#81 ファルカスが領主になっちゃった話
ファルカスが陛下からお話されたことは二つ。
一つ。現在、領主のいない元リステニア侯爵領の領主をファルカスに指名すること。
二つ。領主にはなるが、学校を卒業するまでは信頼できる大人に任せても良いということ。
なるほど。ファルカスは王位を継承できないのか? 王都の隣という、大事すぎる場所の領主になるのか。
リステニア侯爵領は確か、カーティリスの食料庫とか言われてる場所。農業が盛んで、領地は広いが人口は少ない場所みたいな話を社会科で聞いた。
ファルカスは死んだ顔をしていた。何せ領主だし、責任が重い年齢になってきた。
明日にはパーティーを開くらしい。内乱の収拾もついて、落ち着いてきた頃だからな。
ファルカスは当然出席で、礼服で来いとのご命令だ。国王が執事に目配せすると、用意されてた礼服が渡された。
礼服まで作っちゃったから、何が何でも出席しろ、と。俺にも護衛騎士の制服を渡された。
この六年間、何故渡されなかったかというと、着る機会もないしサイズが合わないまま作っても意味がないかららしい。
俺にまで手を回して、強制出席することになったファルカスは死んだ顔どころか、白骨化する勢いで涙を堪えていた。
ファルカスが枕に顔を押し付けて、欠席する理由をうんうんと考えている。
どう考えても無理だろ。熱でも出ない限り、できるわけがないのだ。
「ウリア王子のお見舞い行こうかな······」
「諦めろ。でも美味しいご飯出るかもよ、パーティーに」
上手いご飯はパーティーでは定番だろう。スイーツなんかもあったりするかな。貴重な果物とかあったりするかも。
ちょっと楽しみになってきたわ。だって俺、貴族のしがらみとかないし。ファルカスの後ろにいるだけでいいんでしょ。
「でもさぁ、兄姉たちに何言われるかわかったもんじゃないし。パーティーする余裕があるなら、もっと防衛費とか国民への福祉とかに使ってほしいよね」
それはわかる。前世では俺もファルカスも一端の国民だったからな。国の中枢にはしっかりしてほしいな。
パーティーってどこからお金出てるかというと、多分国庫だからな。はー、やだやだ。孤児院にもっと寄付してほしいわ。
「明日、今日よりも好きになれない」
替歌にしてはもっといいのあっただろ。まあ、今日はそうかもしれないけどさ。
気持ちを切り替えて、夢では幸せになれることを祈ろう。
「おやすみ、ファルカス」
「おやすみぃ」
ま、何とかなるだろ。
ぱちっと目が覚めた。そこは青々と広がる空に、若々しい緑が咲き誇る、隠された深い深い森。
何だ、夢か。そう思った瞬間、風が俺を置いていくように駆け巡った。
あれ、俺誰だっけ。俺、僕は、ウリア・セントリア。俺は、オーディン? 俺は、ウリア? 白川雷?
ぐしゃぐしゃになった紙を広げるように、俺が誰なのかわかっていく。広がれば広がる度に、誰なのかわからなくなっていく。
夢の中なんて、どうして思ったんだろう。
「オーディン様······? いかがなさいました?」
その声を聞いて、やっと俺が誰なのかが判明した。
声をかけてきたのは若かりし日のクロードだ――――あれ、どうして? どうして成長したクロードを知っているの?
何か、忘れてる? 俺はオーディンで、妖精王で――――あれ、妖精王になんてなってないのに。
首を傾げ、うさぎのように俺の声を待つクロードの姿が、誰かに重なった気がした。
誰だっけ。赤くて、長い髪の、あの子。誰なんだろう。
「オーディン、何かあった?」
思い出せそうなところに、まさに今思い浮かべていた彼女が来た。
でも何か違う。
彼女は金髪の長い髪を風に靡かせ、悠然と俺に近づいてきた。不思議な笑みを浮かべて。
「近づくな――――ッ!」
咄嗟にそう言い放ったのを、俺は後悔した。俺は彼女を知っている、とても。だからこそ傷つけたくなかったのに。
どこかで、彼女を知らない俺がいる。
どこか、それってどこなんだろう。
魔法で花を作って、謝りながら彼女にそれをあげた。
こんな魔法、あったっけ。っていうか俺、魔法を使えなかったような。
どうして? なんでだろう。俺は、どうして、ここにいるんだろう。
ファルカス、ラーファ、どうしていないの? 二人がいなきゃ、俺、また捨てられてしまう。また、一人になってしまう。
あ、あ、俺、どうして、怖がっているんだろう。
感情というものはどこかに追いやったハズなのに。どうして、魂まで削って忘れてはずなのに。どうして、どうして······。幸せを覚えなければ、もっと幸せだったのに。
あ、また死んでいくんだ。




