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行李  作者: 長廻三月
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8/21

1-8

 あれは、何だったんだろう……


 学生研究室までの廊下を、つむぎはぼんやりと歩いていた。


 白昼夢だとしたら、いやに現実的だったし……

 猫になって、明治三十七年にタイムスリップしたのかな?

 ……まって。そんなことってある?


 つむぎは研究室のドアの前で立ち止まった。左上の表示には、「日本史学生研究室」と書かれていた。


 もし、この先が過去に繋がっていたら……


 ガラススリットから中を覗き込んだ。

 共用のテーブルで、日菜と碧人が楽しそうに何かをしている。


「よし!」

 つむぎは取っ手を掴んで右に引いた。


「ただいま」

「あ、おかえり」

「おかえりなさーい」

 こちらを向いて手を振る碧人と日菜に、つむぎの肩の力が抜けた。


「センパーイ、ちょっと聞いてくださいよ!」

「うん」

 つむぎは日菜の隣に座った。


「オセロ! 碧人先輩に全っ然勝てないんですよ。今日こそ絶対に勝とうと思ったのに!!」

「日菜は弱いからなぁ」

 碧人が笑った。


「あれ? 先輩、何だか元気がないですね?」

「うん。ちょっとね」

「論文のことで、また何か言われたんですか?」

 日菜と碧人が心配そうにつむぎを見た。


「違うの。さっき目眩がしたから……でも、もう大丈夫」

「無理はしないでくださいよ?」

 日菜がつむぎをじっと見た。


「本当にもう大丈夫だから……日菜ちゃん、一緒にオセロしよ?」

 つむぎがそう言うと、日菜がホッとしたように笑った。


「よし! つむぎ先輩には負けませんよ」

「あ、じゃあその次俺とね」

 碧人が手を挙げた。

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