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慶一郎に抱えられたつむぎは、正人と同じくらい硬い表情を浮かべていた。
前に座るのは、少し赤い顔をした壮年の男性だ。眉間に深い皺を寄せている。二人と一匹がここへ来てから、一言も発していない。
この人がお父さん……慶一郎さんに似ているけど、雰囲気が全然違うのね。
「私どもがお願いできる立場ではありませんが、どうかこの猫を飼ってもらえないでしょうか?」
つむぎを抱えたまま、慶一郎が頭を下げた。それと同時に、正人も黙って頭を下げた。
父親の目が、つむぎに向けられた。
……怖い。
つむぎは首をすくめた。
「何かと思えば、そんなことか」
ため息混じりに首を振って、父親が言った。
うわぁ。威圧感のある声。
つむぎは手に少し力を込めた。
慶一郎の手が、背中を優しく撫でる。
「……まあいい。好きにしろ」
「ありがとうございます。」
二人はほっとしたように顔を見合わせた。
部屋についてすぐに、慶一郎はつむぎを畳の上におろした。さっき台所で見つけた煮干しを乗せた冷やご飯を新聞紙の上に置いた。
「ミケ、よかったなぁ」
正人が顔をつけんばかりにつむぎを撫でた。
「名前、もうつけたのか」
「うん! 三毛猫だからミケ!」
「そうか。……ミケ、これからよろしくな」
正人の隣で胡座をかいた慶一郎が、声を和らげた。
ランプのオレンジ色の光が消えて、ふわっと目の前が明るくなった。
「すごい風でしたね」
柴田が窓を閉めた。
「えっ?」
つむぎは辺りを見回した。
研究室だ。手には青白い封筒を持っていた。
帰ってきたの……?
足の力が抜けて、その場に座り込んだ。
「泉さん?……どうしたんですか?」
驚いた柴田が隣に膝をついた。
「え……あ……すみません。……大丈夫です」
つむぎは目をウロウロさせながら答えた。
「立てますか? 誰か呼んで来ましょうか?」
「いえ。大丈夫です。少し目眩がしただけですから」
つむぎは、なるべく自然に見えるように答えた。




