#71 魔法が使えた話
ファリナが目を覚さない。かれこれ一週間が経とうとしている。ラーファがほとんど世話をしているが、このままだと命が危ないな。特に食という面で。
既に治癒魔法で体内の傷も治っているハズ。そのうち目覚めると思ったんだけどな。
アルタイルがファリナを護衛している。国王にはいっぱい護衛がいるからな。一人くらい欠けても問題ないということだろう。
彼がずっといるから、たまに一緒にユリウスからもらった本を読んでいる。そのついでに彼の苗字も聞いてみた。
「え、苗字? 僕は陛下につけてもらったけど。でも今はそういうのできないもんね」
そう、この国では勝手に自分で苗字をつけちゃいけないのだ。何故かというと、そうしたら貴族や王族の偽者が次々と生まれてしまうから。
面倒な禁止令だが、日本でもほいほい苗字を変えることができたら名前負けがいっぱい生まれるだろうからな。
誰かに養子を取ってもらうか、孤児院に戻るくらいしかないのかな。
それよりも、大事なことがある。
そう、本だ。魔力について凄く詳細に書かれている本で、それをもとに魔力の使い方が書かれているからわかりやすい。
入門編として魔力をまず体の外に自然に出すというものがあるが、声を出すためのアーティファクトで日常化されてるせいか、簡単にできた。
魔力っていうのはいわば、血液みたいに全身を巡っている。魔力、もとい魔法を使うとその巡りの速さ、勢いが増す。運動するときに鼓動が早くなるのと同じ。
ただ、魔力は実態がない。だからこそのものだが、混血のように体が弱いくせに魔力にクセがある奴は、魔力を使うとき、つまり巡りが盛んになったときに無造作に体内がぼろぼろになってしまう。
しかしそもそも巡っているわけで、ぼろぼろになるのは早いか遅いかの話だけど。
それを防止するには魔力の巡りをそのままにして体外に出すしかない。それを応用して魔法を使うってわけだ。
一度に少ししか魔力が使えないが、体が滅びるよりはマシだ。
とりあえず実践!
――――ってことで、護衛の訓練で実験だ!
まずは魔力だけを出す作業だ。これは簡単だったが、どんどん一度に出す量を多くする必要がある。それが難しい。
アルタイルはまだ少しずつ魔力を出すところだ。
ゆっくり、ゆっくり。魔力を使うという意識を持たずに魔力を使う。
よしよし、できてるよ。また魔法が使えるようになったら、まずは収納魔法だな。入れっぱなしにしすぎている。
手の平の上に魔力を集めるイメージで、魔力を外に出す。次第に手が痺れてきた。やめどきか。
あれ、もしかして集めた魔力を使って魔法使えるんじゃね。
一回出せばそれっきりだし。時
間はかかるけど魔法が使えるかも。今出した魔力は収納魔法が使えるくらいにはある。
やるしかないっしょ。
イメージ。五年ぶりか、魔法使うの。収納魔法を発動! お、いけた! よし、この魔法陣の中に手を突っ込んで······できた!
嬉しぃー。魔法が使えた! このまま練習していけば、きっと魔法がもっと使えるようになる!
「ぅうー、難しいー」
ふっ、剣はアルタイルに勝てないが、魔力は勝ったな。やっぱりアーティファクトには感謝でしかないよ。
護衛の訓練終了の合図が聞こえてきた。アルタイルは物足りなそうだが、また次にということで。
最近、違和感がある。それの正体は暴けていないが、不思議な感覚だ。魔力を使い始めたから、という理由でカバーはできているのだが、違和感は拭えないまま、一ヶ月が過ぎた。




