#77 壊れかけの友の話
咄嗟に剣を抜いたが、あちらさんに敵意はないし、何より最近友になったばかりだ。
ウリア王子だ。彼が、ファルカスを挟んだ向かい側にいた。彼は少し笑ってて、しかし悲しそうに俺を見ていた。
剣をしまいながら、俺は考える。
王子は何故避難していないのか。
「何で避難していないかっていうと、僕は死ぬためにこの国に来たからです」
······そんなハズない。今、俺の心を読んだような言葉。そんな魔法は存在しないが、俺はまだ何も言ってない。
しかも死ぬために来たって何だよ! カーティリスに自殺の名所でもあったか? ないはずだよな。日本じゃあるまいし、自殺者多数の国じゃないんだよ、ここは。
はぁ? もうワケわかんなくなってきた。早く寝たいし、ラーファの様子見もしたい。
「僕はもうそろそろ寿命なんです。でも大丈夫です。まだまだ代わりはいますから」
それは影武者ってことか? それに、話の文脈から受け取ると彼もまた代わりの一人みたいな言い方だ。
寿命って、早くない? だってまだ十二歳で、ちょっと病弱だけど命がどうとかそういうんじゃないでしょ。
ぐるぐると思考の渦にとぐろを巻かれていると、王子から変な音がした。声でもない、しかし普段は聞かないような音が。
まるで、石が鈍く割れたような。
「ほらね、割れた」
ウリア王子は自分を指さしながらそう言った。本当に割れている。目元から首らへんまで、真っ黒な亀裂が現れていた。
笑顔なのが一層不気味だが、それよりもヤバいのは彼の体なのだ。軽いホラーゲームに出てきそうである。
日が沈みかけている。僅かに月が光り出した。半月だった。これから大きくなるだろう、最近まで三日月だった。
ドアが開いて、疲れ果ててふらふらなラーファがその場で倒れた。その後ろにファリナを抱えたアルタイルがいた。
避難が終わり、王都にも活気が戻ってきた。勝利の宴だと、外で騒ぐ声が聞こえる。
「ウリア殿下······?」
ああ、アルタイルも王子を知っていたのか。俺はラーファをおぶって彼女のベッドに寝かせに行った。
頑張ったな。彼女の魔力が全然ない。すっからかんだ。ユリウスめ、無駄に魔力使わせやがって。
アルタイルもファリナを寝かせにいった。明らかに部屋数少ないから、ファリナは俺のベッドに寝ている。ファルカスと俺が同じベッドに寝てるからね。
「八月二十七日、僕の誕生日に僕は壊れます。だから、最後のお願いをしたいんです」
······待って。俺に? お願いって、俺!? おいおいおい、ちょ待てよ。俺なのぉ!?
八月二十七日、か。二ヶ月と少し。夏休み真っ只中だな。それまでに死ぬ、か。
え、余命二ヶ月ちょい? 先に言えって。そしてゆっくり休めよ。
あまり乗り気にはなれないが、余命が少しならお願いを聞いてやってもいいか。
「ふふ、ありがとうございます」
まただ。心読まれてる? でも魔力の気配もしないし。はぁ?
勘で言ってるってわけじゃないだろ。どういうことだ。由々しき事態。
にっこり笑顔で嬉しそうな王子は、学校の時とまた違う、暗さのある雰囲気を纏っていた。
「お願いって、何ですか」
「ユリウスさんの養子になってほしい。それが願いです。あ、僕が壊れてからでいいですよ」
辺りは暗くなっていき、影は伸びていく。眠気覚ましの王子の明るい表情も、次第に陰ってきていた。
ユリウスの養子、か。別に嫌というわけでは、いや嘘。普通に嫌だ。だって、親殺した奴の仲間だぞ。無理。
それに、王子がいなければ意味がないだろ。王子と俺を見分けるために里親探ししてたのに。
意味がわからないな。眠いし。
「あ、眠いですか。じゃあ今日はこれで。すみません、ちょっぴり魔力貰えます?」
「······魔力ですか。どうぞ」
ぱっと暗いものを散らしたかのように、いつも通りの笑顔に王子は戻った。
魔力? 他人の魔力を貰いたいなんて変なの。だが余命僅かな奴には甘くなるのが前提。訓練の一つだと思って俺は魔力を差し出した。
王子が俺のそれに触れると、彼の体に入っていたヒビが全て消えていった。
俺の魔力が全て、彼のものとして吸収されていった、ということだろうか。ともかく考える気力すらなく、風呂入って寝た。




