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大学の図書館は苦手だ。
つむぎは一階の検索用パソコンで目的の本を検索すると、なるべく足音を立てないように二階へ上がった。
朝イチなだけあって、人影はまばらだ。だが、そのせいで、いつもよりも空気がピンと張っている気がした。
つむぎはそっと書架へと向かった。
早く本を見つけて、ここから出よう。
背表紙のラベルを左から順に見る。
あ、あった。
お目当ての『日露戦争史』だ。タイトルを確認して、本を抜き取った。
ちょうど書架の前を通った碧人と目が合い、つむぎは軽く会釈をした。
「今日は近現代史? 珍しいところにいるね」
碧人が小さな声で囁いた。
「日露戦争の本を探してて」
辺りを窺いながら答えたつむぎは、本を碧人に見せた。
「え? どうして?」
「古文書学実習で、関係する史料の調査をするので、予習しとこうと思ったんです」
「へぇ。偉いね」
「図書館ではお静かにお願いします」
いつもの司書さんに注意され、つむぎは肩をすくめた。彼女は、どんなに小さな声でも聞きつけて注意する。
全然姿を見かけなかったのに。どこにいたんだろう?
つむぎは愕然として、司書が立ち去った方を見つめた。
碧人は、「じゃ」と口だけを動かして、隣の近世史の棚へ入っていった。
梅雨の晴れ間というのだろうか。図書館の外には雲一つない青空が広がっていた。湿気を含んだ空気が体にまとわりつく。上からはもちろん、足元からも熱が上がってきているようだ。
つむぎは日傘を広げた。
図書館から、つむぎの在籍している史学部棟までは近いが、それでも肌がジリジリと焼ける。
学生研究室のドアを開くと、ムッとした熱気を浴びた。薄暗い室内には、珍しく人の気配がない。
電気とエアコンのスイッチを入れて、部屋の中に入った。
つむぎは、院生になった時に与えられた自分の席についた。トートバッグの中から水筒と借りた本を出して、早速開いた。
……難しい。
わざわざ新書を選んだのに。
三行目で音を上げ、パタンと本を閉じた。
「はよーっす」
洸太郎が、棒付きの飴を咥えながら部屋のドアを開いた。
「洸太郎くん、おはよう」
「つむぎセンパイ、はよーっす。この部屋あちーっすね」
パタパタと手で仰ぎながら近寄ってきた洸太郎は、つむぎの手の本に目を留めた。
「何読んでんっすか?」
「日露戦争の本を読んでるの。今度の古文書学実習の予習をしておこうと思って」
「さっすがセンパイ、ガンバリ屋さん!」
「ううん。そんな事ないよ。基本的な知識がないから難しくて」
「うーん……」
棒付きの飴を手に持った洸太郎が、何かを考えるように腰に手を当てた。
「オレ、もしかしたら説明できるかもっす」
「本当!? じゃあ、基本的なところを教えてくれるかな?」
つむぎはパッと顔を綻ばせた。
「もちっす!」
洸太郎はグッと親指を立てた。




