妖精の魂について調査しに行きたい。
そういえば翼確認してないな。
ささっとトイレに駆け込み、服を脱いで背中を触る。
やっぱりか。小さくて使い道がないが、確かに背中には翼が生えていた。でもこれ、隠せちゃうんです。
ふんっ、うぐぐ、うんんんっ、ふぅ。いわば、イメージが大事ってことよね。ちょっと角は失敗したが、翼は仕舞えた。
体の中に隠してるというか、この翼や角はもともと魔力の塊なのだ。実態をなくした、とでも言うべきだろう。いつでもオンオフ切り替えられるので、便利。
角もやりたい。ふぅっ、んんぐぐ、ふんっ。ふぅ、できたな。
さて、あ、普通にトイレ。




