#83 角が生えた話
目を丸くしたアルタイルを置いて、転移魔法でウリア王子のいる場所へ飛んだ。
朝早くから、彼は本を読んでいた。多分、もう体はぼろぼろで動けないから、本を読むくらいしかできないんだと思う。
「待ってましたよ、ウリアさん」
あっ、これも気づかれていたか。もしかして来ると確信して早起きしちゃった感じ?
夜明けが少しずつ訪れ、小さく光が窓へと舞い込んでくる。
ウリア王子が俺の心を読めるのは、きっと魂が繋がってしまったから、か。え、じゃあ最初に握手したときからずっと心読まれてるのか。
ぱたん、と本を閉じて、ウリア王子は昨日より元気のなさそうな顔をした。
「妖精の方の魂は、もう無理ですよ。ウリアさんも、妖精のでき方は知ってるでしょ」
「はい」
確か、噂や伝承に魔力が籠ってできるんだよな。でも現象に近いらしいから、種族的ではないみたいだけど。
「もう僕の魂はダメなんです。人々に忘れ去られて、弱る一方ですから」
なるほど。せめて噂や伝承がわかれば良かったんだけど、残念ながらわからなそうだな。
妖精についての文献資料は少ないし、今から噂や伝承を広めるにしても無理だろう。
残念、そう言うしかない。何も打てる手はないのだ。
少しでも王子の噂や伝承を覚えてる人がいればいいんだけど。いないよな、絶対。口頭で語り継がれるものがほとんどだろうし。
あ、マリーさん。あの人に聞いてみたら何かわかるかも。
「じゃあ、今日はこれで。また来ます」
「はい、待っています」
転移魔法を使って王城に戻る。やっぱり便利だな、魔法――――って、目から血が。
やっぱまだ無理か。魔法を使うには苦労がいっぱい。
そういえば、魂が全部戻ってきたら、どうして魔法が使えるようになるんだろう。問題は魔力に対する体なのに。
やべっ、訓練が始まっちゃう。
護衛の訓練が終わったら、モーニングコールというルーティンがある。
ラーファが目を擦りながらファルカスの部屋にやってきた。彼女はいいのだ、しっかり自分で起きれるから。
だけれども、ファルカスは本当に起きない。本当に朝が弱い。前世でもそうだったらしいから、もうそういうものだと割り切っている。
一度、興味本位で休日にファルカスを起こさずそのままにしておいたことがある。結果はどうだ、午前中全てを睡眠に費やしやがった。
ハエ叩きでも何でも持ってきて叩き起こすしかないんだと悟らされた。
べしべしと頭を叩いて、こちょこちょして、髪の毛引っ張って、尻に敷いて、やっと起きた。
「ん、おはよぅ······」
こくりこくりと起き上がったのはいいものの、今にも寝そうである。今度猫じゃらしを使ってみるか。
彼が起きて、俺の顔を見た瞬間、彼の動きが止まった。ボケーっとしたアホヅラである。
「ウリア、どした。頭」
「失礼な」
起きて早々、頭がおかしいとでも? いや、それなりにおかしいかもしれないけど、俺は普通の人間だからね?
ラーファもぼぅっと俺を見つめて、もしかして寝ぼけているのかと疑ったり。
「いや、違う。えと、鏡見てごらん」
鏡? んー、確かに寝癖は酷いかもしれないけど、俺あんまりそんなの気にしないんだよな。
ベッドから降りて、部屋の隅にやられている鏡に向かった。これ、ファルカスも俺も使わないから、ホコリ被ってるんだよな。
えーと、何がどうなってるんだ?
いつも通りの普通の顔、だけど何か違う。あ、角生えてる。
頭の両脇からにょきっと小さい角が生えていた。しかも多分、背中に何かある。
ユリウスさあ、竜がどうとか言ってたよね。魂が戻ってきた影響か? でもどうして······。
待て。もう一度考えよう。俺は魔族と人間の混血だ。そしてセントリア王国の王族、とはなっているらしいが、実際はそうではないだろう。
仮に、父親が魔族だとしよう。まずその時点でダメ。母親でもそう。隠し子ならまだしも、しっかり王子としているのだ。ハーフとかやばいよそれ。
よって、俺は王族ではない。しかし引っかかることがある。竜の血を飲んだ初代国王、だったか。気になる、それ。
そしてオーディンとしての記憶。彼も俺と同じ、魔族と人間のハーフだった。しかも外見に魔族としての特徴も兼ねている。まあ、隠せてたっぽいけど。
アルタイルも長い耳は持っているし、逆に俺がおかしかったのだ。
魂が戻ってきて、魔族らしさが出てきたってことか?
仮説を立てよう。人間に対する異種族の特徴が、魔力によるものである、という仮説を。
確かに魔力は魔族らしさが色濃く出ている。
「背中何だろ」
ファルカスがつんつんと盛り上がった俺の背中を触ってきた。
オーディンとしての記憶をもとに、これは翼だと推測する。しっかり感覚もあるし。
ここで服を脱ぐ、っていうのはダメだよな。ラーファいるし。
「ちょ、ちょ、ちょっと! こっち、皆様こっち来てください!」
ばたばたと忙しく、アルタイルがドアを開けてこっちの部屋に来た。
かなり焦っているが、喜びもある。ファリナが目覚めたか。まあ、原因は呪いだったし、解呪すれば当たり前の話だ。
ところで、呪いってなんだっけ。またオーディンの記憶が混ざって変になりかけた。
俺達は若干急ぎ足でアルタイルの方に向かう。朝っぱらから騒がしいったらありゃしない。
元俺の部屋では、ファリナが起き上がっていた。きょろきょろと周りを見ている。
五歳、六歳のままの姿だな。これはまた、随分と可愛らしい。ファルカスとどこか似ている。しかしファルカスがほんわりとしているのに対し、彼女はしっかりしてそうである。
「ファリナ······」
ファルカスがそう呟いた。
ファルカスとラーファとファリナって仲が良かったんだっけ? 残念ながらラーファはそこら辺は記憶がないみたいだけど。
目覚めて良かったな。もう朝から感動しそう。
でも、そうか。六年分の人生が抜けてるから、その分これからの人生が大変だな。でも命がなくなるよりはまあ、いいか。
解呪には成功したし、記憶の欠如とか言語能力の欠如とかはないと思うんだけど、どうかな。
「私······確かあのババアに······」
·········ん? 今ババアって言った? まさか、元正妃じゃないよな。実の母親だしな。でも記憶はありそうで良かった。
で。翼を確認したいな。隠せるなら隠したいんだけど、できるかな。
ファリナはファルカスとラーファをじっと見た後、自分の手を見て呟いた。
「······なるほど。あの時から五・六年経ったってことなのね」
理解力すげぇ。でも本当に受け入れられるか? 俺だったら何だ夢かってまた寝ると思うんだけど。




