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#76 国王夫婦の喧嘩の話

 しんと静まり返る中、歓声が王都を包んだ。恐らくマリーが敵将を捕らえて戻ってきたのだろう。

 万事解決、とはいかないけど、一件落着だな。


「あなたが悪いのよ。いつだって私を悪者にして! 私は! 金と権力だけじゃない!」


 アリアがそう叫ぶと、ファルカスが超真面目な顔をして俺に目配せしてきた。いや、俺は金と権力だけの女として認識してたけど。

 違うの? って感じだけど、アリアの様子からすると自認は違うみたいだな。鏡見たほうがいいと思う。


「お前は嫉妬深くて、他の令嬢に嫌がらせばかりしてただろう! 悪者にされない理由がない!」

「私は他の令嬢に注意しただけよ! 何ですぐそうやって、大袈裟に言われなきゃいけないの!?」

「明確な、嫌がらせをしたという証拠があるからだ!」

「いつもいつもあなたは! 他の女の話ばかり信用して! 私の話になんて一つも耳を持たなかったくせに! あいつらに証拠があるなら、私にだって他の令嬢の嫌がらせの証

拠を持ってきて差し上げるわ!」


 ちょっとした夫婦喧嘩になってしまったようだ。なるほどね。でもアリアの信用がないのは、多分あからさまな嫌がらせだったからだね。

 他の令嬢の嫌がらせは、きっと隠すのが上手なやつだったんだよね。多分。

 口論はつづくーよー、どーこーまーでーもー。できれば長くてあと十分くらいで終わらせていただきたい。


「······どうして、どうして私を愛してくれなかったの!? 幼い頃から一緒にいたのよ、私は! あんな、ケイシーみたいなぽっと出の女より、私のほうがあなたを愛していたのに!」


 何か違う話になってきた。愛のお話? ちょっと胸焼けするわ。

 ケイシーって誰だって思ったけど、ファルカスが反応しているあたり、彼の母親かな?

 でも辛いよな、うん。なんかだんだんアリアに同情してきた。君、負けヒロインなんだね。いや、悪役令嬢と言ったほうがいいか。


「ケイシーはお前と違って他者への優しさがあったからだ!」

「他者への優しさなんて、私だってあったわよ!」


 嘘つけい。あるわけないやんけお前。流石にこれはドン引きだわ。


「でもそれをしても、あなたは私を愛してはくれなかった! 見向きもしてなかったくせに! 私に優しさがないなんてよく言えた口だわ!」


 国王も言い返す言葉が見つからず、気づけば静けさが埋め尽くされていた。

 うるさかったから良かったけど、結局この夫婦喧嘩はどっちが悪いの? どっちも悪いにするのが妥当だが、しかし俺の心に従うとアリアが悪いな。

 ぼろぼろと、アリアは泣いていた。あのケバいケバブみたいな態度はどうした?


「おーい。敵将を捕らえたぞー」


 マリーの能天気そうな声が聞こえてきた。振り向いて彼女を見ると、髪の毛を掴まれたシロヒゲのじいさん。首から下はロープでイモムシ状態だ。

 彼女はどうやら暇を持て余していたようである。今だとばかりに国王はさっさと別室へ退去していった。

 ファルカスも清々したと言わんばかりの表情である。

 死体の片付けなどの後処理が間もなく始まった。死体は纏めて燃やして埋葬するが、彼らにも家族や恋人がいる。だから大事そうな所持品を取って送るのだ。

 まだ怪我人が全員治癒されたわけではない。なので少しでも生きてたら早めに治癒魔法をかけてやらないと。

 スピーディーかつ正確に死体かどうか見極めないと人の命を奪ってしまう。


「ウリアくーん。無事で良かったー」


 ユリウスが大怪我を負って担架で運ばれていった。元気だな。あいつ、六年前も大怪我負って迷惑かけやがったよな。何をどうしたらそんなに怪我するんだよ。

 彼を見て、ラーファの苦労がわかった気がした。ファルカスは疲労が溜まっていたのか、ふらっと倒れてしまった。俺は彼を背負い、王城に運び込む。

 まったく、俺がいなかったら正妃に殺されてたかもな。ま、今はもう正妃じゃないけど。

 あんなに偉ぶってたアリアも、もうすっかり国家反逆罪かー。死刑、か。まさかこんなになるなんてね。

 すやすやと安らかな寝息を立て始めたファルカスに毛布をかけてやった。


「ご無事で何よりです、ウリアさん」


 あらびっくり。足音もなかったのに、急に人が現れた。ドアを開ける音もしなかった。だが転移魔法だったら絶対気づく。

 最初からいた、なんて、いたら切り捨てているわ。

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