#78 お見舞いに行った話
一週間、二週間、時は流れていく。その間、王子はずっと学校を休んでいた。色々聞きたいことはあるのだが、何せ休みなら仕方ない。体調不良らしいし。
王子は確か、貴族街のセントリア王国来賓用の館にいるんだっけか。お見舞いも兼ねて、会いに行ってもいいかも。
ユリウスの養子になることが願い、ね。彼に何か吹き込まれたのか、と詰め寄りたくもなるが、その肝心のユリウスから何もないあたり、ただのお願いなのだろう。
「ウリア、何か考えごと?」
いつも通りぼうっとしていたら、ラーファが心配そうに目の前に現れた。学校で二人だけになるのは久しいことだな。
ラーファもねぇ、こんなに立派になっちゃって。最初はおどおどして人とまともに話せなかったのに。
「あぁ、いや。何でもないよ。ウリア王子がちょっと心配なだけ」
「王子かぁ。そうだね、体が弱いって聞いてたけど、大丈夫かな。ねー、ファルカス」
話題はファルカスにまで引火していった。彼も同意見。
そんなこんなあって、お見舞いに行くことになった。どうせ学校帰りは暇なのだし、毎日図書館でぐったりするよりは、お見舞いに行くほうがいいだろ。
お見舞いの品に何か、果物とかか? 王子が好きそうなの、そうだな······。わかんない。から、適当に果物か。
王都の市場で売られていた色どりみどりの果物は、旬が近いのか賑わっていた。
リステニア侯爵及び正妃アリアは、今や処刑待ちのただの罪人に成り果てた。公開処刑ではなく、秘密裏に毒殺するらしい。
侯爵領を誰の領地にするかを、現在検討中とのこと。若くて国王の信頼が厚い高位の貴族になりそうだけど。
捕らえられた侯爵軍は、侯爵領に送り届けている最中だ。幸いなことに、犠牲者は少ない。今後、王国に楯突くことはないだろう。
果物を買い終わり、セントリア来賓用の館に向かう。もう面倒だから大使館でいっかな。いいよね。ちょっと意味違うかもしれないけど。
それにしても、果物の色のセンスいいな。ラーファがほとんど選んでくれてたな。こういうの、本当に尊敬する。
セントリア大使館はこれもまあご立派だった。しかし庭の端々まで管理されていない。
門の前に立つ兵士に事情を説明して中に通してもらう。制服だったのが幸いか。
「「「失礼しまーす」」」
「あ、どうぞ」
ウリア王子の部屋にそろりと入る。彼は驚きもせず、いつも通りの笑顔で迎えてくれた。
彼はベッドで起き上がる体勢を取っていて、隣にはたくさんの本が積み上がっている。
俺は彼に聞きたいこといっぱいあるけど、今日はそれが目的じゃないからな。
ちなみに、ファルカスとラーファとアルタイルには既に王子のことは伝えてある。
「お見舞いに来ました。これ、お見舞いの品です」
ラーファがそう言って果物を、ベッドの横にあった小さなテーブルに置いた。果物、ラーファ、日差し。絵になるわ。
どれどれ、王子はどんな本を読んでいるのかな。えーと、妖精王の物語? 精霊と人間? 妖精王の真実に迫る? 癖のある本読んでんな。
「あ、そうだウリアさん。この前のお願い、考えてくれました?」
「んー、まあ考えはしましたよ。あまり乗り気はしませんけど」
うぅ、このまま忘れてくれれば良かったのに。ユリウスの養子に、か。何と言えばいいのか。思い出したんだ。親が殺された直後、俺を殺そうとしたレイガルドを止めたのは、ユリウスだってこと。
複雑な気持ちだ。もしまた、大事な人が殺されてしまったらと思うと、寒気がする。それに、両親の死んだ顔がフラッシュバックされて、気分が悪くなる。
「ウリア様。その、余命があと二ヶ月って、本当なんですか」
「はい、本当ですよ」
ファルカスが一気に雰囲気を氷のようにした。暗さが少しずつ、室内を埋めていく。
急に話題を変えるな、それに。俺がびっくりだよ。
「何で、黙ってたんですか」
「·········」
ぎゅっと、ファルカスが拳を強く握った。怒り? 悲しみ? 後悔? 何か知らんが、感情が複雑に絡み合っていたのは確かだった。
それに対してウリア王子は、ファルカスの言葉に共鳴するように、何かを言いかけていたが、すぐに口を静かに閉じた。
「話を聞いてくれませんか」
······。しーん。だがその沈黙が、ある意味了承であり、そして拒否でもあった。現実への。




